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9-14 彼の名前
「…そうそう、まずは一番初めは薄く色を塗っていくんだよ」
「こうですか?」
色鉛筆を寝かせるようにスケッチブックに置いて優しく塗っていく。
「…うん、上手だよ」
私は彼から早速色鉛筆画の手解きを受けていた。
「次は線を重ねるように塗っていくんだ。こんな風にね」
彼は自分のスケッチブックに色鉛筆を走らせながら説明していく。そしてそれを真剣に見つめる私。彼の右手はまるで魔法のようだ。少しずつ絵が鮮明になってくる様子は見ていてとても楽しかった。
「それじゃ君もやってご覧?」
「はい」
彼の絵の描き方を見様見真似で描いてみる。
「凄いね…。君、中々上手じゃないか?」
彼は嬉しそうに私を見た。
「本当ですか?ありがとうございます」
私も笑みを浮かべて彼を見る。お世辞かもしれないけれど、彼に褒められるのは嬉しかった。
「よし、次は色を重ねて塗っていくよ。まずは薄い色か明るい色を先に塗っていくんだよ」
シャッシャッ
見事な手さばきで重ね塗りをしてく彼。私はすっかり彼の手元の動きに見惚れていた。
「…すごい…本当にお上手ですね」
「そうかな?僕は絵を描くのが大好きでね‥独学で学んだんだ。…でも褒められると悪い気はしないな」
彼は少しだけ寂しげな笑みを浮かべながら色鉛筆を重ね塗りしていく。‥どうして大好きな絵を描いているのに、そんなに寂しげな表情をするのか気になったけれども、私は彼の名前すら知らないのだ。だから尋ねることは出来なかった。
「さて、それじゃ君も同じように描いてごらん?」
「はい、分かりました」
その後も絵のレッスンは続けられた。
彼が先に絵を描いて、私はその様子を観察する。そして次に彼に見てもらいながら絵を描いて、再び彼がお手本を見せる…。これを繰り返しながら私と彼は一緒に絵を描き続けた。
そうして絵を描き始めてから約2時間が経過した―。
「うん、上手に描けたね?」
彼が私の絵を見て満足そうに頷く。
「自分でも驚いています…こんなに綺麗に描けたなんて…信じられません…」
「そうかな?君は真剣に絵を描いていたから、僕は絶対に上手に描けると信じていたよ?」
笑みを浮かべて私を見る彼に思わず顔が赤くなってしまった。
「あ…ありがとうございます…」
彼の目を見るのが気恥ずかしく、俯き加減で返事をすると彼は手にしていたスケッチブックを突然渡してきた。
「え…?」
「このスケッチブック…君にあげるよ」
戸惑っていると彼が言った。
「え?で、でも…このスケッチブックには描きためた絵が沢山ありますよ?いいのですか?そんな貴重なものをいただいても…」
「うん。君に貰って欲しいんだよ」
「わ、私に‥?」
心臓の音が大きくなる。
すると彼は寂しげに言った。
「僕の家ではね…僕が絵を描くことを好まない人たちが大勢いるんだ。だからどのみち、持ち帰ることが出来ないんだよ。だから君に貰って欲しいんだ」
「そういう事なら…」
私はスケッチブックを受け取ると胸に抱きしめた。
「ありがとうございます…とっても嬉しいです」
「良かった…。それじゃ、僕はもう行くね」
彼は立ち上がった。
「は、はい。本当にありがとうございます」
私も慌てて立ち上がり、彼を見た。
「あ、あの…」
お名前は…?
