孤独な公女~私は死んだことにしてください

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
142 / 219

6-19 訪ねて来た人 1

しおりを挟む
 休日、午前9時過ぎ――

眩しい朝日が騎士団施設の中庭に降り注ぐ中、メイド服姿のサフィニアがいた。
サフィニアはじょうろを両手で支えながら、花壇の花に水を上げている。

麦わら帽子を目深にかぶったサフィニアの長い髪が太陽の光に照らされて光り輝いていた。

鼻歌を歌いながら花々に水を上げているサフィニアは楽し気で、穏やかな時間が流れていた。

その時。

「こんにちは、サフィニア様。今日も良い天気ですね」

背後から声をかけられ、振り向くとセザールが立っていた。
太陽の光を背にしたセザールは、いつも通り口元に笑みを浮かべている。
セザールは王宮での業務服ではなく、淡いベージュのシャツに濃紺のベストを重ねをジャケットを羽織っていた。

「セザール、どうしたの? 今日は、お仕事はお休みの日でしょう?」

「はい、そうです。なので今日はサフィニア様に城下町を案内してあげようかと思って伺いました。よかったら僕と一緒に出掛けませんか?」

突然の誘いに戸惑うも子供だった頃、セザールと町へ買い物に行った記憶が蘇る。

「でも私一人では決められないわ。だって、基本的にメイドにお休みは無いもの。メイド長のマーサさんに尋ねないと」

「分かりました。では御一緒にマーサさんの処へ伺いましょう」

「……分かったわ」

サフィニアはほんの少しだけ目を伏せて頷いた。

そこで二人は一緒にマーサの元へ向かった――


****

 騎士団施設の一角にメイド長マーサ専用の小部屋――管理室があった。
木の棚には帳簿が並び、窓から吹き込む風がカーテンを揺らしている。

マーサは机に向かい帳簿をめくっていたそのとき。

――コンコン

部屋にノックの音が響いた。

「どうぞ」

すると扉が開き、セザールが姿を見せる。
その後ろには、帽子を胸元で抱えたサフィニアが立っていた。

「お忙しいところ、すみません。少しだけお時間をいただけますか?」

セザールは丁寧に頭を下げ、管理室に入って来た。

「……失礼いたします」

サフィニアもついて来たが、視線は伏せられ、どこか居心地悪そうにしている。
セザールはマーサの前に立つと、早速切り出した。

「メイド長、今日は休日ですし天気も良いので……ソフィアさんを少し城下町へ案内できればと思いまして、許可をいただきに参りました」

「セザールさんが、ソフィアちゃんを?」

突然の申し出にマーサは目を丸くし、眉を上げる。
その後ろではサフィニアが帽子を抱えたまま、気まずそうに目を伏せている。
マーサの視線が向けられると、さらにサフィニアは肩をすぼめた。

「実はソフィアさんとは、以前から少し話す機会があったのです。ソフィアさんはまだ一度も城下町を訪れたことが無いそうですね。いつも真面目に働いているので、時にはお休みも必要ではないでしょうか? 今日は休日なので、メイドの仕事もあまりないですよね? そこでソフィアさんに町を案内してあげたいと思ったのです。外出許可をいただけないでしょうか?」

セザールの話をマーサは腕を組み、じっと聞いていた。
サフィニアは何も言わず、ただ視線を床に落としたまま。
するとセザールが続ける。

「もちろん、僕が責任を持ってソフィアさんをお連れします。無理にとは言いません。ですが、ソフィアさんが少しでも外の空気に触れられるなら、それだけでも意味があると思うんです」

少しの間マーサは沈黙していたが……。

「……そうね。確かにソフィアちゃんは真面目すぎるくらいで、息抜きも必要かもしれないわね。でもセザールさんが一緒なら安心ね」

立ち上がったマーサは棚へ向かい、引き出しの奥から布包みを取り出すとサフィニアに声をかけた。

「ソフィアちゃん」

「は、はい!」

サフィニアは顔を上げた――

しおりを挟む
感想 386

あなたにおすすめの小説

恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ

恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。 王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。 長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。 婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。 ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。 濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。 ※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

私たちの離婚幸福論

桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

【改稿版】光を忘れたあなたに、永遠の後悔を

桜野なつみ
恋愛
幼き日より、王と王妃は固く結ばれていた。 政略ではなく、互いに慈しみ育んだ、真実の愛。 二人の間に生まれた双子は王国の希望であり、光だった。 だが国に流行病が蔓延したある日、ひとりの“聖女”が現れる。 聖女が癒やしの奇跡を見せたとされ、国中がその姿に熱狂する。 その熱狂の中、王は次第に聖女に惹かれていく。 やがて王は心を奪われ、王妃を遠ざけてゆく…… ーーーーーーーー 初作品です。 自分の読みたい要素をギュッと詰め込みました。

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした

凛蓮月
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】 いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。 婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。 貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。 例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。 私は貴方が生きてさえいれば それで良いと思っていたのです──。 【早速のホトラン入りありがとうございます!】 ※作者の脳内異世界のお話です。 ※小説家になろうにも同時掲載しています。 ※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)

心の中にあなたはいない

ゆーぞー
恋愛
姉アリーのスペアとして誕生したアニー。姉に成り代われるようにと育てられるが、アリーは何もせずアニーに全て押し付けていた。アニーの功績は全てアリーの功績とされ、周囲の人間からアニーは役立たずと思われている。そんな中アリーは事故で亡くなり、アニーも命を落とす。しかしアニーは過去に戻ったため、家から逃げ出し別の人間として生きていくことを決意する。 一方アリーとアニーの死後に真実を知ったアリーの夫ブライアンも過去に戻りアニーに接触しようとするが・・・。

【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」 そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。 彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・ 産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。 ---- 初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。 終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。 お読みいただきありがとうございます。

処理中です...