孤独な公女~私は死んだことにしてください

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

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6-43 夕焼けの下で

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(ど、どうしてアドニス様がここにいるの……?)

今までずっと王宮騎士団施設に姿を見せなかったアドニスが、何故今ここにいるのかサフィニアは分からなかった。
驚きと戸惑いが入り混じった表情で見つめる。

「お祭りは楽しめたかい?」

アドニスは穏やかな笑みを浮かべながら、ゆっくりと近づいてきた。

「ご機嫌麗しゅうございます、殿下。まさかこちらにいらっしゃるとは思いもしませんでした」

サフィニアは恐縮しながら挨拶すると、アドニスは少しだけ眉根を寄せた。

「ソフィアさんの帰りを待っていたんだけど……殿下……か。いつものように名前で呼んでもらえないかな?」

「……そ、そんな恐れ多い……」

サフィニアは俯きながら答えた。
距離を保とうとするサフィニアの態度に、アドニスは言葉を重ねる。

「頼むから……そんな距離を空けるような態度は取らないでくれないかな?」

「は、はい……」

顔を上げると、アドニスの顔には寂しげな表情が宿っている。

(え……? どうしてそんな表情を……?)

その理由が分からず、サフィニアは戸惑うも……返事をした。

「分かりました、御命令とあれば……アドニス様と呼ばせていただきます」

「別に命令とかいう訳じゃないんだけどな」

ポツリと小さく呟いたその言葉は、サフィニアの耳に届いた。
けれど、あえて聞こえないふりをした。
……そうしなければならない気がしたからだ。

「それで、私を待っていたということですが……」

「うん、ソフィアさんに謝っておきたくてね」

「謝る? 何のことでしょう?」

「今日、エリーゼがソフィアさんに失礼なことを言っただろう? 彼女の代わりに謝りたくて。本当に……申し訳なかった」

アドニスは頭を下げた。
その言葉に、サフィニアは目を見開く。

「そ、そんな! 殿下に謝っていただくなんて……恐れ多いです。どうぞ顔を上げてください!」

慌てるサフィニアに、アドニスは顔を上げた。

「アドニスだよ」

「え……?」

「殿下じゃなく、アドニス」

「ア……アドニス……様」

するとアドニスの顔に笑顔が浮かび、サフィニアに一歩近づいた。

「あ、あの……?」

戸惑うサフィニアの眼前で止まると、アドニスはポケットから小さな箱を取り出した。

「これ……今日のお詫びに受け取ってくれないかな?」

蓋を開けると、そこには貝を加工したイヤリングが入っていた。
淡い光を放つその装飾は、素朴ながらも上品で、サフィニアの好みのアクセサリーだった。

「これは貝を加工したイヤリングだよ。ソフィアさんに似合うと思って」

「そ、そんな! 受け取れません!」

慌てて首を振ったが、アドニスは引かない。

「いいから貰ってくれないか? これは女性向だから俺が付けるわけにはいかないんだよ」

真剣な表情で妙な台詞を言うアドニスに、サフィニアは思わず笑ってしまった。

「フフ……アドニス様は本当に面白い方ですね」

すると、アドニスはほっとしたように言った。

「良かった……ようやく笑ってくれた」

「え?」

顔を上げると、アドニスは優しい笑顔でサフィニアをじっと見つめている。

「今は忙しくて、こちらに中々顔を出すことが出来ないけど……戻ってきたら、また色々話をしよう?」

「……はい」

つい、頷いてしまうサフィニア。

「良かった、そう言ってもらえて。それじゃ俺はもう行くよ。またね」

アドニスは手を振ると、サフィニアに背を向けて城へ向かって去って行った。
そしてじっとその背中を見つめるサフィニア。

手の中の小箱をそっと握りしめながら、名前を口にする。

「アドニス様……」

ポツリと呟いたその声は、夕暮れの空に溶けていく。
サフィニアの頬は、夕日で赤く染まっていた――


****

 その様子を物陰から見つめる影があった。

路地裏の陰に身を潜めていたのはエリーゼ。
サフィニアの姿をじっと見つめるその瞳は、憎悪で燃えていた。

「何よ、あのメイド……」

エリーゼは悔しそうに呟いた。

「男二人を手玉に取るだけじゃ飽き足らず、よりにもよって婚約者候補の私を差し置いて、アドニス様と親し気に話をするなんて……おまけにプレゼントまで受け取るなんて……」

その言葉には、嫉妬と怒りが滲んでいる。

「ただのメイド風情のくせに生意気な……!」

エリーゼは爪を噛んだ。

「本当に……どこまでも邪魔な存在ね……」

その呟きは誰にも届かない。

夕暮れの空は……徐々に闇へと染まり始めていた――
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