しかし、私は聞けなかった。女性の方から名を尋ねるなんて、はしたないと思われたくなかったからだ。
「何?」
彼は笑顔で尋ねてくる。
「い、いえ。何でもありません。本日は1日ありがとうございました」
彼に頭を下げた。
「お礼なんていいよ。こっちも楽しかったから。それじゃあね」
「はい」
私の返事を聞いた彼は踵を返して帰りかけ…突然私に声を掛けてきた。
「そう言えば…君の名前、何て言うんだい?」
「私ですか?私は…ロザリー・ダナンと申します」
「ロザリーか‥うん。素敵な名前だね。僕の名前はルペルト。元気でね、ロザリー」
彼は初めて私に名を教えくれた。
「ルペルト…様…」
私は彼の背中が見えなくなるまで見送った―。
「こうですか?」
色鉛筆を寝かせるようにスケッチブックに置いて優しく塗っていく。
「…うん、上手だよ」
私は彼から早速色鉛筆画の手解きを受けていた。
「次は線を重ねるように塗っていくんだ。こんな風にね」
彼は自分のスケッチブックに色鉛筆を走らせながら説明していく。そしてそれを真剣に見つめる私。彼の右手はまるで魔法のようだ。少しずつ絵が鮮明になってくる様子は見ていてとても楽しかった。
「それじゃ君もやってご覧?」
「はい」
彼の絵の描き方を見様見真似で描いてみる。
「凄いね…。君、中々上手じゃないか?」
彼は嬉しそうに私を見た。
「本当ですか?ありがとうございます」
私も笑みを浮かべて彼を見る。お世辞かもしれないけれど、彼に褒められるのは嬉しかった。
「よし、次は色を重ねて塗っていくよ。まずは薄い色か明るい色を先に塗っていくんだよ」
シャッシャッ
見事な手さばきで重ね塗りをしてく彼。私はすっかり彼の手元の動きに見惚れていた。
「…すごい…本当にお上手ですね」
「そうかな?僕は絵を描くのが大好きでね‥独学で学んだんだ。…でも褒められると悪い気はしないな」
彼は少しだけ寂しげな笑みを浮かべながら色鉛筆を重ね塗りしていく。‥どうして大好きな絵を描いているのに、そんなに寂しげな表情をするのか気になったけれども、私は彼の名前すら知らないのだ。だから尋ねることは出来なかった。
「さて、それじゃ君も同じように描いてごらん?」
「はい、分かりました」
その後も絵のレッスンは続けられた。
彼が先に絵を描いて、私はその様子を観察する。そして次に彼に見てもらいながら絵を描いて、再び彼がお手本を見せる…。これを繰り返しながら私と彼は一緒に絵を描き続けた。
そうして絵を描き始めてから約2時間が経過した―。
「うん、上手に描けたね?」
彼が私の絵を見て満足そうに頷く。
「自分でも驚いています…こんなに綺麗に描けたなんて…信じられません…」
「そうかな?君は真剣に絵を描いていたから、僕は絶対に上手に描けると信じていたよ?」
笑みを浮かべて私を見る彼に思わず顔が赤くなってしまった。
「あ…ありがとうございます…」
彼の目を見るのが気恥ずかしく、俯き加減で返事をすると彼は手にしていたスケッチブックを突然渡してきた。
「え…?」
「このスケッチブック…君にあげるよ」
戸惑っていると彼が言った。
「え?で、でも…このスケッチブックには描きためた絵が沢山ありますよ?いいのですか?そんな貴重なものをいただいても…」
「うん。君に貰って欲しいんだよ」
「わ、私に‥?」
心臓の音が大きくなる。
すると彼は寂しげに言った。
「僕の家ではね…僕が絵を描くことを好まない人たちが大勢いるんだ。だからどのみち、持ち帰ることが出来ないんだよ。だから君に貰って欲しいんだ」
「そういう事なら…」
私はスケッチブックを受け取ると胸に抱きしめた。
「ありがとうございます…とっても嬉しいです」
「良かった…。それじゃ、僕はもう行くね」
彼は立ち上がった。
「は、はい。本当にありがとうございます」
私も慌てて立ち上がり、彼を見た。
「あ、あの…」
お名前は…?
しかし、私は聞けなかった。女性の方から名を尋ねるなんて、はしたないと思われたくなかったからだ。
「何?」
彼は笑顔で尋ねてくる。
「い、いえ。何でもありません。本日は1日ありがとうございました」
彼に頭を下げた。
「お礼なんていいよ。こっちも楽しかったから。それじゃあね」
「はい」
私の返事を聞いた彼は踵を返して帰りかけ…突然私に声を掛けてきた。
「そう言えば…君の名前、何て言うんだい?」
「私ですか?私は…ロザリー・ダナンと申します」
「ロザリーか‥うん。素敵な名前だね。僕の名前はルペルト。元気でね、ロザリー」
彼は初めて私に名を教えくれた。
「ルペルト…様…」
私は彼の背中が見えなくなるまで見送った―。
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