お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ連載中

文字の大きさ
39 / 90

5 ディナーの席

しおりを挟む
 皆で揃って食事処へ行くと、広々とした部屋に真っ白なテーブルクロスが敷かれた丸テーブル席に大勢のお客達が座って楽しげに食事をしていた。

 一部のお客の中には私を見ながら、何やらヒソヒソと話している。その冷たい視線が痛かった。
けれど、アデルの祖父母は彼らの視線をまるで気にする素振りも見せていない。

「あの窓際の席が空いているな。外の景色も見えるから丁度よいだろう」

「ええ、そうね。あの場所がいいわね。行きましょう」

「うん、行こう。お姉ちゃん」

アデルが私の手を引く。

「は、はい……そうですね」

窓際のテーブルに向かっている時、近くの席に座っている人たちがチラチラ私を見ている。
そのあからさまな視線がバーデン家の人々を思い出させ、思わず手が震えた。

「どうしたの? お姉ちゃん?」

私の手の震えがアデルに伝わったのだろう。

「い、いえ。何でも無いのよ?」

無理に笑顔を浮かべると、アデルが私の手をキュッと握りしめて笑い返してくれる。
その姿に少しだけ、心が落ちついた。

「いらっしゃいませ」

皆で席につくと、すぐにウェイターが水の注がれたグラスを持って現れた。

「シュタイナーという名前で、大人用と子供用のディナーセットを予約していたが、一つ追加してくれ」

シュタイナー氏がウェイターに話しかけた。

「シュタイナー様ですね? はい、確かにご予約を承っております。では一つ、追加させて頂きますね」

ウェイターはチラリと私を見ると、お辞儀をして去って行った。
恐らく彼にはそんなつもりはないのだろうが、その視線でさえ私は息が詰まりそうだった。

「お姉ちゃんも、ここに泊まっていたんだね」

すぐにアデルが話しかけてくる。

「ええ、そうなの」

「もしかして、あなたも旅行者なのかしら?」

返事をすると次に婦人が質問してきた。

「え、ええ。そんなところです」

まさか本当の事を言うことも出来ずに私は曖昧に返事をすると、シュタイナー氏が色々と話を始めた。

自分たちは、ここより汽車で4時間程先の『レアド』市に住んでおり、今回ここを訪れたのは年が離れたアデルの兄がここに住んでいるからだということだった。現在大学4年で寮に入っている。時期に卒業を迎えるそうだ。

シュタイナー氏にとって、アデルの兄という人物は自慢の孫なのだろう。
食事が運ばれてきても、饒舌に語り続けていた――

****

「すまなかったね。すっかり話に夢中になってしまったようだ」

食事が済むと、シュタイナー氏が申し訳無さそうに謝罪してきた。

「いいえ。こちらこそ楽しい時間と素晴らしい食事をご馳走になりまして大変感謝しております」

「あなたは良い教育を受けてきた方のようね」

婦人が声をかけてきた。

「え? そうでしょうか……?」

一体私の何を見てそう思ったのだろう。

「それくらい、見て分かるさ。これでも人を見る目はある方だからな」

婦人にかわり、シュタイナー氏が答えた。

「お姉ちゃんはいつまでここに泊まるの?」

「え? わ、私……? 明日の朝には、このホテルを出るつもりよ」

「そうなの? それじゃお姉ちゃんもお家に帰るんだね。私達も明日帰るんだよ~」

「え、ええ。そうね。帰るわ」

アデルの突然の質問に戸惑ってしまう。

帰る……? 一体何処へ帰ると言うのだろう。今の私には、帰る場所は何処にもないのに。
そして私を待つ人も……。

思わず俯くと、婦人が声をかけてきた。

「あら? どうかなさったの?」

「どうしたのだ?」

婦人とシュタイナー氏が交互に声をかけてくる。

「いいえ。何でもありません。ご心配ありがとうございます」

「よし、では食事も済んだことだし……出ようか?」

シュタイナー氏に促され、私達は食事処を後にした。


****

「お姉ちゃんはどこのお部屋に泊まっているの?」

私と手を繋いで歩くアデルが質問してきた。

「私は1階の部屋に泊まっているのよ」

1階の部屋はシングル用の客室専用フロアだった。

「そうなんだ、私はね、3階のお部屋に泊まってるの」

「3階……」

確かその部屋は高級な部屋ばかりのフロアだ。やはり、私とは住む世界が違う。

部屋へ続く通路の入口で、私は足を止めるとお礼を述べた。

「今夜は本当にありがとうございました。皆様の親切は忘れません。アデルも元気でね」

「ええ!? お姉ちゃん、ここでお別れなの!?」

アデルが足にしがみついてきた。

「ええ。そうなるわね」

アデルの頭を撫でると、シュタイナー氏と婦人が思いがけない言葉を口にした。

「フローネさん。明日の朝食も一緒に食べよう」

「そうね、アデルもこんなに懐いていることだし」

「え!? そ、それは……」

まさかの言葉に戸惑っていると、アデルが訴えてきた。

「お姉ちゃん、明日も会いたいよ~」

その可愛らしい様子が、胸を打つ。

「は、はい……では明日もよろしくお願いします……」

気付けば、私は頷いていた――


しおりを挟む
感想 381

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

お認めください、あなたは彼に選ばれなかったのです

・めぐめぐ・
恋愛
騎士である夫アルバートは、幼馴染みであり上官であるレナータにいつも呼び出され、妻であるナディアはあまり夫婦の時間がとれていなかった。 さらにレナータは、王命で結婚したナディアとアルバートを可哀想だと言い、自分と夫がどれだけ一緒にいたか、ナディアの知らない小さい頃の彼を知っているかなどを自慢げに話してくる。 しかしナディアは全く気にしていなかった。 何故なら、どれだけアルバートがレナータに呼び出されても、必ず彼はナディアの元に戻ってくるのだから―― 偽物サバサバ女が、ちょっと天然な本物のサバサバ女にやられる話。 ※頭からっぽで ※思いつきで書き始めたので、つたない設定等はご容赦ください。 ※夫婦仲は良いです ※私がイメージするサバ女子です(笑) ※第18回恋愛小説大賞で奨励賞頂きました! 応援いただいた皆さま、お読みいただいた皆さま、ありがとうございました♪

その結婚は、白紙にしましょう

香月まと
恋愛
リュミエール王国が姫、ミレナシア。 彼女はずっとずっと、王国騎士団の若き団長、カインのことを想っていた。 念願叶って結婚の話が決定した、その夕方のこと。 浮かれる姫を前にして、カインの口から出た言葉は「白い結婚にとさせて頂きたい」 身分とか立場とか何とか話しているが、姫は急速にその声が遠くなっていくのを感じる。 けれど、他でもない憧れの人からの嘆願だ。姫はにっこりと笑った。 「分かりました。その提案を、受け入れ──」 全然受け入れられませんけど!? 形だけの結婚を了承しつつも、心で号泣してる姫。 武骨で不器用な王国騎士団長。 二人を中心に巻き起こった、割と短い期間のお話。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

悪役令嬢なので最初から愛されないことはわかっていましたが、これはさすがに想定外でした。

ふまさ
恋愛
 ──こうなることがわかっていれば、はじめから好きになんてならなかったのに。  彩香だったときの思いが、ふと蘇り、フェリシアはくすりと笑ってしまった。  ありがとう、前世の記憶。おかげでわたしは、クライブ殿下を好きにならずにすんだわ。  だからあるのは、呆れと、怒りだけだった。 ※『乙女ゲームのヒロインの顔が、わたしから好きな人を奪い続けた幼なじみとそっくりでした』の、ifストーリーです。重なる文章があるため、前作は非公開とさせていただきました。読んでくれたみなさま、ありがとうございました。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約していました~

marumi
恋愛
「あら アルヴェイン公爵がドゥーカス令嬢をエスコートされていますわ」 「ご婚約されたと噂を聞きましたが、まさか本当だとは!」 私は五年前までこの国の皇女エリシアだった。 暗殺事件に巻き込まれ、幼なじみで初恋の相手だった従者――アルヴェイン公子と共に命からがら隣国、エルダールへ亡命した。 彼の「必ず迎えに来る」その言葉を信じて、隣国の地で彼を待ち続けた……。 それなのに……。 やっとの思いで帰国した帝国の華やかなパーティー会場で、一際目立っているのは、彼と、社交界の華と言われる令嬢だった――。 ※校正にAIを使用していますが、自身で考案したオリジナル小説です。 ※イメージが伝わればと思い、表紙画像をAI生成してみました。

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

処理中です...