48 / 376
4-8 事の発端
少しの間、シュミットとエルウィンは書類に向き合って仕事をしていた。
「あーっ、もう限界だ!」
いきなりエルウィンは髪をクシャリと書き上げると椅子から立ち上がったのだ。
「エルウィン様?どうされたのです?」
シュミットは突然立ち上がったエルウィンに驚き、声を掛けた。
「さっきから、頭の痛くなるような難しい書類に数字ばかり目にして疲れた。少し鍛錬しに行って来る」
そして傍らに置いた剣を掴んだ。
「え?エルウィン様!今朝も騎士たちを相手に訓練所に行かれましたよね?また行くつもりですか?」
慌ててシュミットは声を掛けた。
「ああ、そうだ。何か文句あるか?」
頷くエルウィン。
「いえ、文句と言う程のものでは…」
そこまで言いかけてシュミットにある考えが浮かんだ。
(そうだ、エルウィン様が不在になれば…アリアドネ様の様子を見に行くことが出来る…)
そこでシュミットは笑みを浮かべた。
「いいえ、そうですね。冬場でも鍛錬は大事です。どうぞ行ってらして下さい。ただし2時間以内にはお戻り下さいね?」
「何?2時間だと?珍しい奴だな…?いつもならせいぜい1時間以内にしてくれだとか、そんな事よりも執務室で書類にサインをしてくれだとか言うくせに…?」
エルウィンは気味悪気にシュミットに言った。
「そうでしょうか?でもエルウィン様の場合は適度に身体を動かされた方が頭が活性化され、仕事の効率が上がるのではないでしょうか?」
シュミットはエルウィンに怪しまれない様にその場で思いついた言い訳を口にした。
「…まぁいい。では行って来る」
そしてエルウィンは腰に剣を差すと、防寒用のマントを羽織って執務室を出て行った。
「…」
そんなエルウィンを見送りながらシュミットは少しの間仕事をしていたが、やがて呟いた。
「…そろそろ俺も行ってみよう」
そして立ち上がり、ハンガーに掛けておいた上着に袖を通すとアリアドネのいる作業場へ向かった―。
****
その頃アリアドネが働いている作業場では―。
「ねぇ、城内で使う炭が残り少ないのよ。誰か一緒に持ってきてくれないかしら?」
「そこの貴女、すぐに用意して頂戴」
ランベールが連れて来ていた2人のメイドが炭を取りに作業場へとやって来た。
そしてたまたま近くにいたアリアドネに声を掛けて来たのだ。
(え…?私が…?)
本当は城の中へは行きたくなかった。しかし他の下働きの者達は皆忙しそうだし、ましてや直接声を掛けられたのはアリアドネである。一瞬躊躇したアリアドネにメイドが言った。
「何よ?返事位しなさいよ。下働きのくせに」
ジロリとメイドが睨み付けて来た。
ランベールが連れて来たメイド達は騎士や兵士たちの夜の相手も勤めており、他に手当も貰っている為か妙に気位が高く、下働きの者達を見下す傾向にあった。
「申し訳ございません。直ちに用意させて頂きます」
アリアドネは慌てて頭を下げるとすぐに炭が保管してある保管庫へ向かった。
「これ位で良いかしら…?」
台車に炭の入った麻の布袋を3つ乗せると、すぐにアリアドネは2人のメイドの元へ向かった。
「すみません、お待たせ致しました」
台車を引いて2人のメイドの元に戻ると彼女たちは談笑している最中だった。
「もう。遅かったじゃないの?それじゃ行くわよ」
麻袋を持つと1人のメイドがアリアドネに声を掛けた。
「はい」
そしてアリアドネは2人のメイドと共に炭を持って城へ続く地下通路へと向かった。
「え…?ひょっとして、メイド達と一緒にいるあの後姿は…アリアドネ…?」
その時…同じ仕事場で石臼で粉をひいていたダリウスだけがアリアドネが出て行く様子に気付いていた。
そして、城内でちょっとした揉め事が起こる―。
「あーっ、もう限界だ!」
いきなりエルウィンは髪をクシャリと書き上げると椅子から立ち上がったのだ。
「エルウィン様?どうされたのです?」
シュミットは突然立ち上がったエルウィンに驚き、声を掛けた。
「さっきから、頭の痛くなるような難しい書類に数字ばかり目にして疲れた。少し鍛錬しに行って来る」
そして傍らに置いた剣を掴んだ。
