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3-4 ランベール・アイゼンシュタット
エルウィンとシュミットは執務室を目指して廊下を歩いていた。
「全く…俺の事をわざわざ加工場まで見に来るとは…お前は余程暇人なんだな」
エルウィンはすぐ背後を歩くシュミットに忌々し気に言った。
「それでしたらエルウィン様はどうなのです?執務室には書類が山積みで仕事があるにも関わらず、加工場まで行かれていますよね?」
「う…そ、それは…」
そこでエルウィンは先程後姿を見かけた人物を思い出し、シュミットに尋ねた。
「そう言えばシュミット。先程加工場で見慣れない金髪の女がいたようだが…」
「ああ。セリアではありませんか?」
シュミットは心の動揺を隠しながらエルウィンの質問に答えた。
「いや、セリアでは無いと…思うが…。セリアの割には小柄だった気がするし…」
「でも後姿しかご覧になっておりませんよね?私はセリアだと思いましたけど?」
(まさか後姿だけで気付かれたのだろうか?何て勘の鋭い方なのだ…)
「う~む…そう…だったのだろうか…?だが、お前がそう言うなら間違いはないだろう」
「ええ。その通りです」
シュミットはホッとした様子で返事をした。
(ふぅ…危ないところだった。けれど…こんなにすぐ人の話を信じてしまうのもどうかと思うが…もう少し、エルウィン様は人を疑うという事を学ばれた方が良いかもしれないな…)
そんな事を考えていると、突然前方を歩いていたエルウィンが足を止めた。
「エルウィン様…?」
すると前方から数人の人物がこちらに向かって近付いて来ると声を掛けて来た。
「やぁ…エルウィン。同じ城に住んでいながら、会うのは10日…ぶりくらいか?何しろお前は私の事を随分避けているからな?」
「叔父上…!」
エルウィンは怒気を込めた声でその人物を睨み付けた。彼はエルウィンの父親の腹違いの弟、ランベール・アイゼンシュタットである。彼の左右には大きく胸元の空いたドレスを着た妖艶な女性と、背後には背の高い顔色の悪い騎士がついている。
ランベールはエルウィンがこの城で最も憎み、嫌悪している存在であった。彼は妾から生まれた存在であり…彼のせいでエルウィンの人生は狂わされてまったと言っても過言では無かった。
「全く…相変わらず血の気の多い奴だ。仮にも叔父である私にそのような目を向けるとはな…お前たちもそうは思わないか?」
ランベールは左右にいる女性達の肩を抱きながらエルウィンを見た。
「叔父上!この城に娼婦を招き入れるのはやめるように再三言ってるはずです!一体何度言えば理解出来るのですか?神聖な城にそのような人物を入れないで頂きたい!そればかりではありません。叔父上が連れて来たメイド達もだっ!あのメイド達もこの城には必要無いっ!」
ランベールは娼館上がりの女たちを引き抜いて、戦えるよう訓練を受けさせたうえでエルウィンに断りも無しにメイドとしてこの城で働かせている。
「エルウィン様…落ち着いて下さい…。相手はランベール様ですよ?」
シュミットはエルウィンを何とか宥めようとした。ランベールも一応、この城の後継者の血を引く人物なので、頭が上がらない相手だったのだ。
「うるさいっ!シュミットッ!お前はどちらの味方なのだっ?!叔父上が妙な女たちをこの城に招き入れるから…風紀が乱れて全員の士気が下がるんだっ!」
エルウィンはランベールを指さしながらシュミットを怒鳴りつけた。
その様子を見た娼婦たちが口々に言う。
「まぁ…ここの城主様は随分血の気が多い方ですのね?でも…悪くないですわ」
「美しいお顔ですこと…。怒った顔もとても素敵…」
するとランベールが笑いながらエルウィンに言った。
「ハハハハハ…ッ!エルウィン。お前…随分彼女たちに気に入られたようだな。どうだ?譲ってやろうか?」
「叔父上っ!冗談でもそのような事、口にするなっ!今度…今のようなセリフを言おうものなら…幾ら叔父上でもただではすまないからなっ!」
怒りに燃えた目で睨み付けるエルウィンの迫力は凄まじかった。これにはさすがのランベールもたじろいだ。
「な、何て奴だ…。たった1人の血を分けた肉親にそのような目を向けるとは…だ、だからお前の世間の評判が悪いのだ。『血塗れ暴君』などと不名誉な称号で呼ばれおって…」
「世間でどう呼ばれようが関係ない。むしろその様な称号を付けられて有り難い限りだ。近隣諸国の者達が俺を恐れてくれますからね」
「クッ…な、何て生意気な男なのだ…!お前たち、行くぞ!」
ランベールは3人を引き連れて急ぎ足でエルウィンの傍を通り過ぎて行った。
「…」
エルウィンは下唇を噛み、両手はこぶしを強く握りしめている。
「エルウィン様…」
シュミットが心配気に声を掛けた。
「…あの女たちの香水のせいで頭が痛くなってきた…」
「え?」
「気分が悪い…少し執務室で安む」
言いながらエルウィンは再び歩き始めた。
「え?エルウィン様!休むなら仕事が終ってからにして下さいっ!」
「うるさいっ!俺に指図するな!」
こうして2人は言い合いをしながら執務室へと向かった―。
「全く…俺の事をわざわざ加工場まで見に来るとは…お前は余程暇人なんだな」
エルウィンはすぐ背後を歩くシュミットに忌々し気に言った。
「それでしたらエルウィン様はどうなのです?執務室には書類が山積みで仕事があるにも関わらず、加工場まで行かれていますよね?」
「う…そ、それは…」
そこでエルウィンは先程後姿を見かけた人物を思い出し、シュミットに尋ねた。
「そう言えばシュミット。先程加工場で見慣れない金髪の女がいたようだが…」
「ああ。セリアではありませんか?」
シュミットは心の動揺を隠しながらエルウィンの質問に答えた。
「いや、セリアでは無いと…思うが…。セリアの割には小柄だった気がするし…」
「でも後姿しかご覧になっておりませんよね?私はセリアだと思いましたけど?」
(まさか後姿だけで気付かれたのだろうか?何て勘の鋭い方なのだ…)
「う~む…そう…だったのだろうか…?だが、お前がそう言うなら間違いはないだろう」
「ええ。その通りです」
シュミットはホッとした様子で返事をした。
(ふぅ…危ないところだった。けれど…こんなにすぐ人の話を信じてしまうのもどうかと思うが…もう少し、エルウィン様は人を疑うという事を学ばれた方が良いかもしれないな…)
そんな事を考えていると、突然前方を歩いていたエルウィンが足を止めた。
「エルウィン様…?」
すると前方から数人の人物がこちらに向かって近付いて来ると声を掛けて来た。
「やぁ…エルウィン。同じ城に住んでいながら、会うのは10日…ぶりくらいか?何しろお前は私の事を随分避けているからな?」
「叔父上…!」
エルウィンは怒気を込めた声でその人物を睨み付けた。彼はエルウィンの父親の腹違いの弟、ランベール・アイゼンシュタットである。彼の左右には大きく胸元の空いたドレスを着た妖艶な女性と、背後には背の高い顔色の悪い騎士がついている。
ランベールはエルウィンがこの城で最も憎み、嫌悪している存在であった。彼は妾から生まれた存在であり…彼のせいでエルウィンの人生は狂わされてまったと言っても過言では無かった。
「全く…相変わらず血の気の多い奴だ。仮にも叔父である私にそのような目を向けるとはな…お前たちもそうは思わないか?」
ランベールは左右にいる女性達の肩を抱きながらエルウィンを見た。
「叔父上!この城に娼婦を招き入れるのはやめるように再三言ってるはずです!一体何度言えば理解出来るのですか?神聖な城にそのような人物を入れないで頂きたい!そればかりではありません。叔父上が連れて来たメイド達もだっ!あのメイド達もこの城には必要無いっ!」
ランベールは娼館上がりの女たちを引き抜いて、戦えるよう訓練を受けさせたうえでエルウィンに断りも無しにメイドとしてこの城で働かせている。
「エルウィン様…落ち着いて下さい…。相手はランベール様ですよ?」
シュミットはエルウィンを何とか宥めようとした。ランベールも一応、この城の後継者の血を引く人物なので、頭が上がらない相手だったのだ。
「うるさいっ!シュミットッ!お前はどちらの味方なのだっ?!叔父上が妙な女たちをこの城に招き入れるから…風紀が乱れて全員の士気が下がるんだっ!」
エルウィンはランベールを指さしながらシュミットを怒鳴りつけた。
その様子を見た娼婦たちが口々に言う。
「まぁ…ここの城主様は随分血の気が多い方ですのね?でも…悪くないですわ」
「美しいお顔ですこと…。怒った顔もとても素敵…」
するとランベールが笑いながらエルウィンに言った。
「ハハハハハ…ッ!エルウィン。お前…随分彼女たちに気に入られたようだな。どうだ?譲ってやろうか?」
「叔父上っ!冗談でもそのような事、口にするなっ!今度…今のようなセリフを言おうものなら…幾ら叔父上でもただではすまないからなっ!」
怒りに燃えた目で睨み付けるエルウィンの迫力は凄まじかった。これにはさすがのランベールもたじろいだ。
「な、何て奴だ…。たった1人の血を分けた肉親にそのような目を向けるとは…だ、だからお前の世間の評判が悪いのだ。『血塗れ暴君』などと不名誉な称号で呼ばれおって…」
「世間でどう呼ばれようが関係ない。むしろその様な称号を付けられて有り難い限りだ。近隣諸国の者達が俺を恐れてくれますからね」
「クッ…な、何て生意気な男なのだ…!お前たち、行くぞ!」
ランベールは3人を引き連れて急ぎ足でエルウィンの傍を通り過ぎて行った。
「…」
エルウィンは下唇を噛み、両手はこぶしを強く握りしめている。
「エルウィン様…」
シュミットが心配気に声を掛けた。
「…あの女たちの香水のせいで頭が痛くなってきた…」
「え?」
「気分が悪い…少し執務室で安む」
言いながらエルウィンは再び歩き始めた。
「え?エルウィン様!休むなら仕事が終ってからにして下さいっ!」
「うるさいっ!俺に指図するな!」
こうして2人は言い合いをしながら執務室へと向かった―。
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