孤独な公女~私は死んだことにしてください

結城芙由奈@コミカライズ連載中

文字の大きさ
198 / 271

8-8 港町ヴァル

 その日の午後――

二人は小さな宿場町を散策した。
市場を見て回り、夕陽に染まる海を高台の上から眺める。

サフィニアは潮風に銀の長い髪をなびかせながら、久しぶりに気持ちが上向きになるのを感じた。

「とても素敵な場所ですね。レオンさん、ありがとうございます」

「いえ、そんな。でも、そう言っていただけて嬉しいです。それではそろそろ宿屋に戻りましょうか?」

「はい、そうですね」

「では、行きましょう」

サフィニアを見つめるレオンの頬は……夕日で赤く染まっていた――


宿屋に戻った二人は、ささやかな食事を楽しんだ。

そして、その夜。
サフィニアは波の音に包まれながら眠りに就いたのだった……。


****

――翌朝

ガラガラガラガラ……

青空の元、荷馬車は丘陵を越えて走り続ける。

やがて太陽が真上に上る頃、煉瓦造りの町並みが2人の視界に広がった。

白い壁に赤い屋根の家々が連なった街並み。
大通りには辻馬車が行き交い、汽車の汽笛の音が遠くから聞こえている。

港には帆船や小型商船が停泊し、荷を積み下ろす人々の声が響いていた。

「ここがヴァルの町ですよ」

御者台からレオンが笑顔で振り返る。

「……王都ほどではないけれど、賑わっていますね」

サフィニアは荷台から身を乗り出し、活気ある通りを見渡した。

「はい、ここは中々大きな交易の町なのですよ。サフィニア様、今日はこの町に泊って明朝出発しましょう」

「はい、レオンさんにお任せします」

この旅は全てレオンに任せることに決めたサフィニアは頷く。

「では、まず宿屋に向かいましょう。実はもう宿泊する宿を決めているのです。その後、また観光をしてから戻りましょう」

「観光ですか? 楽しそうですね」

サフィニアは荷馬車の上で微笑んだ――


****

一旦、レオンが宿泊を決めた宿屋に二人は向かった。

その宿屋はこの町で一番大きな宿屋で、大通りの一番目立つ場所に建っていた。
そこで荷馬車を預かってもらうと、二人は早速町の観光をすることにした。

並んで大通りを歩く2人は、まず初めに港へ続く市場へ向かった。

テントの下で軒を連ねる市場。
ここでは果物や異国情緒あふれる布が並べられ、商人が客寄せの声を張り上げている。

市場街を抜けて港へ出ると、潮風でサフィニアの長い銀の髪がなびいた。

「沢山の船がありますね」

停泊する船を見つめながら、サフィニアは隣に立つレオンに話しかける。

「はい、そうですね。ここにある船は外洋は出ませんが、陸地に沿って様々な国へ行けるみたいですよ」

「そうなのですか? それなら船に乗って他の国へ行くのもいいですね……私、まだ一度も船に乗ったことが無いので」

するとレオンの表情が一瞬強張る。

「……」

「レオンさん? どうかしましたか?」

サフィニアが声をかけると、レオンはすぐに笑顔になった。

「サフィニア様、船にはいつでも乗れます。なので、もう少し荷馬車の旅を続けませんか? 海沿いの馬車道を走るのは気持ちが良いですよ」

「そうですね。確かにレオンさんの言う通りかもしれません」

サフィニアは港の景色に目を戻し、潮風を胸いっぱいに吸い込むと頷いた。

――その後。

二人は夕陽に染まるヴァルの町が一望できる高台へ上った。
赤い屋根が連なり、港からは汽笛が響く。

それはまるで絵画のように美しい光景だった――


****

 やがて日が暮れ、二人は宿へ戻った。

白い石造りのホテルから灯りが漏れ、旅人たちの笑い声が通りに響いている。

「サフィニア様、どうぞお入りください」

レオンが扉を開け、サフィニアを促す。

その瞬間――

「サフィニア様!」

力強い声がロビーに響いた。

「え……?」

振り返り、サフィニアは衝撃で目を見開く。

そこには旅装姿のセザールが立っていたのだ。
肩で息をしながらも、その瞳は真っ直ぐにサフィニアを見つめている。

「セザール……?」

サフィニアは茫然とその場に立ち尽くした――
感想 457

あなたにおすすめの小説

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました

由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。 ——皇子を産めるかどうか。 けれど私は、産めない。 ならば—— 「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」 そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。 毒を盛られても、捨てられず。 皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。 「お前は、ここにいろ」 これは、子を産めない女が ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。 そして—— その寵愛は、やがて狂気に変わる。

死ぬまでに叶えたい十の願い

木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」 三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。 離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する—— 二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。

結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です

柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。 そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。 真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。 けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。 「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」 彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。 アンリは実は、亡き国王の婚外子。 皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。

白い結婚の行方

宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」 そう告げられたのは、まだ十二歳だった。 名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。 愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。 この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。 冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。 誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。 結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。 これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。 偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。 交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。 真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。 ──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?  

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」 そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。 彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・ 産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。 ---- 初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。 終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。 お読みいただきありがとうございます。

玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。 昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。 入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。 その甲斐あってか学年首位となったある日。 「君のことが好きだから」…まさかの告白!