孤独な公女~私は死んだことにしてください

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
19 / 214

1-17 サフィニアの為に

しおりを挟む
「うわぁ~すご~い! こんなお料理、初めて見た!」

サフィニアはテーブルに並べられた料理を見て、目を見開いた。
パンやサラダの他に手の込んだ料理やスープ等、サフィニアが今迄一度も目にしたことの無い豪華な料理が並べられている。
元々貴族でありながらエストマン公爵家に仕えるモラン家は特別な部屋と食事を与えられていたのだ。

「そんなに喜んでいただけるとは、光栄です。それでは食事にしましょうか?」

ポルトスが笑顔で話しかける。

「はい」

元気よく返事をしたサフィニア。セザールが用意した椅子に座るも、背が小さくてテーブルに届かない。
そこでセザールはクッションを幾つか椅子に乗せて、サフィニアが座る位置を高くすると、ようやくテーブルに背丈が届いた。

「サフィニア様の準備も出来た事ですし、頂くことにしよう」

「はい、お爺様」

セザールが返事をする。

「ねぇ、もう食べていい?」

サフィニアがポルトスに尋ねた。

「ええ。勿論ですよ」

そこで早速サフィニアはテーブルパンに手を伸ばし、そのまま食べようとした時……。

「お待ちください、サフィニア様」

ポルトスが突然止めた。

「え? な、何?」
「お爺様……どうしたのですか?」

サフィニアは驚き、セザールは戸惑いの表情を浮かべる。

「サフィニア様。パンはそのまま口に運んではいけないのですよ」

「え? そうなの? 駄目だったの?」

「はい、そうです。食事をするには、テーブルマナーというものがあるのですよ。それを一つ一つ今からお勉強していきましょう。いずれ必ずサフィニア様にとって必要になる時が来ると思いますから。なのでこれから夕食は我々と一緒に頂くことにしましょう」

静かに語るポルトス。

実はポルトスには、ある考えがあったのだ。
サフィニアは今迄ずっと、下級メイドの母親と2人だけで暮らしてきた。
当然書きも無ければ、貴族社会に通ずるマナーも一切分からないだろうと。

母親が下級メイドでも、父親は国内でも屈指の名門エストマン公爵。
サフィニアは公女であることに違いなく、いつかは公の場に姿を現さなければならない日が来るかもしれない。

最低限の知識やマナーを知らなければ、サフィニアが恥をかくのは目に見えている。
ポルトスはサフィニアをそのような目に遭わせたくは無かった。
そこでセザールにも協力させ、サフィニアに必要最低限な教育を施そうと考えたのだ。

そこでセザールはサフィニアに声をかけた。

「サフィニア様、僕と同じ食べ方をマネして下さい。まずはパンを食べたいのですよね?」

「うん。こんなに白くてフワフワしているパン、初めて見るから」

「ではまずパンは、そのままかぶりついてはいけません。パン皿の上でちぎって食べるのですが、本当は最初に食べずに他の料理を口にしてから食べるのですよ」

「え!? そうなの!? 知らなかった……」

サフィニアは目を丸くする。

「はい。まずはこのような小皿に乗っている料理の後に、パンを食べると良いですよ。そして……」

サフィニアがセザールからテーブルマナーを教わっている様子をポルトスは目を褒めて見つめていた。

(やはり、セザールにサフィニア様の教育係を任せることにして正解だったな。他の使用人達にはサフィニア様の正体を明かすわけにはいかないし……)

