孤独な公女~私は死んだことにしてください

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

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3-16 気遣う心

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 その後、2人はセザールに連れられて貴族御用達の洋品店でドレスを何着も試着した。
そしてサフィニアは水色のドレス、ヘスティアはピンク色のドレスを仕立ててもらうことにしたのだった。


――帰りの馬車の中。

「お2人とも、良かったですね。誕生パーティーまでにドレスのサイズ直しが間に合って」

セザールが笑顔で2人に話しかける。

「そうね、セザールのおかげだわ」
「ありがとうございます、セザール様」

サフィニアとヘスティアは礼を述べたが、何故かそこでセザールの顔が曇った。

「申し訳ございません。サフィニア様、ヘスティア嬢」

「え? どうして謝るの?」
「どうかしたのですか?」

「それは……本来であれば新しくドレスを作るべきなのに、既製品ドレスのサイズ直しということになってしまったからです。ドレスを新調するには最低でも一カ月はかかってしまいますので」

目を伏せるセザール。

「セザール、そんなこと気にしないで? だってセザールがいなければ、私はドレスも無いのにリーネ様の誕生パーティーに参加しなければならなかったのだから」

「ですが既製品と、デザイナーが一から起こしたデザインドレスとでは、やはり全く違います」

「いいのよ。だってデザインドレスは、きっと目立つに決まっているわ。私はなるべく目立たない方がいいのよ。それに私自身、あのドレスをすごく気に入っているのだから」

「サフィニア様……」

セザールは顔を上げて、まだ幼いサフィニアの顔をじっと見つめる。

(サフィニア様……まだ10歳なのに、僕に気を使って下さるなんて……)

すると今まで黙って話を聞いていたヘスティアが手を上げた。

「あの、私良いことを思いついたのですが……よろしいでしょうか?」

「どうしたの? ヘスティア」

首傾げるサフィニア。

「刺繍をしてみてはいかがでしょうか?」

「刺繍? ドレスにですか?」

セザールが尋ねる。

「はい、そうです。サフィニア様、とても奇麗に花柄の刺繍が出来るようになったのです。確か、ドレスのサイズ直しは来週に仕上がりますよね? 裾の部分に刺繍を入れてみてはどうでしょう? リボンを縫い付けたりするのも良いかもしれませんし」

「確かに素晴らしい考えだと思いますが、それでは時間が足りないのではありませんか? だとしたら店側にドレスに装飾を施してもらえるように、伝えますけど?」

するとサフィニアが言った。

「いいのよ、セザール。装飾なら自分でするから。……ヘスティア、手伝ってくれる?」

「もちろんです、サフィニア様」

その言葉にセザールは怪訝な表情を浮かべる。

「え……? ですが……」

「初めての正式なドレスだから、自分で手を加えてみたいの。いいでしょう?」

しかし、それは建前で別の理由が本当はあったのだ。
本日サフィニアの為に購入したドレスは、かなり高額だった。どのような理由でドレスを買ってもらえることになったのかは不明だが、これ以上お金がかかればエストマン公爵家から何を言われるか分かったものでは無いと考えたのだ。

(私はエストマン公爵家の皆から嫌われている……これ以上ドレスにお金を使えば、図々しいと思われてしまうもの)

そんなサフィニアの胸の内までは、さすがのセザールも気づけなかった。

「分かりました。サフィニア様がそうおっしゃるのなら、僕は何も申し上げることはありません。それではせめて、もう少し早くサイズ直しが出来ないか交渉しておきますね。少しでもドレスの装飾に時間をかけることが出来るように」

「ありがとう、セザール」
「セザール様、ありがとうございます」

セザールに礼を述べると、サフィニアはポツリと言った。

「後はリーネ様への誕生プレゼントね……。どうすれば良いかしら」

「それならご安心ください。僕の方からとっておきの誕生プレゼントを用意させていただきましたから」

そしてセザールは笑みを浮かべた――
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