46 / 90
2 兄と妹
しおりを挟む
お兄ちゃん……まさか? この男性がアデルの……!?
挨拶するために急いで立ち上がった。
「アデル様のお兄様でいらっしゃいますか? はじめまして。私は……」
「祖父母から手紙で聞いてるよ。アデルの新しいシッターさんだろう?」
優しい声で尋ねてくる。
「はい、そうです。フローネ・シュゼットと申します」
「俺はアドニス・ラインハルト。よろしく、フローネさん」
「い、いえ。私はシッターの身分です。どうぞ、フローネとお呼び下さい」
「そうか、なら俺の前でもアデルと呼んでいいよ。アデル、元気だったかい?」
アドニス様は身をかがめて、アデルに声をかけた。
「……」
するとアデルは俯き、立ち上がると私の後ろに隠れてしまう。
「え? アデル?」
一体どうしたと言うのだろう? 声をかけると、私の足にしがみついてきた。
すると、そんな様子を見たアドニス様が少しだけ寂しそうに笑った。
「ごめん、アデル。いきなり現れて驚かせてしまったようだね? それじゃ、俺は席を外すよ」
え? もう行ってしまうのだろうか? 折角2ヶ月ぶりの兄妹の再会だというのに。
「あ、あの」
背筋を伸ばし、立ち去ろうとするアドニス様に慌てて声をかけた。
「祖父母のところへ、挨拶に行ってくるよ。まだ顔を見せていないんでね。庭でアデルの楽しそうな笑い声が聞こえてきたから足を運んだんだよ」
良く見れば、先程アドニス様が立っていた場所にはキャリーケースが置かれていた。
「後ほど、ご挨拶に伺いますので」
「別に急がなくていいよ。それじゃ」
それだけ告げると、アドニス様は去って行った。
「……アデル。お兄様……行かれたわよ?」
未だに私の足にしがみついたままのアデルにそっと声をかけた。
「う、うん……」
アデルはそろそろと私の足から腕を離すと、アドニス様が去って行った方角をじっと見つめている。
そういえば、アデルは人見知りが激しいと言われていたことを思い出した。私に懐いているのでそのことをすっかり忘れてしまっていた。
「アデル。もしかして恥ずかしかったの?」
「……うん」
小さくコクリと頷くアデル。
「そうだったの。ならこれから少しずつ慣れていけばいいわ。私も一緒だから大丈夫よ。それじゃ、クッキーを頂きましょうか?」
「うん、食べる」
そっと小さな頭を撫でてあげると、アデルは嬉しそうに笑った――
――11時
遊び疲れてしまったのか、アデルは私の膝の上に頭を乗せて眠ってしまった。
「フフフ……本当に可愛いわ」
そっと頭をなでながら、ニコルの小さかった頃のことを思いだす。
「ニコル……元気にしているかしら」
勉強は頑張っているだろうか? ブラウン氏とはうまくいっているのだろうか?
既にニコルには、手紙で今はシュタイナー家で5歳の少女のシッターとして働いていることを説明している。
ただ万一のことを考えて、何処に住んでいるかは記さなかった。
それはシュタイナー夫妻に止められたからだ。
いくらバーデン家を追い出されたからと言っても、リリスからは勝手にいなくなるような真似はするなと釘を差されていた。
そのことをシュタイナー夫妻に説明すると、捜索願が出されている可能性もあるので行き先は書かないほうがいいと言われたのだ。
シュタイナー家は家紋がそれほど有名ではないので、行き先を告げない限りはたどり着けないのではないだろうかという考えからだった。
そのとき、風が吹いて木の葉がザワザワと音を立てて揺れた。
「……風が出てきたわね。アデルも眠ったことだし、お部屋に戻ろうかしら」
アデルの頭をそっと、膝から下ろすと部屋に戻るために片付けを始めた……。
****
荷物の片付けが済んだ頃、誰かが近づいてくる気配を感じて振り向いた。
すると、こちらに向かってきているのはアドニス様だった。
