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12-23 すれ違う思い、旅立つ心
「ヘスティア……」
サフィニアは、遠ざかっていく馬車の姿を
涙を浮かべながら見つめていた。
そんなサフィニアの横に、
アドニスがそっと寄り添う。
「サフィニア……
今は離れ離れになってしまうけど、
もう二度と会えなくなるわけじゃない。
そうだろう?」
「は、はい。そうなのですが……」
サフィニアは小さく頷いた。
「で、ですが……申し訳ございません、
アドニス様……
私……ヘスティアがいなくなるのが……
こんなに……辛いなんて……」
言葉が震え、続かなくなる。
アドニスは優しく言った。
「泣いていい。
悲しい時は、我慢する必要はないよ」
「アドニス様……
い、いえ。もう……大丈夫ですから」
サフィニアは泣き笑いの顔で涙を拭った。
「ヘスティアは両親の元へ帰ったのです。
これからは両親と一緒に暮らすのだから……
笑顔で見送らないといけませんよね?」
「……サフィニア」
アドニスは一度口を開きかけ、
ふと視線を落とした。
「大丈夫だ。俺が……
い、いや……」
そして、ぽつりと本音がこぼれる。
「俺も……暫くの間は、
サフィニアと別れて暮らさなければ
ならないんだよな」
その声には、
隠しきれない寂しさが滲んでいた。
サフィニアは驚き、
すぐに微笑んだ。
「それなら大丈夫です」
アドニスの胸に、一瞬期待が灯る。
(まさか……
『オケアリオン』王国行きを取りやめに……!?
サフィニアが残ってくれる……?)
しかし次にサフィニアの口から出た言葉は、
アドニスを落胆させるには十分すぎた。
「一週間に一度は手紙を書いて送ります。
だから、アドニス様も手紙を書いていただけますか?」
「え!?」
手紙という言葉に、アドニスは愕然とする。
(手紙……?
手紙だって……?
いや、もちろん嬉しいけど……
そういう意味じゃ……)
「あ、あの……駄目、でしょうか?」
サフィニアが悲しげに見つめてくる。
「い、いや。駄目なはずないじゃないか。
もちろんだよ。毎日手紙を書くと誓うよ」
「い、いえ。そんな毎日ではなくても大丈夫ですよ?
貨物船は三日置きですし」
「ああ、それでも構わないさ」
アドニスは苦笑しながらも、
サフィニアの頭をそっと撫でた。
「それじゃ、そろそろ行こう。
セレウス殿をあまりお待たせする
わけにはいかないからね」
「はい」
アドニスはサフィニアの肩を抱き寄せ、
二人は城内へと戻っていった。
***
――その頃。
ガラガラと揺れる馬車の中、
ヘスティアとセザールは
向かい合わせで座っていた。
「ヘスティア嬢。
良かったのですか?
サフィニア様の侍女をやめても」
セザールが静かに尋ねる。
「はい。いいのです。
サフィニア様は正式な『オケアリオン』王国の
王女様になられました。
私のように落ちぶれた家柄では、
あまりに分不相応ですから」
その声はどこか寂しげだった。
「サフィニア様は、
そのようなことは気にされませんよ?」
「ええ、分かっています。ですが……」
ヘスティアはそこで言葉を切り、
今度はセザールを見つめた。
「そういうセザール様こそ、
よろしかったのですか?」
「え?」
「サフィニア様を……愛していらっしゃるのですよね?」
「っ……!」
セザールは少しの間沈黙し、
やがて苦笑した。
「アハハ……やはりバレておりましたか」
「はい。もちろんです」
ヘスティアはコクリと頷く。
「確かに、ヘスティア嬢のおっしゃる通りです。
幼いころから……なんて可愛らしい方なのだろうと
思っておりました。
妻を亡くし、その後周囲から再婚を
勧められてもしなかったのは……
やはり根底にはサフィニア様が
忘れられなかったからなのかもしれません。
……妻には申し訳ないと思っておりますが」
「セザール様……」
「ですが、サフィニア様の幸せを
祈っているのも確かです」
「そうですね……
わたしもサフィニア様の幸せを
祈っております」
二人は遠ざかる城をじっと見つめた。
それぞれの胸に、
