218 / 219
9-16 ジルベール 12
しおりを挟む
白い靄が、どこまでも広がっている。
ジルベールは
深い霧の中にひとり立っていた。
『ここは……どこだろう……?』
周囲を見渡していると、
前方に銀色に輝く長い髪の女性が
佇んでいる姿が見えた。
『……サフィニア様?』
その後ろ姿は間違いなくサフィニアだった。
『サフィニア様!』
ジルベールの胸が熱くなり、駆け寄った。
『サフィニア様、お会いしたかったです。
僕、どうしても……どうしても
サフィニア様に
お話ししたいことがあります!』
しかし、サフィニアは振り向かない。
背を向けたまま、告げた。
『私は……もう貴方と話すことは
何も無いわ』
『……え?』
その言葉に耳を疑う。
『あなたは私よりも
ヘスティアの方が良いのでしょう?』
『! そ、それは……!』
否定しようとした瞬間、
サフィニアの姿が遠ざかって行く。
『もう私は死んだことにして……
さよなら……ジルベール』
『サフィニア様!?
行かないでください!
サフィニア様!!』
ジルベールは必死に手を伸ばす。
だが、サフィニアに追いつけない。
『サフィニア様……!!』
ジルベールは大きな声で叫んだ――
****
「……はっ!」
ジルベールは勢いよく目を開けた。
心臓がドクドクと早鐘を打っている。
「ゆ……夢……?」
むくりと起き上がると
酷く寝汗をかいている。
「な、何て……いやな夢だろう……」
夢の中のサフィニアの声が
耳に残って離れない。
(どうして……あんな夢を……
何だか胸騒ぎがする……)
落ち着くために深呼吸してみるも、
不吉な予感は一向に収まらなかった。
「……一刻も早く
サフィニア様に会いに行かなければ……!」
ジルベールはベッドから飛び降り、
慌ただしく外出の支度を始めた――
****
ジルベールは馬車の前に立っていた。
「大丈夫? ジルベール。
顔色が悪いわよ?」
ジルベールを見送りに来た母親が
心配そうに声をかける。
「……はい、大丈夫です」
無理に笑みを浮かべて返事をする。
「今日は公女様に
婚約破棄をしてもらうのでしょう?」
「そうです。今までの非礼をお詫びして……
本当のことを告げます」
「そう、分かったわ。
しっかりやり遂げなさい」
「はい、母上。では行ってきます」
「行ってらっしゃい」
ジルベールは馬車に乗り込むと、
離宮へ向け、出発した――
****
ガラガラガラガラ……。
「……」
揺れる馬車の中で、
ジルベールは窓の外を見つめていた。
(大丈夫だ……あれは、ただの夢……
僕の罪悪感が見せた……嫌な夢に過ぎない……)
自分自身に言い聞かせても、
不安はむしろ増していくばかりだった。
「サフィニア様……」
ポツリと名前を口にした――
****
離宮に着くと、
ヘスティアが取り乱して駆け寄って来た。
髪は乱れ、目は泣きはらしたように赤い。
サフィニアが、
朝早くひとりで湖へ向かったまま戻らない――
そう聞かされた瞬間、
夢で見た光景が脳裏によみがえり、
ジルベールの背筋に冷たいものが走った。
二人は大急ぎで湖へ向かった。
湖畔に着いた時、
ジルベールは全身から血の気が引いた。
静かな湖面には
誰も乗っていないボートが浮いていた。
ボートにはサフィニアのリボンとハンカチ。
手鏡が残されており、それを目にしたとき
一瞬、ジルベールは目の前が真っ暗になった。
「……!」
ヘスティアはそれを目にした途端、
膝から崩れ落ち、ジルベールはとっさに
支える。
「サフィニア様……」
ヘスティアは、彼の胸元を掴んで嗚咽した。
その姿にジルベールは激しい後悔に襲われる。
(どうしよう、僕のせいだ……!
もう、湖のどこにも
サフィニア様はいない……)
頭のどこかで結論づけてしまいそうになる
自分がいた。
(それでも……!
今ここで取り乱すわけにはいかない……!)
ジルベールは必死に自分を叱咤し、
二人だけでの捜索には限界があること。
すでに湖を一周しても
姿が見つからなかったこと。
そして捜索のためには
公爵の力がどうしても必要なことを
ヘスティアに告げて説得した。
ヘスティアはここを離れれば、
サフィニアを見捨てるのと
同じだと泣き叫んで拒んだ。
しかし、ジルベールは必死で
ヘスティアをなだめ、
半ば引きずるようにして馬車へ乗せたのだった――
ジルベールは
深い霧の中にひとり立っていた。
『ここは……どこだろう……?』
周囲を見渡していると、
前方に銀色に輝く長い髪の女性が
佇んでいる姿が見えた。
『……サフィニア様?』
その後ろ姿は間違いなくサフィニアだった。
『サフィニア様!』
ジルベールの胸が熱くなり、駆け寄った。
『サフィニア様、お会いしたかったです。
僕、どうしても……どうしても
サフィニア様に
お話ししたいことがあります!』
しかし、サフィニアは振り向かない。
背を向けたまま、告げた。
『私は……もう貴方と話すことは
何も無いわ』
『……え?』
その言葉に耳を疑う。
『あなたは私よりも
ヘスティアの方が良いのでしょう?』
『! そ、それは……!』
否定しようとした瞬間、
サフィニアの姿が遠ざかって行く。
『もう私は死んだことにして……
さよなら……ジルベール』
『サフィニア様!?
