孤独な公女~私は死んだことにしてください

結城芙由奈@コミカライズ連載中

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エピローグ 1

 サフィニアとアドニスの別れから、
半年の時が流れた。  

そして……ついに、約束の時が訪れる――

****

 五月――新緑の季節。  

ゴーン ゴーン ゴーン……。

雲一つない、澄み渡る青い空。
爽やかな風が緑の香りを運んでいる。

太陽の光が降りそそぐ美しい芝生には、
荘厳な『ミレア』王国の大聖堂が堂々とした
佇まいを見せていた。

本日、この大聖堂でサフィニアとアドニスの
結婚式が執り行われるのだ。

祝福の鐘は城下町まで響き渡り、
人々は祝賀のムードに包まれていた。

その音を、大聖堂の外でひとり。
粗末な身なりの青年が鐘の音を聞いている

その青年はラファエルだった。

招待を受けていない彼は
扉の中へ入ることはない。  

ただ、大聖堂へ視線を無言でじっと
見つめている。

サフィニアとアドニスの結婚の噂を聞きつけた  
ラファエルは、
再び『ミレア』王国へ戻ってきたのだ。  

自分の中で、ひとつの区切りをつけるために。

「……サフィニア。おめでとう」

ぽつりと呟くラファエル。  

その口許には、これまで見せたことのない
穏やかな笑みが浮かんでいた。  

一瞬、風が強く吹きつけて
ラファエルの赤い髪を揺らす。  

その表情は……どこか晴れやかだった。


****

――あの日。  

『ミレア』王国で裁きを受けたエストマン公爵。

公爵はすぐに「忘却牢獄」へ放り込まれた。  

三日目には狂ったように叫び続け、  
十日目には声が聞こえなくなった。 

しかし毎日一日二回、
水と食料が投げ込まれる。
誰も生存確認をする者はいない。

今も生きているのか、誰も知らない。  
知ろうとする者もいない。  

それが「忘却牢獄」という場所だからだ。


****


一方のセイラは更生施設へ送られた。  

かつての傲慢さは影もない。

別人のように痩せた頬に後悔の色を残しながら、  
今も黙々と労働に励んでいる。  

彼女の未来がどうなるのかは、
誰にも分らない。

  ――本人さえも。

ただ……少なくとも、
過去の自分とは決別しようとしていた――


****

そして、ただ一人。  
重い罰を受けなかったラファエル。

資産も家も国に没収されて
住む場所を失った彼。
 
国を離れ、田舎に小さな一軒家を借りて
今は農作業をしながら暮らしていた。  

土に触れ、労働に汗を流す日々は、  
かつての自分には想像もできなかった
穏やかな時間だった。


 ただ、サフィニアが暮らしていた離宮だけは 
残された。

アドニス個人が買い取り、
今ではサフィニアの別荘となっている。  

白い壁と青い屋根のその離宮は、  
まるで彼女の帰りを静かに待つように
今も、「ノルディア」王国に佇んでいた。

その管理を任されているのは、  
かつてサフィニアの婚約者だったジルベール。

父グレゴリーは当主の座を追われ、  
今は長男がウッド家を継いでいる。  

アドニスからの十分な手当てにより、  
ウッド家の生活は少しずつ豊かさを
取り戻しつつあった。  

ジルベール自身も
ようやく穏やかな日々を取り戻している――


****

「……幸せにな、サフィニア」

ラファエルはそれだけを呟くと、  
背を向け、静かにその場を去っていった。  

誰にも気づかれることなく。


そして……
ヴァネッサ、宰相、エリーゼ。
  
彼らのその後を知る者は、もう誰もいない――

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