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第5章 1 出会い
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7月某日――
早いもので、私がシュタイナー家にシッターとして住み込みで働き始めて2ヶ月が経過していた。
シュタイナー家の人々は、夫妻を始めとして使用人たち全てが良い人たちばかりだった。
誰もが、私に親切にしてくれて意地悪をする人が1人もいなかった。
それにこの屋敷では、使用人達を労っていた。
私が辛い思いをしていた洗濯業務は全て領地の洗濯業者に任せ、十分なお金を支払ってっていたのだ。
私の一日は、朝起きてから夜アデルが眠るまで終始彼女と一緒に過す暮らしに染まっていた。
バーデン家でリリスの専属メイドとして働いていたときも、1日中リリスの世話で明け暮れていた。
けれど、あの時と今では全く違う。
リリスの時は苦痛に満ちていたが、アデルのお世話をすることは楽しみと幸せで満ち足りていたのだった――
――午前10時
青空の下。
いつもの日課で、私はアデルと一緒にシュタイナー家の中庭にあるブランコで遊ばせていた。
「どう? アデル。楽しい?」
「うん、とっても楽しい」
ブランコに揺られながら、帽子を被ったアデルが可愛らしい笑顔を見せる。
このブランコはアデルの安全面を考えて、シュタイナー家で特注で作らせた物だった。
背もたれがついて、ベンチのようなデザインの真っ白なブランコは最近のアデルのお気に入りだった。
「アデル、そろそろブランコから降りてお茶にしましょう」
「うん!」
アデルのブランコをそっと手で止めると、抱き下ろして上げた。
「今日はあの木の下でお茶にしましょう? アデルの大好きなブルーベリージュースを作って貰ったのよ?」
「本当? 早く飲みたいな。このまま抱っこして連れて行って?」
「ええ、いいわよ」
アデルは母親の愛情に飢えているのだろう。とても私に甘えてくる。けれど、それが私には嬉しくてたまらかなった。
バーデン家を追い出された時……この世界で私を必要としてくれる人は誰もいないのではないかと感じるほどに、私は孤独だった。
けれど、ここではアデルが私のことを必要としてくれる。
自分はこの世界に存在していいのだと言ってもらえているようで、幸せだった。
「はい、どうぞ。アデル」
厨房で作って貰った搾りたてのブルーベリージュースをコップに注いでストローをさして上げると手渡した。
「うわー。美味しそう」
アデルは笑顔でストローをくわえて早速飲む。
「甘くて美味しいね~」
私も自分の分をグラスに注いで飲んでみる。ブルーベリー以外にほのかに甘みを感じられた。
「ええ、美味しいわね。甘いシロップも入っているみたいね。そうだわ、アデルはフルーツが好きよね? 今度一緒に果樹園に行って果物狩りをしてみない?」
まだニコルがアデルと同じくらいの年齢だった頃、唯一家族と出掛けた場所が果樹園だった。
そこで3人で果物を採取してお腹一杯食べた幸せな過去が蘇る。
「本当? 行く! 行ってみたい!」
「ええ。それじゃ、アデルのお祖父様とお祖母様にお話して許可を貰ってからにしましょうね?」
「うん」
「そうそう、ジュース以外に焼菓子もあるのよ」
持参してきたバスケットからクッキーを取り出そうとしたとき。
「アデル……か?」
男性の声が聞こえ、顔を上げた。
すると、少し離れた場所から見知らぬ青年がこちらを……と言うよりもアデルをじっと見つめて立っていた。
ブロンドの輝くような髪に、青い瞳の青年は遠目からでも美しい顔立ちであることが分かる。
グレーのボトムスに白いシャツ姿の彼は青空の下に良く映えていた。
「お兄……ちゃん……?」
アデルが首を傾げると、青年は優しい笑顔を向けてこちらに近づいてきた――
早いもので、私がシュタイナー家にシッターとして住み込みで働き始めて2ヶ月が経過していた。
シュタイナー家の人々は、夫妻を始めとして使用人たち全てが良い人たちばかりだった。
誰もが、私に親切にしてくれて意地悪をする人が1人もいなかった。
それにこの屋敷では、使用人達を労っていた。
私が辛い思いをしていた洗濯業務は全て領地の洗濯業者に任せ、十分なお金を支払ってっていたのだ。
私の一日は、朝起きてから夜アデルが眠るまで終始彼女と一緒に過す暮らしに染まっていた。
バーデン家でリリスの専属メイドとして働いていたときも、1日中リリスの世話で明け暮れていた。
けれど、あの時と今では全く違う。
リリスの時は苦痛に満ちていたが、アデルのお世話をすることは楽しみと幸せで満ち足りていたのだった――
――午前10時
青空の下。
いつもの日課で、私はアデルと一緒にシュタイナー家の中庭にあるブランコで遊ばせていた。
「どう? アデル。楽しい?」
「うん、とっても楽しい」
ブランコに揺られながら、帽子を被ったアデルが可愛らしい笑顔を見せる。
このブランコはアデルの安全面を考えて、シュタイナー家で特注で作らせた物だった。
背もたれがついて、ベンチのようなデザインの真っ白なブランコは最近のアデルのお気に入りだった。
「アデル、そろそろブランコから降りてお茶にしましょう」
「うん!」
アデルのブランコをそっと手で止めると、抱き下ろして上げた。
「今日はあの木の下でお茶にしましょう? アデルの大好きなブルーベリージュースを作って貰ったのよ?」
「本当? 早く飲みたいな。このまま抱っこして連れて行って?」
「ええ、いいわよ」
アデルは母親の愛情に飢えているのだろう。とても私に甘えてくる。けれど、それが私には嬉しくてたまらかなった。
バーデン家を追い出された時……この世界で私を必要としてくれる人は誰もいないのではないかと感じるほどに、私は孤独だった。
けれど、ここではアデルが私のことを必要としてくれる。
自分はこの世界に存在していいのだと言ってもらえているようで、幸せだった。
「はい、どうぞ。アデル」
厨房で作って貰った搾りたてのブルーベリージュースをコップに注いでストローをさして上げると手渡した。
「うわー。美味しそう」
アデルは笑顔でストローをくわえて早速飲む。
「甘くて美味しいね~」
私も自分の分をグラスに注いで飲んでみる。ブルーベリー以外にほのかに甘みを感じられた。
「ええ、美味しいわね。甘いシロップも入っているみたいね。そうだわ、アデルはフルーツが好きよね? 今度一緒に果樹園に行って果物狩りをしてみない?」
まだニコルがアデルと同じくらいの年齢だった頃、唯一家族と出掛けた場所が果樹園だった。
そこで3人で果物を採取してお腹一杯食べた幸せな過去が蘇る。
「本当? 行く! 行ってみたい!」
「ええ。それじゃ、アデルのお祖父様とお祖母様にお話して許可を貰ってからにしましょうね?」
「うん」
「そうそう、ジュース以外に焼菓子もあるのよ」
持参してきたバスケットからクッキーを取り出そうとしたとき。
「アデル……か?」
男性の声が聞こえ、顔を上げた。
すると、少し離れた場所から見知らぬ青年がこちらを……と言うよりもアデルをじっと見つめて立っていた。
ブロンドの輝くような髪に、青い瞳の青年は遠目からでも美しい顔立ちであることが分かる。
グレーのボトムスに白いシャツ姿の彼は青空の下に良く映えていた。
「お兄……ちゃん……?」
アデルが首を傾げると、青年は優しい笑顔を向けてこちらに近づいてきた――
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