「アデル。一緒に……あれ?」
アデルが敷布の上で気持ちよさ気に眠っている姿を目にしたアドニス様が首を傾げながら近づいてきた。
「申し訳ございません。遊び疲れて眠ってしまったようなのです」
立ち上がると、謝罪の言葉を述べた。
「別に謝る必要はないよ。祖父母と話が終わったから、アデルと過ごそうかと思って、ここへ来たのだけど……眠ってしまったなら仕方ないか」
その姿はとても残念そうだった。
「また目が覚めたら、お話できますよ」
「そうだね。それで今何をしていたんだい?」
「はい、片付けが終わったので部屋に戻るところでした」
バスケットを腕にかけて、眠っているアデルを抱き上げようとした時。
「俺がアデルを部屋に運んでもいいかな?」
「え? ええ。もちろんです」
するとアドニス様は嬉しそうに笑顔になると、眠っているアデルをそっと抱き上げ……じっと見つめる。
「……まだ、こんなに小さかったんだな……」
「ええ、でもすぐに大きくなっていきますよ」
「そうだな。それじゃ部屋に戻ろう」
「はい」
アドニス様はアデルを抱き上げて歩き始めたので、私もその後に続いた――
挨拶するために急いで立ち上がった。
「アデル様のお兄様でいらっしゃいますか? はじめまして。私は……」
「祖父母から手紙で聞いてるよ。アデルの新しいシッターさんだろう?」
優しい声で尋ねてくる。
「はい、そうです。フローネ・シュゼットと申します」
「俺はアドニス・ラインハルト。よろしく、フローネさん」
「い、いえ。私はシッターの身分です。どうぞ、フローネとお呼び下さい」
「そうか、なら俺の前でもアデルと呼んでいいよ。アデル、元気だったかい?」
アドニス様は身をかがめて、アデルに声をかけた。
「……」
するとアデルは俯き、立ち上がると私の後ろに隠れてしまう。
「え? アデル?」
一体どうしたと言うのだろう? 声をかけると、私の足にしがみついてきた。
すると、そんな様子を見たアドニス様が少しだけ寂しそうに笑った。
「ごめん、アデル。いきなり現れて驚かせてしまったようだね? それじゃ、俺は席を外すよ」
え? もう行ってしまうのだろうか? 折角2ヶ月ぶりの兄妹の再会だというのに。
「あ、あの」
背筋を伸ばし、立ち去ろうとするアドニス様に慌てて声をかけた。
「祖父母のところへ、挨拶に行ってくるよ。まだ顔を見せていないんでね。庭でアデルの楽しそうな笑い声が聞こえてきたから足を運んだんだよ」
良く見れば、先程アドニス様が立っていた場所にはキャリーケースが置かれていた。
「後ほど、ご挨拶に伺いますので」
「別に急がなくていいよ。それじゃ」
それだけ告げると、アドニス様は去って行った。
「……アデル。お兄様……行かれたわよ?」
未だに私の足にしがみついたままのアデルにそっと声をかけた。
「う、うん……」
アデルはそろそろと私の足から腕を離すと、アドニス様が去って行った方角をじっと見つめている。
そういえば、アデルは人見知りが激しいと言われていたことを思い出した。私に懐いているのでそのことをすっかり忘れてしまっていた。
「アデル。もしかして恥ずかしかったの?」
「……うん」
小さくコクリと頷くアデル。
「そうだったの。ならこれから少しずつ慣れていけばいいわ。私も一緒だから大丈夫よ。それじゃ、クッキーを頂きましょうか?」
「うん、食べる」
そっと小さな頭を撫でてあげると、アデルは嬉しそうに笑った――
――11時
遊び疲れてしまったのか、アデルは私の膝の上に頭を乗せて眠ってしまった。
「フフフ……本当に可愛いわ」
そっと頭をなでながら、ニコルの小さかった頃のことを思いだす。
「ニコル……元気にしているかしら」
勉強は頑張っているだろうか? ブラウン氏とはうまくいっているのだろうか?
