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3-15 聞かない方が良いこと
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セイラが離宮に現れてから2日後のことだった。
朝食の後、サフィニアはヘスティアとリビングでダンスの練習を行っていた。
「はい、そうです。そこでターンです」
ヘスティアの弾くピアノの音に合わせて踊っていた時。
「ピアノの音が聞こえると思ったら、こちらにいらっしゃったのですね?」
スーツ姿のセザールがリビングに現れた。
「まぁ! いらっしゃいませ、セザール様!」
演奏の手を止めてヘスティアが笑顔で挨拶する。
「こんにちは、セザール。今日は一体どうしたの? あの……セイラ様の傍にいなくて良いの?」
サフィニアの脳裏に、セイラとセザールが一緒に帰っていく後姿が蘇る。
「セイラ様なら今の時間は学校へ行かれていますよ?」
笑顔でセザールが答える。
「学校……」
サフィニアは学校へ通ったことが無い。どのような場所なのかも分からなかった。
「学校というのは、同じ年齢の子供たちが集まって、先生から学ぶ場所のことですよ」
ヘスティアが教えてくれた。
「ヘスティアも通っていたの?」
「はい、私もこちらへ来るまでは学校に通っていました」
「そうだったのね」
サフィニアはそれ以上のことを聞くのはやめることにした。ヘスティアは侍女になるために学校をやめて、ここにいるのだ。そのことを考えるとヘスティアに罪悪感を抱いてしまったのだ。
するとセザールが言った。
「サフィニア様、それにヘスティア嬢。これから一緒に町へ行きましょう」
「え? 町へ?」
突然の誘いに驚くサフィニア。一方のヘスティアは、嬉しくてはしゃいでいる。
「皆さんで一緒に町へ行けるのですか? とても楽しみです!」
「で、でも突然町へ出かけるなんて……一体どうして突然に? それにセザールは執事の仕事が忙しいでしょう?」
セザールはセイラの執事なので、サフィニアは気が引けてならなかった。
「そのことなら大丈夫です、ポルトス様から許可を頂いていますから。時間が惜しいです。先ずは馬車に乗りましょう、話なら中で出来ますから」
セザールは笑みを浮かべた――
****
馬車が走り出すと、早速セザールは説明を始めた。
「今日はこれから町の洋品店に行って、ウィルソン侯爵令嬢の誕生パーティーに来ていく、お2人のドレスを選びに行きます」
その言葉にヘスティアは目を丸くする。
「え? お2人って……まさか、私の分もですか?」
「はい、そうです。サフィニア様の侍女としてパーティーに参加していただきます。よろしいですね?」
「はい! 勿論です!」
「あ、あの。セザール。でもドレスを作るお金って……」
ヘスティアはエストマン公爵が自分に一切の興味を持っていないことを知っている。ドレスを作る予算を出してくれるとは思えなかったのだ。
「大丈夫、ご安心ください。エストマン公爵自らがドレスを作るようにと言ってくださったのです。いくら予算がかかっても、かまわないそうです」
「え!?」
「本当ですか!?」
その話にサフィニアは驚き、ヘスティアは笑顔になる。
「だから予算のことは一切気にされなくて大丈夫です。お2人の素敵なドレスを作りましょう」
「嬉しいです。さすがはエストマン公爵ですね」
ヘスティアはすっかり喜んでいるが、サフィニアは不思議で仕方が無かった。
「ねぇ、セザール。どうしてお父様はお金を出してくれることにしたのかしら?」
「それは、サフィニア様が娘だからではないでしょうか? 僕はそう思いますよ」
とてもではないが、セザールの話が信じられなかった。
「え? で、でも……」
「それより、お2人はどのような色のドレスが似合うでしょうか? お好きな色はありますか?」
「はい! 私はピンク色が好きです!」
セザールの質問に元気よく答えるヘスティア。
「いいですね。ヘスティア嬢は金色の髪なので、ピンクが似合いそうですね。サフィニア様は何色が好きでしょうか?」
質問をはぐらかそうとしているセザールに、サフィニアは気づいてしまった。
(やっぱり別の理由があるのだわ……でも……何も聞かない方が良さそうね)
