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序章
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新しくできたオープンカフェで私と姉は大きなパラソルの立つ白い丸テーブルの前に2人で並んで座り、一緒に冷たいオレンジティーを飲んでいた。
「お姉さま、この飲み物とっても美味しいですね。」
「ええ、そうね。ルチア。」
姉のリリアンは読んでいた本から視線を上げて私を見ると優雅に微笑む。
「お姉さま・・・。」
私は天使のような姉の微笑みにうっとりしてしまった。プラチナブロンドのストレートヘアに青い瞳の姉はとても綺麗だ。ダークブロンドの私の髪とは比べ物にならないくらいに。
するとその時・・・。
「コホン。」
わざとらしい咳払いが私たちの向かい側のパラソル席から聞こえてきた。顔を上げるとそこには姉の婚約者であるジェイク・レイモンドが女性と一緒に座っている。この男は女たらしのとんでもなく嫌な奴である。2人が婚約したのは今から12年前の6歳の時。私はこの当時の事をあまり良く覚えていないが、ジェイクの事が気に入らずに出会ってすぐに蹴り飛ばしたらしい。
「はい、ジェイク様。アーンして下さい。」
ジェイクのとなりには最近彼が熱を上げるようになった転校生のノーラ嬢が座っている。フワフワとした蜂蜜色の髪に紫の瞳のとっても可愛らしい女性であるが・・嫌な女でもある。
そのノーラ嬢がジェイクに、よりにもよって婚約者の姉の前でチョコレートケーキを食べさせているのだから常識を疑ってしまう。
「どうですか?ジェイク様。美味しいですか?」
「うん。とってもおいしいよ、ノーラ?」
だらしなく笑ったジェイクの顔を見るだけで嫌悪感が沸いてくる。他の女子学生達からはどうやらジェイクは飛びきりハンサムに見えるが、私はちっともそうは思えない。あんなナヨナヨしたタイプの男のどこが良いのかと思ってしまう。
「お姉さま、隣で何やら耳障りな雑音が聞こえてきているので、席を移りましょう。」
私は2人分の飲み物を手に取ると立ち上がった。
「え?ルチア。どうしたの?」
姉は本から顔を上げて・・・ようやくジェイクの存在に気が付いた。
「あら、ジェイク。御機嫌よう。」
「あ、ああ・・・どうだ?リリアン。これを見てどう思う?」
ジェイクはケーキをフォークにさして食べさせようとしているノーラ嬢の肩をこれ見よがしに抱き寄せると言った。姉はその様子をじっと見ていたが・・口を開いた。
「そうですね・・・おいしそうなケーキですね。」
「な・・・ケーキだとっ?!お前は、それしか思う処は無いのかっ!」
ジェイクは何故か逆切れした。
「そ、そうですわ!他に言う事は無いのですかっ?!」
ノーラ嬢も必死になって姉に訴える。
「そうですね・・・あ、なら一つあります。」
姉はポンと手を打った。
「何だ?言ってみろ?」
嬉しそうに笑みを浮かべるジェイクに姉は言った。
「ケーキだけですと、口の中がパサパサになります。飲み物も有った方が良いでよ。」
「な・・何だって・・・?」
ジェイクは唖然とした顔で姉を見た。フフン、どうよ。姉は才女だからあんたみたいな男は婚約者だろうと動じないのよ。
「さあ。お姉さま、あんな人たちの事は放っておいて向こうのテーブルへ行きましょう。」
私が促すと姉は返事をした。
「ええ。そうね・・・。行きましょうか?ルチア。」
そして私たちは悔しがるジェイクとノーラ嬢を残してその場を立ち去った。
それは5月の太陽がまぶしい初夏の出来事であった―。
「お姉さま、この飲み物とっても美味しいですね。」
「ええ、そうね。ルチア。」
姉のリリアンは読んでいた本から視線を上げて私を見ると優雅に微笑む。
「お姉さま・・・。」
私は天使のような姉の微笑みにうっとりしてしまった。プラチナブロンドのストレートヘアに青い瞳の姉はとても綺麗だ。ダークブロンドの私の髪とは比べ物にならないくらいに。
するとその時・・・。
「コホン。」
わざとらしい咳払いが私たちの向かい側のパラソル席から聞こえてきた。顔を上げるとそこには姉の婚約者であるジェイク・レイモンドが女性と一緒に座っている。この男は女たらしのとんでもなく嫌な奴である。2人が婚約したのは今から12年前の6歳の時。私はこの当時の事をあまり良く覚えていないが、ジェイクの事が気に入らずに出会ってすぐに蹴り飛ばしたらしい。
「はい、ジェイク様。アーンして下さい。」
ジェイクのとなりには最近彼が熱を上げるようになった転校生のノーラ嬢が座っている。フワフワとした蜂蜜色の髪に紫の瞳のとっても可愛らしい女性であるが・・嫌な女でもある。
そのノーラ嬢がジェイクに、よりにもよって婚約者の姉の前でチョコレートケーキを食べさせているのだから常識を疑ってしまう。
「どうですか?ジェイク様。美味しいですか?」
「うん。とってもおいしいよ、ノーラ?」
だらしなく笑ったジェイクの顔を見るだけで嫌悪感が沸いてくる。他の女子学生達からはどうやらジェイクは飛びきりハンサムに見えるが、私はちっともそうは思えない。あんなナヨナヨしたタイプの男のどこが良いのかと思ってしまう。
「お姉さま、隣で何やら耳障りな雑音が聞こえてきているので、席を移りましょう。」
私は2人分の飲み物を手に取ると立ち上がった。
「え?ルチア。どうしたの?」
姉は本から顔を上げて・・・ようやくジェイクの存在に気が付いた。
「あら、ジェイク。御機嫌よう。」
「あ、ああ・・・どうだ?リリアン。これを見てどう思う?」
ジェイクはケーキをフォークにさして食べさせようとしているノーラ嬢の肩をこれ見よがしに抱き寄せると言った。姉はその様子をじっと見ていたが・・口を開いた。
「そうですね・・・おいしそうなケーキですね。」
「な・・・ケーキだとっ?!お前は、それしか思う処は無いのかっ!」
ジェイクは何故か逆切れした。
「そ、そうですわ!他に言う事は無いのですかっ?!」
ノーラ嬢も必死になって姉に訴える。
「そうですね・・・あ、なら一つあります。」
姉はポンと手を打った。
「何だ?言ってみろ?」
嬉しそうに笑みを浮かべるジェイクに姉は言った。
「ケーキだけですと、口の中がパサパサになります。飲み物も有った方が良いでよ。」
「な・・何だって・・・?」
ジェイクは唖然とした顔で姉を見た。フフン、どうよ。姉は才女だからあんたみたいな男は婚約者だろうと動じないのよ。
「さあ。お姉さま、あんな人たちの事は放っておいて向こうのテーブルへ行きましょう。」
私が促すと姉は返事をした。
「ええ。そうね・・・。行きましょうか?ルチア。」
そして私たちは悔しがるジェイクとノーラ嬢を残してその場を立ち去った。
それは5月の太陽がまぶしい初夏の出来事であった―。
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