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12-22 ヘスティアの旅立ち
サフィニアがアドニスとの
朝食を終えて部屋に戻ると、
そこには既に旅支度を整えた
ヘスティアの姿があった。
足首丈のワンピースドレスにボレロを羽織り、
足元には小さなキャリーバッグが置かれている。
「サフィニア様。お帰りなさいませ」
ヘスティアはいつものように笑顔で出迎えた。
「ヘスティア……!
まさか、もう出発するの?」
サフィニアは思わず駆け寄る。
「はい。汽車の時間もありますし……
それに、これは私の我儘でしかないのですが……」
ヘスティアは視線を落とし、
ポツリと口にした。
「サフィニア様を……お見送りするのが……
その……辛くて……」
「ヘスティア……」
胸がぎゅっと締め付けられる。
「……っ、ご、ごめんなさい……
私が偽装死なんて真似をして、
『ノルディア』を去ってしまったばかりに……」
「いいえ、謝らないでください。
もし私がサフィニア様と同じ立場に置かれたら、
きっと同じことをしていたと思います。
だから、どうか自分を責めないでください」
ヘスティアは優しく微笑んだ。
「ありがとう……ヘスティア。
でも、一人で『ノルディア』へ帰るの?
女性の一人旅は危ないわ」
自分が一人旅で奴隷商人に捕まった過去を思い出し、
サフィニアに胸に不安がよぎる。
「それなら大丈夫です。
セザール様が付き添ってくださいますから」
「え!? セザールが!?」
思いもよらない名前に、サフィニアは目を見開いた。
「い、一体いつの間に……?」
その時――
開け放たれた扉からメイドが姿を現した。
「失礼いたします。
セザール様がいらっしゃいました。
エントランスでお待ちです」
「ありがとうございます。では行きますね」
ヘスティアはサフィニアに会釈した。
「待って。ヘスティア、私も一緒に行くわ」
「はい、サフィニア様」
****
エントランスに向かうと、
既にそこにはセザールとアドニスの姿があった。
二人は真剣な眼差しで何やら話している。
サフィニアとヘスティアが近づくと、
セザールが気づき、穏やかな笑みを向けた。
「おはようございます、サフィニア様。
そしてヘスティア嬢。お迎えに参りました」
「おはよう、セザール」
「お迎え、ありがとうございます」
二人は交互に挨拶する。
アドニスはサフィニアの隣に立ち、
声をかけた。
「ヘスティア、驚いたよ。
まさか『ノルディア』へ帰るとは思わなかった。
それにセザールが送るなんて……いつの間に?」
「数日前に城を訪れたとき、
偶然ヘスティア嬢とお会いしまして。
『ノルディア』へ帰る意向を聞き、
旅のお供を申し出たのです。
エストマン家の屋敷がどうなったかも
気になっていましたので」
セザールの言葉に、サフィニアがピクリと反応した。
「……そう。よろしくね。
あの……離宮も……見てきてくれるかしら?」
「ええ、もちろんです」
セザールは笑顔で頷いた。
「それでは汽車の時間がありますから、
そろそろ行きましょう。
ヘスティア嬢」
「はい」
セザールが扉を開けると、
外には馬車が待機していた。
ヘスティアが乗り込もうとしたとき、
サフィニアは思わず声をかけた。
「あ、あの……私もお見送りに――」
しかしヘスティアは首を振る。
「いいえ。サフィニア様も本日
『オケアリオン』王国へ行かれます。
準備もあるはずです。ここまでで大丈夫です」
「でも……」
サフィニアが言いかけると、
ヘスティアの顔に寂しさが浮かんだ。
「サフィニア様……お気持ちは
とても嬉しいのですが……
そ、そんなことされたら
もっと悲しくなってしまいます……
だから……ここでお別れさせてください……」
「……あ……そ、そうよね……ごめんなさい」
「いいえ。サフィニア様、どうかお元気で」
「ヘスティアもね」
二人は固く抱きしめ合った。
名残惜しさを胸に、
ヘスティアはセザールと共に馬車へ乗り込むと
『ノルディア』王国へ向けて旅立っていった。
サフィニアは
馬車の姿が見えなくなるまで
アドニスと並んで見送った。
溢れんばかりの涙を浮かべて――
朝食を終えて部屋に戻ると、
そこには既に旅支度を整えた
ヘスティアの姿があった。
足首丈のワンピースドレスにボレロを羽織り、
足元には小さなキャリーバッグが置かれている。
「サフィニア様。お帰りなさいませ」
ヘスティアはいつものように笑顔で出迎えた。
「ヘスティア……!
まさか、もう出発するの?」
サフィニアは思わず駆け寄る。
「はい。汽車の時間もありますし……
それに、これは私の我儘でしかないのですが……」
ヘスティアは視線を落とし、
ポツリと口にした。
「サフィニア様を……お見送りするのが……
その……辛くて……」
「ヘスティア……」
胸がぎゅっと締め付けられる。
「……っ、ご、ごめんなさい……
私が偽装死なんて真似をして、
『ノルディア』を去ってしまったばかりに……」
「いいえ、謝らないでください。
もし私がサフィニア様と同じ立場に置かれたら、
きっと同じことをしていたと思います。
だから、どうか自分を責めないでください」
ヘスティアは優しく微笑んだ。
「ありがとう……ヘスティア。
でも、一人で『ノルディア』へ帰るの?
女性の一人旅は危ないわ」
自分が一人旅で奴隷商人に捕まった過去を思い出し、
サフィニアに胸に不安がよぎる。
「それなら大丈夫です。
セザール様が付き添ってくださいますから」
「え!? セザールが!?」
思いもよらない名前に、サフィニアは目を見開いた。
「い、一体いつの間に……?」
その時――
開け放たれた扉からメイドが姿を現した。
「失礼いたします。
セザール様がいらっしゃいました。
エントランスでお待ちです」
「ありがとうございます。では行きますね」
ヘスティアはサフィニアに会釈した。
「待って。ヘスティア、私も一緒に行くわ」
「はい、サフィニア様」
****
エントランスに向かうと、
既にそこにはセザールとアドニスの姿があった。
二人は真剣な眼差しで何やら話している。
サフィニアとヘスティアが近づくと、
セザールが気づき、穏やかな笑みを向けた。
「おはようございます、サフィニア様。
そしてヘスティア嬢。お迎えに参りました」
「おはよう、セザール」
「お迎え、ありがとうございます」
二人は交互に挨拶する。
アドニスはサフィニアの隣に立ち、
声をかけた。
「ヘスティア、驚いたよ。
まさか『ノルディア』へ帰るとは思わなかった。
それにセザールが送るなんて……いつの間に?」
「数日前に城を訪れたとき、
偶然ヘスティア嬢とお会いしまして。
『ノルディア』へ帰る意向を聞き、
旅のお供を申し出たのです。
エストマン家の屋敷がどうなったかも
気になっていましたので」
セザールの言葉に、サフィニアがピクリと反応した。
「……そう。よろしくね。
あの……離宮も……見てきてくれるかしら?」
「ええ、もちろんです」
セザールは笑顔で頷いた。
「それでは汽車の時間がありますから、
そろそろ行きましょう。
ヘスティア嬢」
「はい」
セザールが扉を開けると、
外には馬車が待機していた。
ヘスティアが乗り込もうとしたとき、
サフィニアは思わず声をかけた。
「あ、あの……私もお見送りに――」
しかしヘスティアは首を振る。
「いいえ。サフィニア様も本日
『オケアリオン』王国へ行かれます。
準備もあるはずです。ここまでで大丈夫です」
「でも……」
サフィニアが言いかけると、
ヘスティアの顔に寂しさが浮かんだ。
「サフィニア様……お気持ちは
とても嬉しいのですが……
そ、そんなことされたら
もっと悲しくなってしまいます……
だから……ここでお別れさせてください……」
「……あ……そ、そうよね……ごめんなさい」
「いいえ。サフィニア様、どうかお元気で」
「ヘスティアもね」
二人は固く抱きしめ合った。
名残惜しさを胸に、
ヘスティアはセザールと共に馬車へ乗り込むと
『ノルディア』王国へ向けて旅立っていった。
サフィニアは
馬車の姿が見えなくなるまで
アドニスと並んで見送った。
溢れんばかりの涙を浮かべて――
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