行かないでください!
サフィニア様!!』
ジルベールは必死に手を伸ばす。
だが、サフィニアに追いつけない。
『サフィニア様……!!』
ジルベールは大きな声で叫んだ――
****
「……はっ!」
ジルベールは勢いよく目を開けた。
心臓がドクドクと早鐘を打っている。
「ゆ……夢……?」
むくりと起き上がると
酷く寝汗をかいている。
「な、何て……いやな夢だろう……」
夢の中のサフィニアの声が
耳に残って離れない。
(どうして……あんな夢を……
何だか胸騒ぎがする……)
落ち着くために深呼吸してみるも、
不吉な予感は一向に収まらなかった。
「……一刻も早く
サフィニア様に会いに行かなければ……!」
ジルベールはベッドから飛び降り、
慌ただしく外出の支度を始めた――
****
ジルベールは馬車の前に立っていた。
「大丈夫? ジルベール。
顔色が悪いわよ?」
ジルベールを見送りに来た母親が
心配そうに声をかける。
「……はい、大丈夫です」
無理に笑みを浮かべて返事をする。
「今日は公女様に
婚約破棄をしてもらうのでしょう?」
「そうです。今までの非礼をお詫びして……
本当のことを告げます」
「そう、分かったわ。
しっかりやり遂げなさい」
「はい、母上。では行ってきます」
「行ってらっしゃい」
ジルベールは馬車に乗り込むと、
離宮へ向け、出発した――
****
ガラガラガラガラ……。
「……」
揺れる馬車の中で、
ジルベールは窓の外を見つめていた。
(大丈夫だ……あれは、ただの夢……
僕の罪悪感が見せた……嫌な夢に過ぎない……)
自分自身に言い聞かせても、
不安はむしろ増していくばかりだった。
「サフィニア様……」
ポツリと名前を口にした――
****
離宮に着くと、
ヘスティアが取り乱して駆け寄って来た。
髪は乱れ、目は泣きはらしたように赤い。
サフィニアが、
朝早くひとりで湖へ向かったまま戻らない――
そう聞かされた瞬間、
夢で見た光景が脳裏によみがえり、
ジルベールの背筋に冷たいものが走った。
二人は大急ぎで湖へ向かった。
湖畔に着いた時、
ジルベールは全身から血の気が引いた。
静かな湖面には
誰も乗っていないボートが浮いていた。
ボートにはサフィニアのリボンとハンカチ。
手鏡が残されており、それを目にしたとき
一瞬、ジルベールは目の前が真っ暗になった。
「……!」
ヘスティアはそれを目にした途端、
膝から崩れ落ち、ジルベールはとっさに
支える。
「サフィニア様……」
ヘスティアは、彼の胸元を掴んで嗚咽した。
その姿にジルベールは激しい後悔に襲われる。
(どうしよう、僕のせいだ……!
もう、湖のどこにも
サフィニア様はいない……)
頭のどこかで結論づけてしまいそうになる
自分がいた。
(それでも……!
今ここで取り乱すわけにはいかない……!)
ジルベールは必死に自分を叱咤し、
二人だけでの捜索には限界があること。
すでに湖を一周しても
姿が見つからなかったこと。
そして捜索のためには
公爵の力がどうしても必要なことを
ヘスティアに告げて説得した。
ヘスティアはここを離れれば、
サフィニアを見捨てるのと
同じだと泣き叫んで拒んだ。
しかし、ジルベールは必死で
ヘスティアをなだめ、
半ば引きずるようにして馬車へ乗せたのだった――
282
あなたにおすすめの小説
恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ
棗
恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。
王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。
長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。
婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。
ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。
濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。
※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
私たちの離婚幸福論
桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。
しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。
彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。
信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。
だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。
それは救済か、あるいは——
真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。
【改稿版】光を忘れたあなたに、永遠の後悔を
桜野なつみ
恋愛
幼き日より、王と王妃は固く結ばれていた。
政略ではなく、互いに慈しみ育んだ、真実の愛。
二人の間に生まれた双子は王国の希望であり、光だった。
だが国に流行病が蔓延したある日、ひとりの“聖女”が現れる。
聖女が癒やしの奇跡を見せたとされ、国中がその姿に熱狂する。
その熱狂の中、王は次第に聖女に惹かれていく。
やがて王は心を奪われ、王妃を遠ざけてゆく……
ーーーーーーーー
初作品です。
自分の読みたい要素をギュッと詰め込みました。
【完結】旦那様、わたくし家出します。
さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。
溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。
名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。
名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。
登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*)
第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中
【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした
凛蓮月
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】
いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。
婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。
貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。
例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。
私は貴方が生きてさえいれば
それで良いと思っていたのです──。
【早速のホトラン入りありがとうございます!】
※作者の脳内異世界のお話です。
※小説家になろうにも同時掲載しています。
※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)
心の中にあなたはいない
ゆーぞー
恋愛
姉アリーのスペアとして誕生したアニー。姉に成り代われるようにと育てられるが、アリーは何もせずアニーに全て押し付けていた。アニーの功績は全てアリーの功績とされ、周囲の人間からアニーは役立たずと思われている。そんな中アリーは事故で亡くなり、アニーも命を落とす。しかしアニーは過去に戻ったため、家から逃げ出し別の人間として生きていくことを決意する。
一方アリーとアニーの死後に真実を知ったアリーの夫ブライアンも過去に戻りアニーに接触しようとするが・・・。
【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」
そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。
彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・
産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。
----
初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。
終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。
お読みいただきありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる