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3−3 意外な一面
その頃、アリアドネは他の下働きの女性達と共に保存食倉庫の隣にある加工場で保存食作りを行っていた。
森に入り、兵士と男性使用人達が狩りで仕留めてきた獲物をさばいて女性使用人達の元へ運んでくる。それを皆で干し肉にする為に加工する。
その作業をアリアドネ達は加工場で行っていた。
「私、メイドとして8年働いてきましたけど、非常食を作るのは初めてです」
アリアドネは一緒に作業をしている女性達に言った。
「そうだね、ここは特殊な環境に置かれた城だからね」
「今は厳しい冬を越す為に作っているけれども私達は1年中これを作っているのよ」
「この国は常に他国から狙われているから戦争が多いからね。その為にも非常食は重要なんだよ」
3人の女性達が交互に説明してくれるのをアリアドネは黙って聞いていた。するとそこへ大きな声が背後から響き渡った。
「皆、ご苦労だな!」
「おや!エルウィン様じゃないですかっ!こんなむさくるしい場所まで足を運んで下さるなんて…」
(え…?エルウィン様…?ま、まさか…!)
アリアドネは声の方を振り向き…驚きで息を飲んだ。そこにはエルウィンが笑顔で寮長のマリアと話をしている姿があったからだ。
(エルウィン様が…あんな風に笑うなんて…)
その光景はにわかに信じられなかった。数日前、初めて謁見の間で会ったエルウィンは鋭い目つきと言葉をアリアドネに投げつけて来たからだ。しかし、今の彼はマリアと談笑している。とても同一人物とは思えなかった。
エルウィンは少しの間マリアと話をしていたが、 やがてアリアドネ達の方向へ向かってやって来た。
(そ、そんなまさかここに来るの…っ?!)
アリアドネは慌てて背中を向けた。エルウィンには顔を見られてはいないが、恐らく今の様子ではここにいる使用人達の顔を覚えているのかもしれない…そうなると自分が余所者だと言う事が恐らくバレてしまうだろう。そう思うと気が気では無かった。
アリアドネが焦っている間もエルウィンの足音がどんどんこちらへ近づいて来るのが分る。
「ん…?」
その時、エルウィンはアリアドネの後ろ姿に気付いた。今までに目にしたことも無い見事なブロンドの髪色を目にした時、何故か一瞬エルウィンの脳裏に顔も見ることなく、無下に城から追い払ったアリアドネの事が思い出された。
「おい、お前…」
気付けばエルウィンはアリアドネに声を掛けていた。
アリアドネの肩がピクリと動いた。
(もう、駄目…っ!)
その時―。
「エルウィン様っ!こちらにいらしたのですねっ!」
シュミットの大きな声が加工場に響き渡った。
「チッ!何だ…シュミット。そんな大きな声で…」
エルウィンの舌打ち交じりの声がアリアドネの背後で聞こえた。
(え?シュミット様…?)
「こちらにいらしたのですね?エルウィ様っ!」
シュミットは加工場に入ってすぐに、エルウィンがアリアドネの方を向いている事に気付いて急いで声を掛けたのだ。
「いたら悪いのかよ...」
エルウィンは大股でこちらに近付いて来るシュミットを忌々し気に見つめる。
「エルウィン様。大事な申請書が書斎机に置いてあります。その書類はエルウィン様でなければサインできないのです。急ぎの書類ですの大至急お越し下さい」
「分った。すぐに行けばいいのだろう?」
エルウィンは不機嫌そうに言うと、使用人女性達に声を掛けた。
「皆、これから長い越冬期間に入る。春になるまで宜しく頼む」
エルウィンは使用人達に頭を下げると、シュミットに連れられて加工場を去って行った。
(よ、良かった…見つかる前にエルウィン様が出て行って下さって…)
アリアドネは安堵のため息をついた。
「どうしたの?アリアドネ」
そこへ先程一緒に仕事をしていた女性が声を掛けて来た。
「あ…い、いえ。その…突然エルウィン様が現れたので少し驚いただけです」
「そうだ、アリアドネはエルウィン様に会うのは初めてなんだものね?」
「はい。まさかこんなところにお姿を見せるなんて…思わなくて…」
アリアドネはスカートの裾を強く握りしめながら言った。
「越冬期間に入る前は必ず、顔を出すのよ。それに…これからは度々こっちに来るかもしれないわね…エルウィン様の苦手な人たちがここに来るから…」
女性は意味深な事を言って来た。
「苦手な人達…?誰の事でしょう?」
(エルウィン様に苦手な人達なんていらっしゃるのかしら?)
「娼館から娼婦達がやってくるんだよ。しかも越冬期間中はこの城に滞在するのさ」
するとそこへイゾルネが現れて説明をした。
「えっ?!しょ、娼婦の方たちがっ?!」
あまりの話にアリアドネは顔が真っ赤になる。
「ああ…そうなんだよ。エルウィン様は猛反対しているんだけどね。…実は外部には殆ど知られていないけれど、この城には影の支配者がいてね…その人物が悪しき習慣を今も続けているんだよ。エルウィン様が苦手な一部のメイド達もその人物がこの城に連れて来たのさ」
「え…?」
それは、アリアドネが初めて知る事実だった―。
森に入り、兵士と男性使用人達が狩りで仕留めてきた獲物をさばいて女性使用人達の元へ運んでくる。それを皆で干し肉にする為に加工する。
その作業をアリアドネ達は加工場で行っていた。
「私、メイドとして8年働いてきましたけど、非常食を作るのは初めてです」
アリアドネは一緒に作業をしている女性達に言った。
「そうだね、ここは特殊な環境に置かれた城だからね」
「今は厳しい冬を越す為に作っているけれども私達は1年中これを作っているのよ」
「この国は常に他国から狙われているから戦争が多いからね。その為にも非常食は重要なんだよ」
3人の女性達が交互に説明してくれるのをアリアドネは黙って聞いていた。するとそこへ大きな声が背後から響き渡った。
「皆、ご苦労だな!」
「おや!エルウィン様じゃないですかっ!こんなむさくるしい場所まで足を運んで下さるなんて…」
(え…?エルウィン様…?ま、まさか…!)
アリアドネは声の方を振り向き…驚きで息を飲んだ。そこにはエルウィンが笑顔で寮長のマリアと話をしている姿があったからだ。
(エルウィン様が…あんな風に笑うなんて…)
その光景はにわかに信じられなかった。数日前、初めて謁見の間で会ったエルウィンは鋭い目つきと言葉をアリアドネに投げつけて来たからだ。しかし、今の彼はマリアと談笑している。とても同一人物とは思えなかった。
エルウィンは少しの間マリアと話をしていたが、 やがてアリアドネ達の方向へ向かってやって来た。
(そ、そんなまさかここに来るの…っ?!)
アリアドネは慌てて背中を向けた。エルウィンには顔を見られてはいないが、恐らく今の様子ではここにいる使用人達の顔を覚えているのかもしれない…そうなると自分が余所者だと言う事が恐らくバレてしまうだろう。そう思うと気が気では無かった。
アリアドネが焦っている間もエルウィンの足音がどんどんこちらへ近づいて来るのが分る。
「ん…?」
その時、エルウィンはアリアドネの後ろ姿に気付いた。今までに目にしたことも無い見事なブロンドの髪色を目にした時、何故か一瞬エルウィンの脳裏に顔も見ることなく、無下に城から追い払ったアリアドネの事が思い出された。
「おい、お前…」
気付けばエルウィンはアリアドネに声を掛けていた。
アリアドネの肩がピクリと動いた。
(もう、駄目…っ!)
その時―。
「エルウィン様っ!こちらにいらしたのですねっ!」
シュミットの大きな声が加工場に響き渡った。
「チッ!何だ…シュミット。そんな大きな声で…」
エルウィンの舌打ち交じりの声がアリアドネの背後で聞こえた。
(え?シュミット様…?)
「こちらにいらしたのですね?エルウィ様っ!」
シュミットは加工場に入ってすぐに、エルウィンがアリアドネの方を向いている事に気付いて急いで声を掛けたのだ。
「いたら悪いのかよ...」
エルウィンは大股でこちらに近付いて来るシュミットを忌々し気に見つめる。
「エルウィン様。大事な申請書が書斎机に置いてあります。その書類はエルウィン様でなければサインできないのです。急ぎの書類ですの大至急お越し下さい」
「分った。すぐに行けばいいのだろう?」
エルウィンは不機嫌そうに言うと、使用人女性達に声を掛けた。
「皆、これから長い越冬期間に入る。春になるまで宜しく頼む」
エルウィンは使用人達に頭を下げると、シュミットに連れられて加工場を去って行った。
(よ、良かった…見つかる前にエルウィン様が出て行って下さって…)
アリアドネは安堵のため息をついた。
「どうしたの?アリアドネ」
そこへ先程一緒に仕事をしていた女性が声を掛けて来た。
「あ…い、いえ。その…突然エルウィン様が現れたので少し驚いただけです」
「そうだ、アリアドネはエルウィン様に会うのは初めてなんだものね?」
「はい。まさかこんなところにお姿を見せるなんて…思わなくて…」
アリアドネはスカートの裾を強く握りしめながら言った。
「越冬期間に入る前は必ず、顔を出すのよ。それに…これからは度々こっちに来るかもしれないわね…エルウィン様の苦手な人たちがここに来るから…」
女性は意味深な事を言って来た。
「苦手な人達…?誰の事でしょう?」
(エルウィン様に苦手な人達なんていらっしゃるのかしら?)
「娼館から娼婦達がやってくるんだよ。しかも越冬期間中はこの城に滞在するのさ」
するとそこへイゾルネが現れて説明をした。
「えっ?!しょ、娼婦の方たちがっ?!」
あまりの話にアリアドネは顔が真っ赤になる。
「ああ…そうなんだよ。エルウィン様は猛反対しているんだけどね。…実は外部には殆ど知られていないけれど、この城には影の支配者がいてね…その人物が悪しき習慣を今も続けているんだよ。エルウィン様が苦手な一部のメイド達もその人物がこの城に連れて来たのさ」
「え…?」
それは、アリアドネが初めて知る事実だった―。
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