6月9日はきっと晴れるから

第2章 123 苛立ち

　彩花がメニューを広げながら、何やらブツブツ言っている。

「う～ん…何にしようかな…もう21時過ぎてるし、カロリーが低いメニューにしようかな？」

「彩花は痩せてるんだからカロリーなんか気にすること無いだろう？」

「やだ、何言ってるの？そんな事無いからね。何も知らないからそんな事言えるんだよ」

「…何も知らないわけじゃないけどな」

彩花のことなら何だって知っているつもりだ。
そして彩花がいかに綺麗で魅力的な身体をしているかって事くらい……。
何しろ俺たちは数えきれないくらい身体を重ねて来たのだから。

「え？…え？な、何？」

彩花が怪しげな目つきで俺を見る。
しまった！
この世界で俺と彩花は……そんな関係では無かった。

「あ、いや。ほら、別に深い意味は無いからな？気にしないで好きなの食べろよ」

「う～ん…」

「なら、これにする」

彩花はエスニック風プレート料理を選んだ――。



＊＊＊＊

「あ～美味しかった……ねぇ、会えなくはなるけど…電話やメール連絡位は出来るよね？」


今夜の彩花はいやに積極的だ。
何か‥‥…感じ取っているのだろうか？だけど、駄目だ。これ以上彩花と距離を詰めるわけにはいかない。
程よい距離感を保つのが……互いに取って一番良いのだから。

「拓也さん？」

「ごめん…」

「え？」

「電話もメールも…無理なんだ。連絡は取れなくなる」

「え…？冗談だよね？今や海外に行っても普通に連絡取り合えるじゃない」

「海外にはいないけど…とにかく、理由は話せないけど…無理なんだ。ごめん」

悲し気なめで俺を見る彩花。
その視線が何より辛かった。

「うん、分かったよ…ごめんね。あ、私…ちょっと化粧室行ってくるね」

「あ、ああ…」

突然どうしたのだろう？不思議に思いながらも俺は返事をした。
この時、彩花が何を考えているのか知る由も無く……。


　あれから10分近く経過している。

「遅いな……彩花……ん？」

その時になって気付いた。
彩花の荷物が全て消えていたと言う事に。

「まさか……！先に帰ったのか？！」

見ると、テーブルの上の伝票迄消えている。

慌てて店員に尋ねると、もう支払いは済んであるとのことだった。

彩花‥‥…っ！！一体何考えているんだっ？！
お前、今自分が危険な目に晒されているのが分からないのかっ？！

急いで店を飛び出ると、駐車場へ向かった――。



＊＊＊＊

　車を走らせ、アパートの敷地内に駐車させるとすぐに彩花のアパートへ向かった。

「まだ……帰っていないのか‥‥…？」

部屋の灯りは真っ暗で鍵もかかっている。
どうやら俺は彩花より早く到着してしまったようだ。

「くそ……っ！どうして…‥俺の心をかき乱すような真似をするんだよ……！」

もし、彩花が帰ってきたら……絶対に問い詰めてやらなければ。
何故先に店を出たのかを。



だが、そんな気持ちは何処かへ吹き飛んでしまった。

アパートへ戻って来た彩花の姿を見た瞬間に――。