真剣な眼差しでセザールからテーブルマナーを教わるサフィニアは、とても痩せ細っていた。
恐らく、まともに栄養の取れる食事をとったことが無いのだろう。

母も亡くし、最初から見捨てられて育ったサフィニア。

ポルトスはサフィニアの為に、自分の出来る限りのことをしてあげようと心に誓うのだった——


しおりを挟む
感想 381

あなたにおすすめの小説

『有能すぎる王太子秘書官、馬鹿がいいと言われ婚約破棄されましたが、国を賢者にして去ります』

しおしお
恋愛
王太子の秘書官として、陰で国政を支えてきたアヴェンタドール。 どれほど杜撰な政策案でも整え、形にし、成果へ導いてきたのは彼女だった。 しかし王太子エリシオンは、その功績に気づくことなく、 「女は馬鹿なくらいがいい」 という傲慢な理由で婚約破棄を言い渡す。 出しゃばりすぎる女は、妃に相応しくない―― そう断じられ、王宮から追い出された彼女を待っていたのは、 さらに危険な第二王子の婚約話と、国家を揺るがす陰謀だった。 王太子は無能さを露呈し、 第二王子は野心のために手段を選ばない。 そして隣国と帝国の影が、静かに国を包囲していく。 ならば―― 関わらないために、関わるしかない。 アヴェンタドールは王国を救うため、 政治の最前線に立つことを選ぶ。 だがそれは、権力を欲したからではない。 国を“賢く”して、 自分がいなくても回るようにするため。 有能すぎたがゆえに切り捨てられた一人の女性が、 ざまぁの先で選んだのは、復讐でも栄光でもない、 静かな勝利だった。 ---

私の事を婚約破棄した後、すぐに破滅してしまわれた元旦那様のお話

睡蓮
恋愛
サーシャとの婚約関係を、彼女の事を思っての事だと言って破棄することを宣言したクライン。うれしそうな雰囲気で婚約破棄を実現した彼であったものの、その先で結ばれた新たな婚約者との関係は全くうまく行かず、ある理由からすぐに破滅を迎えてしまう事に…。

(完結保証)大好きなお兄様の親友は、大嫌いな幼馴染なので罠に嵌めようとしたら逆にハマった話

のま
恋愛
大好きなお兄様が好きになった令嬢の意中の相手は、お兄様の親友である幼馴染だった。 お兄様の恋を成就させる為と、お兄様の前からにっくき親友を排除する為にある罠に嵌めようと頑張るのだが、、、

姉の婚約者と結婚しました。

黒蜜きな粉
恋愛
花嫁が結婚式の当日に逃亡した。 式場には両家の関係者だけではなく、すでに来賓がやってきている。 今さら式を中止にするとは言えない。 そうだ、花嫁の姉の代わりに妹を結婚させてしまえばいいじゃないか! 姉の代わりに辺境伯家に嫁がされることになったソフィア。 これも貴族として生まれてきた者の務めと割り切って嫁いだが、辺境伯はソフィアに興味を示さない。 それどころか指一本触れてこない。 「嫁いだ以上はなんとしても後継ぎを生まなければ!」 ソフィアは辺境伯に振りむいて貰おうと奮闘する。 2022/4/8 番外編完結

4人の女

猫枕
恋愛
カトリーヌ・スタール侯爵令嬢、セリーヌ・ラルミナ伯爵令嬢、イネス・フーリエ伯爵令嬢、ミレーユ・リオンヌ子爵令息夫人。 うららかな春の日の午後、4人の見目麗しき女性達の優雅なティータイム。 このご婦人方には共通点がある。 かつて4人共が、ある一人の男性の妻であった。 『氷の貴公子』の異名を持つ男。 ジルベール・タレーラン公爵令息。 絶対的権力と富を有するタレーラン公爵家の唯一の後継者で絶世の美貌を持つ男。 しかしてその本性は冷酷無慈悲の女嫌い。 この国きっての選りすぐりの4人のご令嬢達は揃いも揃ってタレーラン家を叩き出された仲間なのだ。 こうやって集まるのはこれで2回目なのだが、やはり、話は自然と共通の話題、あの男のことになるわけで・・・。

忘れられたら苦労しない

菅井群青
恋愛
結婚を考えていた彼氏に突然振られ、二年間引きずる女と同じく過去の恋に囚われている男が出会う。 似ている、私たち…… でもそれは全然違った……私なんかより彼の方が心を囚われたままだ。 別れた恋人を忘れられない女と、運命によって引き裂かれ突然亡くなった彼女の思い出の中で生きる男の物語 「……まだいいよ──会えたら……」 「え?」 あなたには忘れらない人が、いますか?──

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

やり直し令嬢は本当にやり直す

お好み焼き
恋愛
やり直しにも色々あるものです。婚約者に若い令嬢に乗り換えられ婚約解消されてしまったので、本来なら婚約する前に時を巻き戻すことが出来ればそれが一番よかったのですけれど、そんな事は神ではないわたくしには不可能です。けれどわたくしの場合は、寿命は変えられないけど見た目年齢は変えられる不老のエルフの血を引いていたお陰で、本当にやり直すことができました。一方わたくしから若いご令嬢に乗り換えた元婚約者は……。

処理中です...