孤独な公女~私は死んだことにしてください

結城芙由奈@コミカライズ連載中

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12-6 宰相とエリーゼの断罪

 バネッサが衛兵に連れられて謁見室を後にした。

――バタン……。

扉が閉じられると、
エリーゼはその場で身体を震わせた。

「そ、そんな……バネッサ……」

涙を浮かべ、茫然と立ち尽くすエリーゼ。
すると、宰相が鋭い声を上げた。

「エリーゼ!」

その顔は青ざめ、唇は震えている。

「お父様……」

涙を滲ませながらエリーゼは父を見上げた。

「バネッサよりも、
まず我らのことを心配するべきだろう!」

「え……?」

エリーゼの顔に戸惑いが浮かぶ。

「お前はまだ分かっていないのか……!
バネッサが監獄島に送られるということは、
我らも、ただでは済まぬのだぞ!」

「!」

エリーゼの表情が一瞬で凍りついた。

するとアドニスがゆっくりと宰相へ視線を向けた。
その瞳は、氷のように冷酷な光を宿している。

「ようやく自覚したか、宰相。
罪を犯したのはバネッサだけではない。
お前たち二人もだ」

「……っ!」

宰相が息を飲む。

「そ、そんな……嘘ですよね!?
私は何もしておりません! あれはバネッサが勝手に……!」

「嘘をつくな!」

アドニスはエリーゼの訴えを鋭く遮った。

「お前がバネッサにサフィニアが邪魔だと訴え、
あの女が動いた!
責任の所在はお前にある!」

「アドニス様……」

サフィニアは驚きに目を見開く。

「せ、責任って……」

エリーゼの肩が小刻みに震えた。

今までずっと優しいアドニスを見てきた。
だからこそ、敵意を向けられているこの状況が
未だに信じられない。

そこでサフィニアに視線を向けると、
必死に訴えた。

「お、お願い!
私、あなたが王女だとは知らなかったの!
それに手を出したのはバネッサよ!
私じゃないわ、だから……!」

「エリーゼ様……」

息を飲むサフィニア。
その肩を、アドニスが抱き寄せた。

「見苦しいぞ、エリーゼ。
サフィニアを巻き込むな!」

「ひっ!」

エリーゼの肩が大きく跳ねる。

その姿を一瞥すると、
次にアドニスは宰相へ向き直った。

「宰相。お前は王女サフィニアの命を
脅かす行為を放置し、
侍女バネッサの暴走を黙認した。
さらにサフィニアが王族の血を引く
事を知りながら、国外へ追いやろうとした
罪は非常に重い」

「っ!」

宰相の膝がわずかに震える。

「よって、侯爵位は剥奪する。
財産はすべて没収し、宰相としての任も解く。
そして……」

アドニスの声がさらに冷たさを増す。

「お前に辺境への赴任を命ずる。
王都への立ち入りは、今後一切許さない」

「辺境へ……?」

宰相は力なく、その場に崩れ落ちた。

「お父様……そんな……!」

宰相に縋りつくエリーゼに、アドニスは
さらに追い打ちをかける。

「エリーゼ。
お前もまた、サフィニアに害をなす者を
侍女として傍に置き、
その行為を止めるどころか助長した」

エリーゼの顔から血の気が引く。

「お前には社交界からの追放を命じる。
辺境の修道院で、その身を一生捧げるのだ!」

「そ、そんな……!
修道院なんて……いや……いやです……!」

泣き叫ぶエリーゼ。

(エリーゼ様……!)

その様子がいたたまれず、
サフィニアは目を伏せた。

するとアドニスが最後の通告をする。

「親子で同じ地へ送るが、
互いに会うことは許さぬ。
それがサフィニアを傷つけた者への罰だ!」

「……ぐっ……!」

宰相はうめき声を漏らし、
エリーゼは泣き崩れた――

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