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8-5 旅立ち
――翌日、5時半。
サフィニアはいつもと同じ時間に起床した。
顔を洗い、髪を整え、いつものように掃除や炊事の仕事をこなす。
けれど心の中では「今日が最後」という寂しい気持ちで一杯だった。
(この施設にいられるのも……今日で最後なのね……)
そう思うたびに胸が締め付けられる。
食堂では仲間たちと楽しげに会話を交わしながら朝食を取った。
誰にも何も気づかれないように、悲しい気持ちを押し殺してサフィニアはいつも通りの笑顔を見せた。
マーサも騎士団の仲間も、サフィニアが今日去ることを誰も知らない。
(ごめんなさい……本当は皆さんに、お別れを言いたいのに……)
胸の奥で涙を堪えながら、サフィニアは穏やかな笑顔で振る舞い続けた……。
****
――11時少し前。
サフィニアは詰め所にいるマーサのもとへ顔を出した。
「マーサさん、縫い糸が無くなりそうなので、町へ行って買ってきます」
「あら? その足で行くのは無理じゃないの? 糸なら他のメイドに買いに行かせるわよ」
マーサは松葉杖をついたサフィニアを見つめる。
「いいえ、大丈夫です。それに、レオンさんが荷馬車で迎えに来てくれることになっているんです」
平静を装って返事をするが、心臓は今にも口から飛び出しそうだった。
「そう? レオンさんの荷馬車に乗せてもらえるのね? それなら安心ね。分かったわ、行ってらっしゃい」
「はい、行ってきます」
サフィニアは会釈すると、詰め所を出て行った。
その後姿を見つめながらマーサは首を捻る。
「……ソフィアちゃん、リュックを背負っていたようだけど……他に何か買うのかしら?」
****
「お待たせしました、レオンさん
騎士団施設の戸口の前では、既に荷馬車の御者台に乗ったレオンが手を振っていた。
彼が手配した荷馬車は立派な幌がついており、雨風をしのげる造りになっている。
その荷馬車は座り心地の良さそうなソファまで用意されていた。
「おはようございます、サフィニア様」
御者台から降りたレオン。
周囲に人影が無いことを確認すると笑顔で挨拶してくる。
「おはようございます、レオンさん」
「お荷物は……それだけですか?」
レオンはサフィニアが背負っているリュックを見つめた。
「はい、殆ど私物は無いので。……二か月しかいませんでしたから」
その声は酷く寂しげにレオンは聞こえてしまった。
「そうですか……。では参りましょう。あの……サフィニア様、少し失礼いたします」
「え? あ!」
レオンはサフィニアを抱きかかえると、荷馬車に運んでソファに座らせた。
「……ありがとうございます、レオンさん」
「い、いえ。お礼なんて……そんな」
レオンの顔が赤く染まる。
「でも驚きました。まさか馬車にソファが積んであるなんて、思いもしませんでしたから」
「はい。少しでもサフィニア様の旅が快適になれるように用意させていただきました。いざとなれば、そのソファでもお休みになれるようにブランケットもあります。あ……で、でもなるべく野宿はしないように避けますので、ご安心ください」
「ありがとうございます、レオンさん」
笑顔で礼を述べるサフィニア。
「そ、それではそろそろ参りましょう」
「はい」
レオンは御者台に乗ると、手綱を握りしめて馬を走らせ始めた――
ガラガラと音を立てて荷馬車が走り出すと、中庭で剣術の訓練をしている騎士たちの姿が見えた。
「……騎士の方々だわ……」
サフィニアがポツリと言う。
「本日、騎士の方々と何か言葉は交わされたのですか?」
「……いいえ、何も。お別れを言うことが出来ませんから」
「サフィニア様……」
レオンにはサフィニアの顔が酷く寂しげに見えた。
「でも、セザールにだけは顔を見せるべきだったかも……」
するとレオンがすかさず答えた。
「セザール様なら今不在なので、お伺いしても会うことが出来ませんよ」
「え? そうだったのですか?」
「はい、少しの間留守にしますと教会にいらしたのです」
「そうだったの……」
ポツリと呟くサフィニアは後ろを振り返ると、騎士団施設が後ろに見える。
(さよなら皆さん。きちんとお別れを言えずにごめんなさい……どうか、お元気で‥…)
サフィニアは心の中で別れを告げた。
その瞬間。
強い風が吹きつけ、サフィニアの銀髪が風でなびく。
馬車の車輪の音が遠ざかるにつれ、騎士団施設は次第に小さくなっていった――
サフィニアはいつもと同じ時間に起床した。
顔を洗い、髪を整え、いつものように掃除や炊事の仕事をこなす。
けれど心の中では「今日が最後」という寂しい気持ちで一杯だった。
(この施設にいられるのも……今日で最後なのね……)
そう思うたびに胸が締め付けられる。
食堂では仲間たちと楽しげに会話を交わしながら朝食を取った。
誰にも何も気づかれないように、悲しい気持ちを押し殺してサフィニアはいつも通りの笑顔を見せた。
マーサも騎士団の仲間も、サフィニアが今日去ることを誰も知らない。
(ごめんなさい……本当は皆さんに、お別れを言いたいのに……)
胸の奥で涙を堪えながら、サフィニアは穏やかな笑顔で振る舞い続けた……。
****
――11時少し前。
サフィニアは詰め所にいるマーサのもとへ顔を出した。
「マーサさん、縫い糸が無くなりそうなので、町へ行って買ってきます」
「あら? その足で行くのは無理じゃないの? 糸なら他のメイドに買いに行かせるわよ」
マーサは松葉杖をついたサフィニアを見つめる。
「いいえ、大丈夫です。それに、レオンさんが荷馬車で迎えに来てくれることになっているんです」
平静を装って返事をするが、心臓は今にも口から飛び出しそうだった。
「そう? レオンさんの荷馬車に乗せてもらえるのね? それなら安心ね。分かったわ、行ってらっしゃい」
「はい、行ってきます」
サフィニアは会釈すると、詰め所を出て行った。
その後姿を見つめながらマーサは首を捻る。
「……ソフィアちゃん、リュックを背負っていたようだけど……他に何か買うのかしら?」
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「お待たせしました、レオンさん
騎士団施設の戸口の前では、既に荷馬車の御者台に乗ったレオンが手を振っていた。
彼が手配した荷馬車は立派な幌がついており、雨風をしのげる造りになっている。
その荷馬車は座り心地の良さそうなソファまで用意されていた。
「おはようございます、サフィニア様」
御者台から降りたレオン。
周囲に人影が無いことを確認すると笑顔で挨拶してくる。
「おはようございます、レオンさん」
「お荷物は……それだけですか?」
レオンはサフィニアが背負っているリュックを見つめた。
「はい、殆ど私物は無いので。……二か月しかいませんでしたから」
その声は酷く寂しげにレオンは聞こえてしまった。
「そうですか……。では参りましょう。あの……サフィニア様、少し失礼いたします」
「え? あ!」
レオンはサフィニアを抱きかかえると、荷馬車に運んでソファに座らせた。
「……ありがとうございます、レオンさん」
「い、いえ。お礼なんて……そんな」
レオンの顔が赤く染まる。
「でも驚きました。まさか馬車にソファが積んであるなんて、思いもしませんでしたから」
「はい。少しでもサフィニア様の旅が快適になれるように用意させていただきました。いざとなれば、そのソファでもお休みになれるようにブランケットもあります。あ……で、でもなるべく野宿はしないように避けますので、ご安心ください」
「ありがとうございます、レオンさん」
笑顔で礼を述べるサフィニア。
「そ、それではそろそろ参りましょう」
「はい」
レオンは御者台に乗ると、手綱を握りしめて馬を走らせ始めた――
ガラガラと音を立てて荷馬車が走り出すと、中庭で剣術の訓練をしている騎士たちの姿が見えた。
「……騎士の方々だわ……」
サフィニアがポツリと言う。
「本日、騎士の方々と何か言葉は交わされたのですか?」
「……いいえ、何も。お別れを言うことが出来ませんから」
「サフィニア様……」
レオンにはサフィニアの顔が酷く寂しげに見えた。
「でも、セザールにだけは顔を見せるべきだったかも……」
するとレオンがすかさず答えた。
「セザール様なら今不在なので、お伺いしても会うことが出来ませんよ」
「え? そうだったのですか?」
「はい、少しの間留守にしますと教会にいらしたのです」
「そうだったの……」
ポツリと呟くサフィニアは後ろを振り返ると、騎士団施設が後ろに見える。
(さよなら皆さん。きちんとお別れを言えずにごめんなさい……どうか、お元気で‥…)
サフィニアは心の中で別れを告げた。
その瞬間。
強い風が吹きつけ、サフィニアの銀髪が風でなびく。
馬車の車輪の音が遠ざかるにつれ、騎士団施設は次第に小さくなっていった――
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⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。視点が頻繁に変わります。