168 / 200
第2章 108 苛立つ彩花
しおりを挟む
彩花の務める会社近くの自販機の隣で俺は彩花が会社から出てくるのを待った。
きっと彩花は子供時代の俺を案じているかも知れないから、安心させてやらなければ。
それに、今夜は伝えなければならないことがある。
やがて、彩花が職場から出てきた。
そして俺を見ると目を見開いて足を止める。
「え…?」
「あ、お帰り。仕事終わったんだね」
彩花を安心させる為に笑みを浮かべて声を掛けた。
「え…?こんなところで何をしているのですか?」
警戒心顕に彩花が尋ねてくる。
「うん、待っていたんだよ。仕事が終わるのを」
「待っていたって…ひょっとして…」
まずい!またストーカーに間違われたらたまったものじゃない。
「あー、違う違う!ストーカーだとか…そんな怪しい人間じゃないから安心して」
「一体、何の用ですか…?」
「うん、実は俺…こういう者なんだ」
この日の為に用意しておいた偽の名刺を差し出した。
「上条…拓也…?興信所…?」
「何?どうかした?」
「いえ、貴方は興信所の人だったのですね。それで?興信所の人が一体私に何の用でしょうか?用件なら手短にしてもらえませんか?私、急いで帰らなければならないんです」
どうやら信じてくれたようだが……妙に冷たい言い方に心が傷つく。
彩花……。
お前は知らないだろうけど、俺たちは様々な過去で恋人同士で……深く愛し合っていたんだぞ…?
そんな気持ちを押し込めて、要件だけを伝えた。
「あの少年の事を気にしているんだろう?だったら安心していいよ。今夜は何も起こらないから」
「え…?」
「あの…どうして、今夜は何もおこらないと言う事が貴方に分るのですか?」
警戒心顕に彩花が尋ねてくる。
それはそうだろうな……。だが、俺には分かる。ここは俺にとって21回目の過去だから。
「それはね、俺が興信所の人間だからだよ。実はある人物から…卓也君の事が心配だから逐一報告をして欲しいって頼まれているんだ」
「え…?それは誰に頼まれたんですか?」
「おっと、俺が話せるのはここまでだよ。依頼主の事は話せないからね」
彩花が突っ込んで尋ねてくるが…これ以上話せばボロが出てきそうだ。
「たっくんの事を調べているから、今夜は何もおこらないって言えるのですか?」
「そうだよ。対象者は卓也君だけど、当然そうなってくると彼に関わる周囲の人達も調査対象になるからね。それで…卓也君の父親は、今夜は帰って来ない。アルバイトでガードマンの仕事に行っているからね」
これで信じて貰えるだろうか?
「え…?アルバイト…?一応働くことはあるのですね」
「あ、ああ。確かにあんな男だけどね。働かないと生きていけないから、生活がぎりぎりになったら臨時のアルバイトに行く…そんな感じさ。だけど…普通の父親のように働いたり、子供の世話なんか見やしない…最低な男だ」
つい、自分の感情がこもってしまう。
「たっくんの事、心配しているんですね」
「え?あ、ああ。まあね…」
何だか彩花が苛立ってきた気がする。
「だったら…何故ですか?」
「え?」
「たっくんを監視していたなら、あの子がどれだけ父親から酷い目に遭わされているのか見てきたはずですよね?どうして助けてあげようとしないのですかっ?」
彩花…そこまで俺を心配してくれているのか?
「それは…俺はあくまで彼の監視をして報告をするだけの依頼を受けて…いるから?かな…」
「…ええ。分りますよ。つまりは…虐待を受けている子供を助けずに見て見ぬふりをしているって事ですよね?関わるのが面倒臭いって事ですよね?」
駄目だ、話せば話すほど彩花が俺に怒りを募らせていく。
「いや、俺は別にそこまでは…」
「たっくんは今夜は1人で過ごすって事ですよね?誰もいない部屋で…ひとりきりで…しかもまだ、たった10歳の子供なのに!」
「そ、それは…」
思わず彩花の気迫に圧される。すると彩花は何も言わず、俺の脇を通り抜けて駅へと歩き始めた。
駄目だ!今駅は……っ!
