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第2章 82 不穏な要素
しおりを挟む彩花の会社に寄った帰り、俺は卓也の様子を見に行く為に養護施設へ向かった。
今はまだ春休み中だから学校には行っていないはずだ。彩花のことばかり気にかけてはいられない。
この時代の俺だって、十分不幸な立場に置かれているのだから。何とか卓也の力になりたかった。
「自分で自分の子供時代を助けるなんて‥‥本当におかしな話だよな」
思わず苦笑しながら、養護施設行のバス停へ向かった――。
****
バスに揺られて、30分。
俺は養護施設にやってきていた。
早速、扉を開けて中へと入って行く。
正面入り口の大きなシューズボックスの上には職員を呼び出す為のインターホンが置かれている。
ピンポーン
迷わずインターホンを押すと、すぐに入り口傍にある職員室の引き戸ががらりと開けられ、若手男性スタッフが現れた。
「すみません。私は上条拓也と申します。こちらに先日入所してきた上野卓也君と面会を希望したくて伺いました」
そして頭を下げた。
「そうでしたか。それで…面会希望の約束はされておりますか?」
男性スタッフが当然の質問をしてくる。
「いえ…すみません。不意に思い立ったものですから‥‥あの、やはり突然の面会は難しかったでしょうか?」
やはり、不意の来訪は難しかったのかもしれない。
「ええ…そうですね…。実は今職員と一緒に新しい学校の転校手続きを取りに行っているのですよ」
「あ…そうだったのですか。それでは会うのは無理ですね」
仕方ない。それなら諦めて帰るしかない。
「はい、申し訳ございません」
男性スタッフはすまなそうにしている。
「いえ、いいんです。突然訪ねてしまった自分が悪いのですから。それでは失礼致します」
男声スタッフにお礼を述べると、養護施設を後にした――。
****
帰りのバスの中、今日はこれからどうしようかと考え込んでしまった。
本当は親父があの後どうなったのか、警察に訪ねに行きたいところだが流石にそれは思いとどまった。
何故なら、下手に警察に関わって自分の身元を調べられようものならまずいことになるからだ。
ただでさえ、俺は今回のタイムトラベルで警察と深く関わってしまった。
「これ以上は深く関わらないほうがいいな…‥」
ポツリと呟き、思った。
もう少し、この世界に滞在したら…一度だけ現代に戻って教授に会おうと…。
大丈夫、今回は順調にいっているはずだ。
俺は自分にそう言い聞かせたが、心の中ではまだどこか不安な自分がいた。
やがてその不安は現実となり‥‥再び俺を絶望の淵に叩き落とすことになるとは、この時の俺は気づいていなかったのだった――。
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