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3-17 用意されたプレゼント
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サフィニアとヘスティアがドレスを買った日から時が流れ……明日はいよいよウィルソン侯爵令嬢の誕生パーティーの日となった。
今、2人は午後の日差しが差し込むリビングにいた。
静かなリビングには針と糸が動く音と、時計の秒針を刻む音だけが聞こえている。
サフィニアは刺繍枠に広げられた水色のドレスを見つめながら、慣れた手つきで同系色の糸でバラの刺繍を刺し、その隣ではヘスティアがサテンのリボン刺繍を丁寧に縫い付けている。
2人は殆ど会話を交わすこともなく作業に没頭していたが、穏やかな空気が流れていた。
「サフィニア様。こちらの刺繍……もう少し花の形を整えたほうが、より奇麗に見えると思いますよ?」
ヘスティアはサフィニアの持つ針先を見つめながら、声をかけてきた。
「確かにヘスティアの言う通りね。もう少し手を加えてみるわ。だけどヘスティアの刺繍は本当に綺麗ね」
サフィニアはヘスティアが施したバラ模様のリボン刺繍をじっと見つめる。
「ありがとうございます。サフィニア様の刺繍も、とっても奇麗ですよ。きっと明日は、誰にも見劣りしないドレスになるに決まっています」
「そう? ありがとう。ヘスティア」
サフィニアは笑みを浮かべたが、その表情は浮かなかった。
何故ならドレスは仕上げられそうだったが、肝心のリーネ侯爵令嬢の誕生プレゼントがまだ用意できていなかったからだ。
(セザールは、とっておきの誕生プレゼントを用意したと言っていたけど……どうなっているのかしら? 明日はいよいよリーネ様の誕生パーティーなのに……)
セザールはサイズ直しが終わったドレスを届けに来てから、姿を見せていない。
サフィニアが不安に思うのは無理もないことだった。
その時。
――コンコン
静かに扉がノックされる音が響き、ヘスティアが笑顔で立ち上がった。
「サフィニア様! きっとセザール様がいらしたのですよ! 私扉を開けてきますね!」
ヘスティアは駆け足で扉に向かうと大きく開いた。するとやはり姿を現したのは笑顔のセザールだった。腕には藤製の籠を抱えている。
「セザール様、いらっしゃいませ」
ヘスティアは笑顔でセザールに挨拶した。
「こんにちは、ヘスティア嬢」
セザールも挨拶を返すと、次にサフィニアに視線を移した。
「サフィニア様、お待たせして申し訳ございません。明日、ウィルソン侯爵令嬢にお渡しするプレゼントを御用意させていただきました」
セザールが籠の蓋をそっと開けると、小さな栗色のリスがつぶらな瞳でサフィニアを見つめていた。
「まぁ……これは……リス!?」
サフィニアは驚いて目を見張った。
「か、可愛い……! 図鑑でしか見たことが無いので私、本物を見るのは初めてです!」
ヘスティアは興奮を隠せない。
「このリスはとても人懐こいです。きっとウィルソン侯爵令嬢は気に入っていただけると思います。あの方は動物好きで有名な御令嬢なのですよ」
「セザール……このリス、触ってみてもいい?」
サフィニアはセザールをじっと見上げた。
「ええ、もちろんです。明日まではサフィニア様のペットだと思ってくださって結構ですから」
そこでサフィニアはそっと手を伸ばし、籠の中のリスに指先で触れてみた。その瞬間、リスはくるりと身体を丸めて、指先に頬を寄せた。
「……本当に人懐こいのね。フフ…‥それに温かい」
サフィニアは小さく呟いた。
「はい。なので育てやすいと思います。リスの飼育方法を記したメモをお渡ししますので、今日はお2人でお世話をしてみてください」
セザールはサフィニアにメモを手渡すとドレスの出来栄えに感心し、「明日迎えに上がります」と言って帰って行った。
セザールが帰ると2人は早速メモを見てリスの世話をし、夕方までかけてドレスを仕上げたのだった――
今、2人は午後の日差しが差し込むリビングにいた。
静かなリビングには針と糸が動く音と、時計の秒針を刻む音だけが聞こえている。
サフィニアは刺繍枠に広げられた水色のドレスを見つめながら、慣れた手つきで同系色の糸でバラの刺繍を刺し、その隣ではヘスティアがサテンのリボン刺繍を丁寧に縫い付けている。
2人は殆ど会話を交わすこともなく作業に没頭していたが、穏やかな空気が流れていた。
「サフィニア様。こちらの刺繍……もう少し花の形を整えたほうが、より奇麗に見えると思いますよ?」
ヘスティアはサフィニアの持つ針先を見つめながら、声をかけてきた。
「確かにヘスティアの言う通りね。もう少し手を加えてみるわ。だけどヘスティアの刺繍は本当に綺麗ね」
サフィニアはヘスティアが施したバラ模様のリボン刺繍をじっと見つめる。
「ありがとうございます。サフィニア様の刺繍も、とっても奇麗ですよ。きっと明日は、誰にも見劣りしないドレスになるに決まっています」
「そう? ありがとう。ヘスティア」
サフィニアは笑みを浮かべたが、その表情は浮かなかった。
何故ならドレスは仕上げられそうだったが、肝心のリーネ侯爵令嬢の誕生プレゼントがまだ用意できていなかったからだ。
(セザールは、とっておきの誕生プレゼントを用意したと言っていたけど……どうなっているのかしら? 明日はいよいよリーネ様の誕生パーティーなのに……)
セザールはサイズ直しが終わったドレスを届けに来てから、姿を見せていない。
サフィニアが不安に思うのは無理もないことだった。
その時。
――コンコン
静かに扉がノックされる音が響き、ヘスティアが笑顔で立ち上がった。
「サフィニア様! きっとセザール様がいらしたのですよ! 私扉を開けてきますね!」
ヘスティアは駆け足で扉に向かうと大きく開いた。するとやはり姿を現したのは笑顔のセザールだった。腕には藤製の籠を抱えている。
「セザール様、いらっしゃいませ」
ヘスティアは笑顔でセザールに挨拶した。
「こんにちは、ヘスティア嬢」
セザールも挨拶を返すと、次にサフィニアに視線を移した。
「サフィニア様、お待たせして申し訳ございません。明日、ウィルソン侯爵令嬢にお渡しするプレゼントを御用意させていただきました」
セザールが籠の蓋をそっと開けると、小さな栗色のリスがつぶらな瞳でサフィニアを見つめていた。
「まぁ……これは……リス!?」
サフィニアは驚いて目を見張った。
「か、可愛い……! 図鑑でしか見たことが無いので私、本物を見るのは初めてです!」
ヘスティアは興奮を隠せない。
「このリスはとても人懐こいです。きっとウィルソン侯爵令嬢は気に入っていただけると思います。あの方は動物好きで有名な御令嬢なのですよ」
「セザール……このリス、触ってみてもいい?」
サフィニアはセザールをじっと見上げた。
「ええ、もちろんです。明日まではサフィニア様のペットだと思ってくださって結構ですから」
そこでサフィニアはそっと手を伸ばし、籠の中のリスに指先で触れてみた。その瞬間、リスはくるりと身体を丸めて、指先に頬を寄せた。
「……本当に人懐こいのね。フフ…‥それに温かい」
サフィニアは小さく呟いた。
「はい。なので育てやすいと思います。リスの飼育方法を記したメモをお渡ししますので、今日はお2人でお世話をしてみてください」
セザールはサフィニアにメモを手渡すとドレスの出来栄えに感心し、「明日迎えに上がります」と言って帰って行った。
セザールが帰ると2人は早速メモを見てリスの世話をし、夕方までかけてドレスを仕上げたのだった――
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