「え?エルウィン様!今朝も騎士たちを相手に訓練所に行かれましたよね?また行くつもりですか?」
慌ててシュミットは声を掛けた。
「ああ、そうだ。何か文句あるか?」
頷くエルウィン。
「いえ、文句と言う程のものでは…」
そこまで言いかけてシュミットにある考えが浮かんだ。
(そうだ、エルウィン様が不在になれば…アリアドネ様の様子を見に行くことが出来る…)
そこでシュミットは笑みを浮かべた。
「いいえ、そうですね。冬場でも鍛錬は大事です。どうぞ行ってらして下さい。ただし2時間以内にはお戻り下さいね?」
「何?2時間だと?珍しい奴だな…?いつもならせいぜい1時間以内にしてくれだとか、そんな事よりも執務室で書類にサインをしてくれだとか言うくせに…?」
エルウィンは気味悪気にシュミットに言った。
「そうでしょうか?でもエルウィン様の場合は適度に身体を動かされた方が頭が活性化され、仕事の効率が上がるのではないでしょうか?」
シュミットはエルウィンに怪しまれない様にその場で思いついた言い訳を口にした。
「…まぁいい。では行って来る」
そしてエルウィンは腰に剣を差すと、防寒用のマントを羽織って執務室を出て行った。
「…」
そんなエルウィンを見送りながらシュミットは少しの間仕事をしていたが、やがて呟いた。
「…そろそろ俺も行ってみよう」
そして立ち上がり、ハンガーに掛けておいた上着に袖を通すとアリアドネのいる作業場へ向かった―。
****
その頃アリアドネが働いている作業場では―。
「ねぇ、城内で使う炭が残り少ないのよ。誰か一緒に持ってきてくれないかしら?」
「そこの貴女、すぐに用意して頂戴」
ランベールが連れて来ていた2人のメイドが炭を取りに作業場へとやって来た。
そしてたまたま近くにいたアリアドネに声を掛けて来たのだ。
(え…?私が…?)
本当は城の中へは行きたくなかった。しかし他の下働きの者達は皆忙しそうだし、ましてや直接声を掛けられたのはアリアドネである。一瞬躊躇したアリアドネにメイドが言った。
「何よ?返事位しなさいよ。下働きのくせに」
ジロリとメイドが睨み付けて来た。
ランベールが連れて来たメイド達は騎士や兵士たちの夜の相手も勤めており、他に手当も貰っている為か妙に気位が高く、下働きの者達を見下す傾向にあった。
「申し訳ございません。直ちに用意させて頂きます」
アリアドネは慌てて頭を下げるとすぐに炭が保管してある保管庫へ向かった。
「これ位で良いかしら…?」
台車に炭の入った麻の布袋を3つ乗せると、すぐにアリアドネは2人のメイドの元へ向かった。
「すみません、お待たせ致しました」
台車を引いて2人のメイドの元に戻ると彼女たちは談笑している最中だった。
「もう。遅かったじゃないの?それじゃ行くわよ」
麻袋を持つと1人のメイドがアリアドネに声を掛けた。
「はい」
そしてアリアドネは2人のメイドと共に炭を持って城へ続く地下通路へと向かった。
「え…?ひょっとして、メイド達と一緒にいるあの後姿は…アリアドネ…?」
その時…同じ仕事場で石臼で粉をひいていたダリウスだけがアリアドネが出て行く様子に気付いていた。
そして、城内でちょっとした揉め事が起こる―。
あなたにおすすめの小説
【完結】氷狼魔術師長様と私の、甘い契約結婚~実は溺愛されていたなんて聞いていません!~
雨宮羽那
恋愛
魔術国家アステリエで事務官として働くセレフィアは、義理の家族に給料を奪われ、婚期を逃した厄介者として扱われていた。
そんなある日、上司である魔術師長・シリウスが事務室へやってきて、「私と結婚してください」と言い放った!
詳しく話を聞けば、どうやらシリウスにも事情があるようで、契約結婚の話を持ちかけられる。
家から抜け出るきっかけだと、シリウスとの結婚を決意するセレフィア。
同居生活が始まるが、シリウスはなぜかしれっとセレフィアを甘やかしてくる!?
「これは契約結婚のはずですよね!?」
◇◇◇◇
恋愛小説大賞に応募しています。
お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます( . .)"
モチベになるので良ければ応援していただけると嬉しいです!
