孤独な公女~私は死んだことにしてください

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
71 / 217

3-14 2人の話し合い

しおりを挟む
 その日の夜――

セザールはリビングでポルトスが戻ってくるのを待っていた。

ボーン
ボーン
ボーン

振り子時計が19時を告げる音が鳴り響く頃、扉の開く音が聞こえてポルトスが帰宅してきた。

「お帰りなさいませ、お爺様」

セザールがソファから立ち上がった。

「ただいま……ん? セザール、ここにいたのか?」

「はい、大切なお話があったので、お爺様が帰宅するのを待っておりました」

「そうか? 夕食は済んだのか?」

スーツを脱ぎながら尋ねるポルトス。

「いえ、まだです」

「なら夕食を取りながら、話を聞こうか?」

「はい」

セザールは笑みを浮かべて返事をした――


****


 セザールとポルトスはダイニングルームで豪華な食事を前に向かい合って食事をしていた。

「大切な話があるというのなら、今夜はワインを飲むのはやめておこう。それで話とはなんだ?」

ポルトスはじっとセザールを見つめる。

「はい、実は少々困った事態になりました」

「困った事態? いったいそれはどのようなことだ?」

眉を顰めるポルトス。

「セイラ様が本日、サフィニア様のいる離宮へ向かったのです。急いで後を追ってみると、サフィニア様の手の平を鞭で打とうとしているところでしたので、慌てて止めに入りました」

「何だと!? セイラ様がサフィニア様に鞭を振るおうとしていただと!」

これにはさすがのポルトスも驚いた。

「はい……そうです。寸でのところで止めましたが、既に体罰を与えられていたようです。サフィニア様の頬が赤くなっていましたから……」

セザールは唇をかみしめた。

「……恐らく、平手打ちでもされたのだろう。セイラ様は気に入らないことがあれば、周囲のメイドに当たり散らして平手打ちをされていたからな。……セイラ様とサフィニア様では体格の差がありすぎる。あのように小さなお身体で平手打ちされたとは。たまったものでは無かっただろう」

ポルトスはため息をついた。本当は注意をしたいところだが、相手は雇い主の娘であり、公爵令嬢なのだ。とてもではないが、セイラに苦言を呈することは不可能だった。

「お爺様の言う通りだと思います」

「だが、セザール。お前はセイラ様の鞭打ち刑からサフィニア様を救った。よくやった」

「! あ、ありがとうございます」

ポルトスに褒められ、セザールの顔が赤くなる。

「話というのはそのことだったのか? それにしても何故セイラ様はわざわざ離宮に……」

「セイラ様が離宮に行ったのは、御友人の誕生パーティーの招待状を届けに行ったからなのです。お相手はウィルソン侯爵令嬢です」

その話にポルトスは青ざめた。

「何だと!? ウィルソン侯爵令嬢だと!? あの名門の!?」

「はい、そうです」

セザールが頷く。

「そうか……だがサフィニア様とウィルソン侯爵令嬢は全く面識が無い。なのになぜ、サフィニア様を……」

「セイラ様は、ウィルソン侯爵令嬢に腹違いの妹がいる話をされたそうです。するとその話を聞いた御令嬢はサフィニア様に興味を持ち、誕生パーティーに招かれたそうです」

神妙な顔つきでセザールの話を聞くポルトス。

「……そうか。毎年、ウィルソン侯爵家では盛大な誕生パーティーが開催され、貴族の社交の場となっている。そのような場にサフィニア様を招かれるとは……プレゼントだって用意しなけれならないし、ドレスも必要だと言うのに……」

「僕の考えでは、セイラ様はサフィニア様に恥をかかせるつもりなのだと思いますが……」

「確かにセイラさまならそう考えるだろう。だが、ご自分の首を絞めかねないことに繋がるとは夢にも思っていないのだろうな」

難しい顔つきになるポルトスとセザール。

サフィニアの恥は、セイラだけではなくエストマン公爵家の恥へと繋がる。権力のあるウィルソン侯爵家での失態は、あっという間に近隣の貴族の耳に広がるだろう。

「お爺様……どういたしましょう」

セザールはポツリと尋ねた。

「私に考えがある。数日以内に何とかしよう」

「ありがとうございます。ですが、プレゼントのことは僕にお任せいただけますか?」

「……何? セザール……お前にか?」

目を見開くポルトス。

「はい、誕生会ではサフィニア様が最も注目されるプレゼントを用意したいと思っています」

セザールの顔に笑みが浮かんだ――





しおりを挟む
感想 385

あなたにおすすめの小説

氷の王妃は跪かない ―褥(しとね)を拒んだ私への、それは復讐ですか?―

柴田はつみ
恋愛
亡国との同盟の証として、大国ターナルの若き王――ギルベルトに嫁いだエルフレイデ。 しかし、結婚初夜に彼女を待っていたのは、氷の刃のように冷たい拒絶だった。 「お前を抱くことはない。この国に、お前の居場所はないと思え」 屈辱に震えながらも、エルフレイデは亡き母の教え―― 「己の誇り(たましい)を決して売ってはならない」――を胸に刻み、静かに、しかし凛として言い返す。 「承知いたしました。ならば私も誓いましょう。生涯、あなたと褥を共にすることはございません」 愛なき結婚、冷遇される王妃。 それでも彼女は、逃げも嘆きもせず、王妃としての務めを完璧に果たすことで、己の価値を証明しようとする。 ――孤独な戦いが、今、始まろうとしていた。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ

恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。 王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。 長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。 婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。 ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。 濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。 ※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

おしどり夫婦の茶番

Rj
恋愛
夫がまた口紅をつけて帰ってきた。お互い初恋の相手でおしどり夫婦として知られるナタリアとブライアン。 おしどり夫婦にも人にはいえない事情がある。 一話完結。『一番でなくとも』に登場したナタリアの話です。未読でも問題なく読んでいただけます。

【改稿版】光を忘れたあなたに、永遠の後悔を

桜野なつみ
恋愛
幼き日より、王と王妃は固く結ばれていた。 政略ではなく、互いに慈しみ育んだ、真実の愛。 二人の間に生まれた双子は王国の希望であり、光だった。 だが国に流行病が蔓延したある日、ひとりの“聖女”が現れる。 聖女が癒やしの奇跡を見せたとされ、国中がその姿に熱狂する。 その熱狂の中、王は次第に聖女に惹かれていく。 やがて王は心を奪われ、王妃を遠ざけてゆく…… ーーーーーーーー 初作品です。 自分の読みたい要素をギュッと詰め込みました。

月夜に散る白百合は、君を想う

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。 彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。 しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。 一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。 家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。 しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。 偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。

処理中です...