身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
32 / 376

3-2 苦手な存在

しおりを挟む
 朝食後―

 エルウィンはイライラしながら外出用の青い防寒マントを羽織り、城の外目指して歩いていた。何故防寒マントを身にまとっているのか…それはある場所へ行く為である。

「全く忌々しい…今年もあいつらをこの城に…神聖な『アイゼンシュタット城』に招き入れるなど…!」

 エルウィンは娼婦を酷く毛嫌いしていた。
派手な衣装にキツイ香水の匂いを振りまき、男の部屋を出居りしている姿を子供の頃から見ていれば嫌悪感が湧いてくるのは当然であった。しかもその娼婦のせいで…エルウィンの家族は崩壊しかけてしまった過去がある。その為、彼が彼女たちを憎むのも無理は無かった。


「!」

長い廊下を歩いていると、エルウィンはこの城で働く若いメイド達の集団に出会ってしまった。彼女達は皆黒のロングワンピースにエプロンドレス姿という出で立ちである。
メイドたちは雪が降ってきたた為、越冬の準備をしていたのだ。

(くそっ…!何てタイミングが悪いんだ…!)

 この城の城主である自分がメイドと鉢合わせをしたくないという理由で引き返すのは癪だった。
彼女達もまた、いざと言う時は武器を持って戦う戦闘要員である。アイゼンシュタット城にとって、大切な使用人たちではあるのだが…それ以外に彼女たちは特別な重要使命を持っている。その使命というものが、潔癖なエルウィンに取ってはどうしても我慢出来なかったのだ。

(もういい…あんなメイド達など…かまうものか…っ!)

エルウィンはそのまま廊下を歩き続けると、すぐにメイド達に気付かれた。

「まぁ、エルウィン様ではありませんか。ご挨拶させて頂きます」

1人のメイドがロングスカートの裾をつまんで挨拶をした。

「エルウィン様。ご挨拶申し上げます」
「いかがお過ごしだったでしょうか?」
「どちらへいらっしゃるのですか?」

次々とメイド達はエルウィンの傍に集まり、挨拶をしてくる。若く、美しく、そして何よりも強い彼はこの城で働くメイド達にとって憧れの存在であったのだ。

エルウィンは群がってくるメイド達が鬱陶しかったので、質問に答える事にした。

「食料貯蔵庫の様子を見てくるだけだ。じゃあな」

ぶっきらぼうに言った。

「はい」
「失礼致します」
「御用があればいつでもお申し付け下さい」

メイド達が次々と返事をする声を背中に聞きながら、エルウィンはそれだけ告げるとその場を足早に歩き去っていく。

「…全く…朝から不愉快な…!」


廊下を歩きながらエルウィンは忌々しげに言った。
赤らめた顔に熱い視線で自分を見つめてくるメイド達は彼にとって、不快でしか無かったのだ―。



****


「おかしいな…エルウィン様は一体どちらにいらっしゃるのだ…?」

その頃、シュミットはエルウィンを探す為に城内を歩き回っていた。重要書類があるのだが彼しかサインをする事が出来ない書類だったのだ。

エルウィンを探す為に廊下を歩いていると、先程彼が出会ったメイド達が客人を迎え入れる為の部屋の準備をしていたのだ。

「お仕事ご苦労さまです、皆さん」

シュミットは早速メイド達に挨拶をした。

「こんにちは、シュミット様。」
「こんにちは」
「ごきげんよう」

メイド達も次々と挨拶を反してくる。

「ところで…エルウィン様を見かけませんでしたか?」

シュミットの質問に代表して1人のメイドが質問に答えた。

「エルウィン様なら、先程防寒マントを羽織ってここを通り過ぎて行きました」

「え?防寒マントを羽織って…?外に行かれたのだろうか…?」

「ええ、食料貯蔵庫の様子を見てくると言っておられました」

「食料貯蔵庫…?」

メイドの言葉にたちまちシュミットの顔色が青ざめていく。

「た、大変だ…っ!」

シュミットは上着も着ないで城門へと駆け出した。

(食料貯蔵庫のある場所は…アリアドネ様が働いているすぐ側だっ!ひょっとすると鉢合わせをしてしまうかもしれないっ!)

エルウィンはアリアドネの顔を知らない。しかし、あの場所で働く女性たちの中では彼女は異質の存在である。

(なんとしてもお2人が会わないようにしなくては―!)

シュミットは食料貯蔵庫目指して走り続けた―。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」 「……あぁ、君がアグリア、か」 「それで……、離縁はいつになさいます?」  領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。  両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。  帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。  形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。 ★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます! ※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。

ラディ
恋愛
 一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。  家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。  劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。  一人の男が現れる。  彼女の人生は彼の登場により一変する。  この機を逃さぬよう、彼女は。  幸せになることに、決めた。 ■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です! ■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました! ■感想や御要望などお気軽にどうぞ! ■エールやいいねも励みになります! ■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。 ※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。

【完結】恋につける薬は、なし

ちよのまつこ
恋愛
異世界の田舎の村に転移して五年、十八歳のエマは王都へ行くことに。 着いた王都は春の大祭前、庶民も参加できる城の催しでの出来事がきっかけで出会った青年貴族にエマはいきなり嫌悪を向けられ…

処理中です...