※この作品は「小説家になろう」様にも掲載しております。
※表紙はAIイラストです。文字入れは「装丁カフェ」様を使用しております。
※小説内容にはAI不使用です。
薬師の能力を買われた嫁ぎ先は闇の仕事を請け負う一族でした
あねもね
恋愛
薬師として働くエリーゼ・バリエンホルムは貴族の娘。
しかし両親が亡くなって以降、叔父に家を追い出されていた。エリーゼは自分の生活と弟の学費を稼ぐために頑張っていたが、店の立ち退きを迫られる事態となる。同時期に、好意を寄せていたシメオン・ラウル・アランブール伯爵からプロポーズを申し込まれていたものの、その申し出を受けず、娼館に足を踏み入れることにした。
エリーゼが娼館にいることを知ったシメオンは、エリーゼを大金で身請けして屋敷に連れ帰る。けれどそこは闇の仕事を請け負う一族で、シメオンはエリーゼに毒薬作りを命じた。
薬師としての矜持を踏みにじられ、一度は泣き崩れたエリーゼだったが……。
――私は私の信念で戦う。決して誰にも屈しない。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し
有栖多于佳
恋愛
近代ヨーロッパの、ようなある大陸のある帝国王女の物語。
30才で断頭台にかけられた王妃が、次の瞬間3才の自分に戻った。
1度目の世界では盲目的に母を立派な女帝だと思っていたが、よくよく思い起こせば、兄妹間で格差をつけて、お気に入りの子だけ依怙贔屓する毒親だと気づいた。
だいたい帝国は男子継承と決まっていたのをねじ曲げて強欲にも女帝になり、初恋の父との恋も成就させた結果、継承戦争起こし帝国は二つに割ってしまう。王配になった父は人の良いだけで頼りなく、全く人を見る目のないので軍の幹部に登用した者は役に立たない。
そんな両親と早い段階で決別し今度こそ幸せな人生を過ごすのだと、決意を胸に生き直すマリアンナ。
史実に良く似た出来事もあるかもしれませんが、この物語はフィクションです。
世界史の人物と同名が出てきますが、別人です。
全くのフィクションですので、歴史考察はありません。
*あくまでも異世界ヒューマンドラマであり、恋愛あり、残業ありの娯楽小説です。
ヒロインに躱されて落ちていく途中で悪役令嬢に転生したのを思い出しました。時遅く断罪・追放されて、冒険者になろうとしたら護衛騎士に馬鹿にされ
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
第二回ドリコムメディア大賞一次選考通過作品。
ドジな公爵令嬢キャサリンは憎き聖女を王宮の大階段から突き落とそうとして、躱されて、死のダイブをしてしまった。そして、その瞬間、前世の記憶を取り戻したのだ。
そして、黒服の神様にこの異世界小説の世界の中に悪役令嬢として転移させられたことを思い出したのだ。でも、こんな時に思いしてもどうするのよ! しかし、キャサリンは何とか、チートスキルを見つけ出して命だけはなんとか助かるのだ。しかし、それから断罪が始まってはかない抵抗をするも隣国に追放させられてしまう。
「でも、良いわ。私はこのチートスキルで隣国で冒険者として生きて行くのよ」そのキャサリンを白い目で見る護衛騎士との冒険者生活が今始まる。
冒険者がどんなものか全く知らない公爵令嬢とそれに仕方なしに付き合わされる最強騎士の恋愛物語になるはずです。でも、その騎士も訳アリで…。ハッピーエンドはお約束。毎日更新目指して頑張ります。
皆様のお陰でHOTランキング第4位になりました。有難うございます。
小説家になろう、カクヨムでも連載中です。
治療係ですが、公爵令息様がものすごく懐いて困る~私、男装しているだけで、女性です!~
百門一新
恋愛
男装姿で旅をしていたエリザは、長期滞在してしまった異国の王都で【赤い魔法使い(男)】と呼ばれることに。職業は完全に誤解なのだが、そのせいで女性恐怖症の公爵令息の治療係に……!?「待って。私、女なんですけども」しかも公爵令息の騎士様、なぜかものすごい懐いてきて…!?
男装の魔法使い(職業誤解)×女性が大の苦手のはずなのに、ロックオンして攻めに転じたらぐいぐいいく騎士様!?
※小説家になろう様、ベリーズカフェ様、カクヨム様にも掲載しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。