秘めた想いを抱えながら――
サフィニアは、遠ざかっていく馬車の姿を
涙を浮かべながら見つめていた。
そんなサフィニアの横に、
アドニスがそっと寄り添う。
「サフィニア……
今は離れ離れになってしまうけど、
もう二度と会えなくなるわけじゃない。
そうだろう?」
「は、はい。そうなのですが……」
サフィニアは小さく頷いた。
「で、ですが……申し訳ございません、
アドニス様……
私……ヘスティアがいなくなるのが……
こんなに……辛いなんて……」
言葉が震え、続かなくなる。
アドニスは優しく言った。
「泣いていい。
悲しい時は、我慢する必要はないよ」
「アドニス様……
い、いえ。もう……大丈夫ですから」
サフィニアは泣き笑いの顔で涙を拭った。
「ヘスティアは両親の元へ帰ったのです。
これからは両親と一緒に暮らすのだから……
笑顔で見送らないといけませんよね?」
「……サフィニア」
アドニスは一度口を開きかけ、
ふと視線を落とした。
「大丈夫だ。俺が……
い、いや……」
そして、ぽつりと本音がこぼれる。
「俺も……暫くの間は、
サフィニアと別れて暮らさなければ
ならないんだよな」
その声には、
隠しきれない寂しさが滲んでいた。
サフィニアは驚き、
すぐに微笑んだ。
「それなら大丈夫です」
アドニスの胸に、一瞬期待が灯る。
(まさか……
『オケアリオン』王国行きを取りやめに……!?
サフィニアが残ってくれる……?)
しかし次にサフィニアの口から出た言葉は、
アドニスを落胆させるには十分すぎた。
「一週間に一度は手紙を書いて送ります。
だから、アドニス様も手紙を書いていただけますか?」
「え!?」
手紙という言葉に、アドニスは愕然とする。
(手紙……?
手紙だって……?
いや、もちろん嬉しいけど……
そういう意味じゃ……)
「あ、あの……駄目、でしょうか?」
サフィニアが悲しげに見つめてくる。
「い、いや。駄目なはずないじゃないか。
もちろんだよ。毎日手紙を書くと誓うよ」
「い、いえ。そんな毎日ではなくても大丈夫ですよ?
貨物船は三日置きですし」
「ああ、それでも構わないさ」
アドニスは苦笑しながらも、
サフィニアの頭をそっと撫でた。
「それじゃ、そろそろ行こう。
セレウス殿をあまりお待たせする
わけにはいかないからね」
「はい」
アドニスはサフィニアの肩を抱き寄せ、
二人は城内へと戻っていった。
***
――その頃。
ガラガラと揺れる馬車の中、
ヘスティアとセザールは
向かい合わせで座っていた。
「ヘスティア嬢。
良かったのですか?
サフィニア様の侍女をやめても」
セザールが静かに尋ねる。
「はい。いいのです。
サフィニア様は正式な『オケアリオン』王国の
王女様になられました。
私のように落ちぶれた家柄では、
あまりに分不相応ですから」
その声はどこか寂しげだった。
「サフィニア様は、
そのようなことは気にされませんよ?」
「ええ、分かっています。ですが……」
ヘスティアはそこで言葉を切り、
今度はセザールを見つめた。
「そういうセザール様こそ、
よろしかったのですか?」
「え?」
「サフィニア様を……愛していらっしゃるのですよね?」
「っ……!」
セザールは少しの間沈黙し、
やがて苦笑した。
「アハハ……やはりバレておりましたか」
「はい。もちろんです」
ヘスティアはコクリと頷く。
「確かに、ヘスティア嬢のおっしゃる通りです。
幼いころから……なんて可愛らしい方なのだろうと
思っておりました。
妻を亡くし、その後周囲から再婚を
勧められてもしなかったのは……
やはり根底にはサフィニア様が
忘れられなかったからなのかもしれません。
……妻には申し訳ないと思っておりますが」
「セザール様……」
「ですが、サフィニア様の幸せを
祈っているのも確かです」
「そうですね……
わたしもサフィニア様の幸せを
祈っております」
二人は遠ざかる城をじっと見つめた。
それぞれの胸に、
秘めた想いを抱えながら――
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