「私は……水色、海のような水色がいいわ」
サフィニアは笑顔で答えるのだった――
朝食の後、サフィニアはヘスティアとリビングでダンスの練習を行っていた。
「はい、そうです。そこでターンです」
ヘスティアの弾くピアノの音に合わせて踊っていた時。
「ピアノの音が聞こえると思ったら、こちらにいらっしゃったのですね?」
スーツ姿のセザールがリビングに現れた。
「まぁ! いらっしゃいませ、セザール様!」
演奏の手を止めてヘスティアが笑顔で挨拶する。
「こんにちは、セザール。今日は一体どうしたの? あの……セイラ様の傍にいなくて良いの?」
サフィニアの脳裏に、セイラとセザールが一緒に帰っていく後姿が蘇る。
「セイラ様なら今の時間は学校へ行かれていますよ?」
笑顔でセザールが答える。
「学校……」
サフィニアは学校へ通ったことが無い。どのような場所なのかも分からなかった。
「学校というのは、同じ年齢の子供たちが集まって、先生から学ぶ場所のことですよ」
ヘスティアが教えてくれた。
「ヘスティアも通っていたの?」
「はい、私もこちらへ来るまでは学校に通っていました」
「そうだったのね」
サフィニアはそれ以上のことを聞くのはやめることにした。ヘスティアは侍女になるために学校をやめて、ここにいるのだ。そのことを考えるとヘスティアに罪悪感を抱いてしまったのだ。
するとセザールが言った。
「サフィニア様、それにヘスティア嬢。これから一緒に町へ行きましょう」
「え? 町へ?」
突然の誘いに驚くサフィニア。一方のヘスティアは、嬉しくてはしゃいでいる。
「皆さんで一緒に町へ行けるのですか? とても楽しみです!」
「で、でも突然町へ出かけるなんて……一体どうして突然に? それにセザールは執事の仕事が忙しいでしょう?」
セザールはセイラの執事なので、サフィニアは気が引けてならなかった。
「そのことなら大丈夫です、ポルトス様から許可を頂いていますから。時間が惜しいです。先ずは馬車に乗りましょう、話なら中で出来ますから」
セザールは笑みを浮かべた――
****
馬車が走り出すと、早速セザールは説明を始めた。
「今日はこれから町の洋品店に行って、ウィルソン侯爵令嬢の誕生パーティーに来ていく、お2人のドレスを選びに行きます」
その言葉にヘスティアは目を丸くする。
「え? お2人って……まさか、私の分もですか?」
「はい、そうです。サフィニア様の侍女としてパーティーに参加していただきます。よろしいですね?」
「はい! 勿論です!」
「あ、あの。セザール。でもドレスを作るお金って……」
ヘスティアはエストマン公爵が自分に一切の興味を持っていないことを知っている。ドレスを作る予算を出してくれるとは思えなかったのだ。
「大丈夫、ご安心ください。エストマン公爵自らがドレスを作るようにと言ってくださったのです。いくら予算がかかっても、かまわないそうです」
「え!?」
「本当ですか!?」
その話にサフィニアは驚き、ヘスティアは笑顔になる。
「だから予算のことは一切気にされなくて大丈夫です。お2人の素敵なドレスを作りましょう」
「嬉しいです。さすがはエストマン公爵ですね」
ヘスティアはすっかり喜んでいるが、サフィニアは不思議で仕方が無かった。
「ねぇ、セザール。どうしてお父様はお金を出してくれることにしたのかしら?」
「それは、サフィニア様が娘だからではないでしょうか? 僕はそう思いますよ」
とてもではないが、セザールの話が信じられなかった。
「え? で、でも……」
「それより、お2人はどのような色のドレスが似合うでしょうか? お好きな色はありますか?」
「はい! 私はピンク色が好きです!」
セザールの質問に元気よく答えるヘスティア。
「いいですね。ヘスティア嬢は金色の髪なので、ピンクが似合いそうですね。サフィニア様は何色が好きでしょうか?」
質問をはぐらかそうとしているセザールに、サフィニアは気づいてしまった。
(やっぱり別の理由があるのだわ……でも……何も聞かない方が良さそうね)
「私は……水色、海のような水色がいいわ」
サフィニアは笑顔で答えるのだった――
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