既にニコルには、手紙で今はシュタイナー家で5歳の少女のシッターとして働いていることを説明している。
ただ万一のことを考えて、何処に住んでいるかは記さなかった。
それはシュタイナー夫妻に止められたからだ。
いくらバーデン家を追い出されたからと言っても、リリスからは勝手にいなくなるような真似はするなと釘を差されていた。
そのことをシュタイナー夫妻に説明すると、捜索願が出されている可能性もあるので行き先は書かないほうがいいと言われたのだ。
シュタイナー家は家紋がそれほど有名ではないので、行き先を告げない限りはたどり着けないのではないだろうかという考えからだった。
そのとき、風が吹いて木の葉がザワザワと音を立てて揺れた。
「……風が出てきたわね。アデルも眠ったことだし、お部屋に戻ろうかしら」
アデルの頭をそっと、膝から下ろすと部屋に戻るために片付けを始めた……。
****
荷物の片付けが済んだ頃、誰かが近づいてくる気配を感じて振り向いた。
すると、こちらに向かってきているのはアドニス様だった。
「アデル。一緒に……あれ?」
アデルが敷布の上で気持ちよさ気に眠っている姿を目にしたアドニス様が首を傾げながら近づいてきた。
「申し訳ございません。遊び疲れて眠ってしまったようなのです」
立ち上がると、謝罪の言葉を述べた。
「別に謝る必要はないよ。祖父母と話が終わったから、アデルと過ごそうかと思って、ここへ来たのだけど……眠ってしまったなら仕方ないか」
その姿はとても残念そうだった。
「また目が覚めたら、お話できますよ」
「そうだね。それで今何をしていたんだい?」
「はい、片付けが終わったので部屋に戻るところでした」
バスケットを腕にかけて、眠っているアデルを抱き上げようとした時。
「俺がアデルを部屋に運んでもいいかな?」
「え? ええ。もちろんです」
するとアドニス様は嬉しそうに笑顔になると、眠っているアデルをそっと抱き上げ……じっと見つめる。
「……まだ、こんなに小さかったんだな……」
「ええ、でもすぐに大きくなっていきますよ」
「そうだな。それじゃ部屋に戻ろう」
「はい」
アドニス様はアデルを抱き上げて歩き始めたので、私もその後に続いた――
368
あなたにおすすめの小説
あなたの片想いを聞いてしまった夜
柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」
公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。
政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。
しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。
「好きな人がいる。……片想いなんだ」
名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
お認めください、あなたは彼に選ばれなかったのです
・めぐめぐ・
恋愛
騎士である夫アルバートは、幼馴染みであり上官であるレナータにいつも呼び出され、妻であるナディアはあまり夫婦の時間がとれていなかった。
さらにレナータは、王命で結婚したナディアとアルバートを可哀想だと言い、自分と夫がどれだけ一緒にいたか、ナディアの知らない小さい頃の彼を知っているかなどを自慢げに話してくる。
しかしナディアは全く気にしていなかった。
何故なら、どれだけアルバートがレナータに呼び出されても、必ず彼はナディアの元に戻ってくるのだから――
偽物サバサバ女が、ちょっと天然な本物のサバサバ女にやられる話。
※頭からっぽで
※思いつきで書き始めたので、つたない設定等はご容赦ください。
※夫婦仲は良いです
※私がイメージするサバ女子です(笑)
※第18回恋愛小説大賞で奨励賞頂きました! 応援いただいた皆さま、お読みいただいた皆さま、ありがとうございました♪
その結婚は、白紙にしましょう
香月まと
恋愛
リュミエール王国が姫、ミレナシア。
彼女はずっとずっと、王国騎士団の若き団長、カインのことを想っていた。
念願叶って結婚の話が決定した、その夕方のこと。
浮かれる姫を前にして、カインの口から出た言葉は「白い結婚にとさせて頂きたい」
身分とか立場とか何とか話しているが、姫は急速にその声が遠くなっていくのを感じる。
けれど、他でもない憧れの人からの嘆願だ。姫はにっこりと笑った。
「分かりました。その提案を、受け入れ──」
全然受け入れられませんけど!?
形だけの結婚を了承しつつも、心で号泣してる姫。
武骨で不器用な王国騎士団長。
二人を中心に巻き起こった、割と短い期間のお話。
好きでした、婚約破棄を受け入れます
たぬきち25番
恋愛
シャルロッテ子爵令嬢には、幼い頃から愛し合っている婚約者がいた。優しくて自分を大切にしてくれる婚約者のハンス。彼と結婚できる幸せな未来を、心待ちにして努力していた。ところがそんな未来に暗雲が立ち込める。永遠の愛を信じて、傷つき、涙するシャルロッテの運命はいかに……?
※十章を改稿しました。エンディングが変わりました。
もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~
桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜
★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました!
10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。
現在コミカライズも進行中です。
「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」
コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。
しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。
愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。
だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。
どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。
もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。
※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!)
独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。
※誤字脱字報告もありがとうございます!
こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。
あなたへの愛を捨てた日
柴田はつみ
恋愛
公爵夫人エステルは、冷徹な夫レオニスを心から愛していた。彼の好みを調べ、帰宅を待ちわび、献身的に尽くす毎日。
しかし、ある夜会の回廊で、エステルは残酷な真実を知る。
レオニスが、未亡人クラリスの手を取り囁いていたのだ。
「君のような(自立した)女性が、私の隣にいるべきだった」
エステルは悟る。自分の愛は彼にとって「重荷」であり、自分という人間は彼にとって「不足」だったのだと。その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて砕け散る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる