お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ連載中

文字の大きさ
35 / 90

第4章 1 行き場のない私

しおりを挟む
 馬車が駅前の賑を見せる大通りで停車し、扉が開かれて男性御者が姿を見せた。

「お客様、馬車を手配した方に言われていた駅前に到着しましたが……どこか行きたい場所はありますか?」

「行きたい場所ですか……? いいえ、ここで大丈夫です。降りますね」

行きたい場所なんて無い。それどころか、これから自分が何処へ行けばいいのかもわからなかった。
今の私は仕事も、住む場所も……好きだった人の優しさも全て無くしてしまったのだから。

「そうですか。お代はもう事前に頂いているので大丈夫ですよ。……あの、お客様。大丈夫ですか?」

「え? 何がですか?」

馬車を降りると御者が尋ねてきた。

「いえ。何だか顔色が酷く悪そうに見えましたので……少し心配になったものですから」

「大丈夫です。ご心配頂き、ありがとうございます」

何とか返事をすると、荷物を持った。

「では、お気をつけて」

御者は馬車に乗り込むと、馬を走らせて去って行った。その様子を見届けると、私は重い足を引きずるようにトボトボと町中を歩き始めた。

これから私は何処へ行けばいいのだろう?
頼れる親戚も、親しい知人もいない。町の中はこんなに人で溢れて、皆幸せそうに歩いているのに私は本当に孤独だった。

バーデン家で受けた仕打ちが今も頭にこびりついて離れない。
クリフも、伯爵夫妻も……あの屋敷で働いていた人たちが皆私に憎悪の目を向けてきた。
私は何か彼らに恨まれるようなことをしてしまっただろうか……?

「あ……ここは……」

気付けば、私はリリスとクリフと一緒に訪れていたカフェの近くまでやってきていた。

「馬鹿ね……私。無意識にこの場所へ足を向けていたなんて」

こんなところに来ても何もならない。

「……そうだわ。まずは住むところを探さないと」

そこで私は不動産屋へ足を向けた――


****

「え……? 身元保証人……ですか?」

「ええ、そうです。何処の部屋を借りるにも必ず身元保証人がいなければ、お貸しすることは出来ません」

眼の前に座るメガネを掛けた男性店員の話に茫然となってしまった。
あのあと、すぐにこの店を訪れた私は何件かのアパートメントを紹介された。
そこで今の私に丁度良い物件が見つかったので契約を結ぼうとした矢先の言葉だった。

「あの……身元保証人がいないのですが……」

「え? そうなのですか? お一人も?」

男性店員が驚いたように目を見開く。
どうしよう……今の私には頼れる人がひとりもいない。ひとりぼっちなのだ。

「そうですか……それは困りましたね。どなたかにアパートメントを貸す場合は、必ず身元保証人が必要なのですよ。万一の為にね。恐らく何処の不動産屋へ行っても同じ答えしか得られないと思いますよ」

そして眼鏡の奥からじっと私を見つめてくる。何故かその視線には私を怪しんでいるように見えてしまう。

「分かりました。では、保証人の方が見つかりましたら又伺います」

「ええ、又の御来店をおまちしておりますね」

男性店員の言葉に見送られ、私は店を後にした。

「ふぅ……これからどうすればいいのかしら……」

クロードさんが渡してきたお金は驚いたことに給料の1年半分程にまでなる金額だった。
今すぐ生活が困窮するレベルではないものの、住む場所と仕事を探さなければならない。

「とりあえずは、安いホテルを探して今夜はそこに泊まることにしましょう」

私はボストンバッグを手に、再び町中を歩き始め……ふと、気がついた。

「町に出てくるのは1年ぶりくらいだけど、いつもこんなに賑わっていたかしら?」

駅前の大きな広場には屋台が沢山並び、大勢の人々が行き交っている。
何気なく広場に近付き、気付いた。

「まぁ……今日はお祭りだったのね」

広場の入口には『第85回市制記念日』と書かれた看板が立っていた。

「そう言えば、5月10日は『マリ』市の市制記念日だったわね……」

数年前……まだ元気だった頃の父とニコルと一緒に町のお祭りに毎年遊びに来ていたことが随分昔のことのように感じられる。

あの頃は貧しかったけど、本当に幸せだった。
けれど、今の私は……。

再び目尻に涙が浮かびそうになり、ぐっと堪えた。そこで気分転換をしようと思い、私は広場の中を見て回ることにした。

少しでも楽しい気分を味わえたら良いと思ったお祭り。

ここで、私はある出会いを果たすことになる――
しおりを挟む
感想 381

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

その結婚は、白紙にしましょう

香月まと
恋愛
リュミエール王国が姫、ミレナシア。 彼女はずっとずっと、王国騎士団の若き団長、カインのことを想っていた。 念願叶って結婚の話が決定した、その夕方のこと。 浮かれる姫を前にして、カインの口から出た言葉は「白い結婚にとさせて頂きたい」 身分とか立場とか何とか話しているが、姫は急速にその声が遠くなっていくのを感じる。 けれど、他でもない憧れの人からの嘆願だ。姫はにっこりと笑った。 「分かりました。その提案を、受け入れ──」 全然受け入れられませんけど!? 形だけの結婚を了承しつつも、心で号泣してる姫。 武骨で不器用な王国騎士団長。 二人を中心に巻き起こった、割と短い期間のお話。

お認めください、あなたは彼に選ばれなかったのです

・めぐめぐ・
恋愛
騎士である夫アルバートは、幼馴染みであり上官であるレナータにいつも呼び出され、妻であるナディアはあまり夫婦の時間がとれていなかった。 さらにレナータは、王命で結婚したナディアとアルバートを可哀想だと言い、自分と夫がどれだけ一緒にいたか、ナディアの知らない小さい頃の彼を知っているかなどを自慢げに話してくる。 しかしナディアは全く気にしていなかった。 何故なら、どれだけアルバートがレナータに呼び出されても、必ず彼はナディアの元に戻ってくるのだから―― 偽物サバサバ女が、ちょっと天然な本物のサバサバ女にやられる話。 ※頭からっぽで ※思いつきで書き始めたので、つたない設定等はご容赦ください。 ※夫婦仲は良いです ※私がイメージするサバ女子です(笑) ※第18回恋愛小説大賞で奨励賞頂きました! 応援いただいた皆さま、お読みいただいた皆さま、ありがとうございました♪

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

悪役令嬢なので最初から愛されないことはわかっていましたが、これはさすがに想定外でした。

ふまさ
恋愛
 ──こうなることがわかっていれば、はじめから好きになんてならなかったのに。  彩香だったときの思いが、ふと蘇り、フェリシアはくすりと笑ってしまった。  ありがとう、前世の記憶。おかげでわたしは、クライブ殿下を好きにならずにすんだわ。  だからあるのは、呆れと、怒りだけだった。 ※『乙女ゲームのヒロインの顔が、わたしから好きな人を奪い続けた幼なじみとそっくりでした』の、ifストーリーです。重なる文章があるため、前作は非公開とさせていただきました。読んでくれたみなさま、ありがとうございました。

身代わりの恋だと思っていました〜記憶を失った私に、元婚約者が泣いて縋る理由〜

恋せよ恋
恋愛
「君を愛している。一目惚れだったんだ」 18歳の伯爵令嬢エリカは、9歳年上のリヒャルト伯爵から 情熱的な求婚を受け、幸せの絶頂にいた。 しかし、親族顔合わせの席で運命が狂い出す。 彼の視線の先にいたのは、エリカの伯母であり、 彼の学生時代の恋人で「初めての女性」だった……ミレイユ。 「あの子は私の身代わりでしょう」「私はあなただけなの」 伯母ミレイユの甘い誘惑と、裏切りの密会。 衝撃の事実を目撃したエリカは、階段から転落し、 彼と過ごした愛しくも残酷な二年間の記憶だけを失ってしまう。 「……あの、どちら様でしょうか?」 無垢な瞳で問いかけるエリカに、絶望し泣き崩れるリヒャルト。 裏切った男と、略奪を企てた伯母。 二人に待ち受けるのは、甘い報復と取り返しのつかない後悔だった。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

処理中です...