「あ、ちょっと待って!俺が今夜、君の所へ来たのは…!」
しかし、彩花は俺の静止など聞こえないかのように歩き去っていく。
「彩花っ!」
仕方ない…俺は彼女の後を追うことにした――。
きっと彩花は子供時代の俺を案じているかも知れないから、安心させてやらなければ。
それに、今夜は伝えなければならないことがある。
やがて、彩花が職場から出てきた。
そして俺を見ると目を見開いて足を止める。
「え…?」
「あ、お帰り。仕事終わったんだね」
彩花を安心させる為に笑みを浮かべて声を掛けた。
「え…?こんなところで何をしているのですか?」
警戒心顕に彩花が尋ねてくる。
「うん、待っていたんだよ。仕事が終わるのを」
「待っていたって…ひょっとして…」
まずい!またストーカーに間違われたらたまったものじゃない。
「あー、違う違う!ストーカーだとか…そんな怪しい人間じゃないから安心して」
「一体、何の用ですか…?」
「うん、実は俺…こういう者なんだ」
この日の為に用意しておいた偽の名刺を差し出した。
「上条…拓也…?興信所…?」
「何?どうかした?」
「いえ、貴方は興信所の人だったのですね。それで?興信所の人が一体私に何の用でしょうか?用件なら手短にしてもらえませんか?私、急いで帰らなければならないんです」
どうやら信じてくれたようだが……妙に冷たい言い方に心が傷つく。
彩花……。
お前は知らないだろうけど、俺たちは様々な過去で恋人同士で……深く愛し合っていたんだぞ…?
そんな気持ちを押し込めて、要件だけを伝えた。
「あの少年の事を気にしているんだろう?だったら安心していいよ。今夜は何も起こらないから」
「え…?」
「あの…どうして、今夜は何もおこらないと言う事が貴方に分るのですか?」
警戒心顕に彩花が尋ねてくる。
それはそうだろうな……。だが、俺には分かる。ここは俺にとって21回目の過去だから。
「それはね、俺が興信所の人間だからだよ。実はある人物から…卓也君の事が心配だから逐一報告をして欲しいって頼まれているんだ」
「え…?それは誰に頼まれたんですか?」
「おっと、俺が話せるのはここまでだよ。依頼主の事は話せないからね」
彩花が突っ込んで尋ねてくるが…これ以上話せばボロが出てきそうだ。
「たっくんの事を調べているから、今夜は何もおこらないって言えるのですか?」
「そうだよ。対象者は卓也君だけど、当然そうなってくると彼に関わる周囲の人達も調査対象になるからね。それで…卓也君の父親は、今夜は帰って来ない。アルバイトでガードマンの仕事に行っているからね」
これで信じて貰えるだろうか?
「え…?アルバイト…?一応働くことはあるのですね」
「あ、ああ。確かにあんな男だけどね。働かないと生きていけないから、生活がぎりぎりになったら臨時のアルバイトに行く…そんな感じさ。だけど…普通の父親のように働いたり、子供の世話なんか見やしない…最低な男だ」
つい、自分の感情がこもってしまう。
「たっくんの事、心配しているんですね」
「え?あ、ああ。まあね…」
何だか彩花が苛立ってきた気がする。
「だったら…何故ですか?」
「え?」
「たっくんを監視していたなら、あの子がどれだけ父親から酷い目に遭わされているのか見てきたはずですよね?どうして助けてあげようとしないのですかっ?」
彩花…そこまで俺を心配してくれているのか?
「それは…俺はあくまで彼の監視をして報告をするだけの依頼を受けて…いるから?かな…」
「…ええ。分りますよ。つまりは…虐待を受けている子供を助けずに見て見ぬふりをしているって事ですよね?関わるのが面倒臭いって事ですよね?」
駄目だ、話せば話すほど彩花が俺に怒りを募らせていく。
「いや、俺は別にそこまでは…」
「たっくんは今夜は1人で過ごすって事ですよね?誰もいない部屋で…ひとりきりで…しかもまだ、たった10歳の子供なのに!」
「そ、それは…」
思わず彩花の気迫に圧される。すると彩花は何も言わず、俺の脇を通り抜けて駅へと歩き始めた。
駄目だ!今駅は……っ!
「あ、ちょっと待って!俺が今夜、君の所へ来たのは…!」
しかし、彩花は俺の静止など聞こえないかのように歩き去っていく。
「彩花っ!」
仕方ない…俺は彼女の後を追うことにした――。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
友達婚~5年もあいつに片想い~
日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は
同僚の大樹に5年も片想いしている
5年前にした
「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」
梨衣は今30歳
その約束を大樹は覚えているのか
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる