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第1章 17 部屋においで?

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「すみません…タクシー代まで出して頂いて…」

タクシーを降りた私は拓也さんにお礼を述べた。

「いいんだって。この間、メディカルセンターへ行くのに往復のタクシー代どころか、治療費だって支払っているだろう?かなり出費しているじゃないか」

その言葉に驚いた。

「えっ?!何故その事を知ってるんですか?!」

「あ…それは…」

拓也さんは一瞬困った顔を見せた。そこで私は気が付いた。

「そう言えば拓也さんは興信所の人でしたよね?と言う事は…知っていても当然ですよね…?私達…と言うか、たっくんを見守っていたから知っていたんですね?」

「ああ…そうなんだ…。ごめん」

ばつが悪そうに拓也さんは謝って来た。

「何を謝るのですか?」

「つまり…その…黙って後をつけるような真似をして…これじゃストーカーと思われても仕方ないか…」

溜息をつく拓也さんに言った。

「…仕方ないですよ。お仕事なんですよね?」

「仕事…そう、仕事なんだよ」

その話し方は、まるで自分自身に言い聞かせているかのように聞こえた。

「さて、話はこれ位にして…そろそろたっくんの元へ行かないと。きっと寂しがっているだろうから」

すると拓也さんは付け足した。

「それだけじゃない。腹だって相当空いているさ」

「拓也さん…」

思わずじっと見つめると、彼は笑った。

「いや、これは俺の勘で言ってみただけだから」

「いえ。確かにその通りです。たっくん…絶対お腹を空かしているに決まってます!」

私は急いでアパートへ向かい…その後ろを拓也さんが追った―。



ピンポーン

アパートのインターホンのチャイムを押した。すると少したってから…。

ガチャ…

アパートの扉が開かれ、中からたっくんが顔を覗かせた。

「あ…お姉ちゃん?」

「たっくん。今夜は1人なんだって?」

「うん。そうだけど…どうしてお姉ちゃんが知ってるの?」

「それはね、このお兄さんが…」

説明しかけてハタと気が付いた。そうだ…拓也さんは興信所の人だから自分の身許がバレたら大変なんだ…。

「あ、あの…拓也さん…」

背後に立つ、拓也さんを振り返った時私は見た。拓也さんは目を見開き、たっくんを見つめている。その様子が尋常では無い物を感じた。そう、まるで何かに驚いたような…そんな表情だった。

「お兄ちゃん…誰…?」

たっくんが不安そうな目で拓也さんを見た。それはそうだろう。見知らぬ男の人に食い入るような目で見つめられれば、誰だって戸惑うに決まっている。
すると拓也さんは我に返ったかの様子でたっくんに話しかけた。

「あ、ごめんごめん。俺はね、このお姉さんの友達なんだ。よろしくね。卓也君」

「お姉ちゃんの友達…?ふ~ん。そうなんだ。良かった~」

良かった…?何が良かったんだろう?それよりも…。

「ねぇ、たっくん。お姉ちゃんが今夜もご飯作ってあげるからおいで?」

「ごはん…本当にいいの?」

たっくんが目を見開いて私を見た。

「うん、勿論。それじゃ行こう?」

私はたっくんに手を差し伸べると、しっかり握り返してくれた―。
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