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16 主の命令は絶対
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「クリフ、今日はお前のおかげで助かった。今回も良い点が取れそうだよ。それにしても本当にお前の勘は当たるよな」
馬車の中でジュリオは上機嫌で僕に話しかけている。
「そうですか、それは良かったです。旦那様に僕のこと、きちんと報告してくださいね」
「ああ、もちろん伝えておくさ」
「ありがとうございます」
ジュリオの成績が上がれば、僕の給料も上がる。けれど、彼の成績が下がれば僕の給料も下げられてしまうので、気が抜けない。
「ところで、クリフ。お前、今日転入してきた女生徒ともう親しくなったんだな。昼休みも一緒に食事をしたんだろう? やるじゃないか」
ニヤニヤしながら僕を見るジュリオ。……本当に何も気づいていないようだ。
「ジュリオ様………あの方は……」
言いかけてハッとなった。そうだった、僕はクレアから自分がジュリオのお見合い相手だということは伏せておいてもらいたい言われていたのだ。
何でも当日、お見合いの席に現れて驚かせたいらしい。
けれど、その前にジュリオが両親から見合い相手の名前を聞かされたらどうするかと尋ねたら、そのときはその時だとクレアは笑っていたけれど……
僕はじっとジュリオの顔を見る。
女性遊びが激しいジュリオはいちいち相手の名前など覚えるようなことはしない。
何しろ、実際クレアの名前を聞いても動じることは無かったのだから。彼女の顔と名前が一致することはまずないだろう。
一人、うんうんと納得しているとジュリオが首を傾げる。
「何だよ? 変な奴だな……一人で頷いたりして。まぁいい。ところで今度の休みだが、朝も言った通りお前も同席するんだぞ」
う~ん……本当は断りたいところだけれど、クレアと知り合ってしまったから断るわけにはいかないだろうなぁ……
「分かりました……ですが、お見合い相手が僕に席を外してもらいたいと言われた場合、僕は同席しませんからね。それで良ければお引き受けいたします」
「よし! いいだろう。それでいこうじゃないか。その代わり、見合い相手からお前の同席を許されたら最後まで付き合ってもらうからな?」
「最後までですか!? そんなの横暴です!」
「何だと!? まだそうやって抵抗する気か? 往生際の悪い奴め!」
「当然です! 横暴な命令には一生抵抗し続けますから!」
「なんって生意気な奴だ!」
そして僕達は再び、馬車の中で不毛な言い争いを続けた――
****
「ふ~……疲れた。全く学校から帰宅したのに休む暇もないなんて……」
学校から帰宅した僕は学校の制服から使用人の制服に着替えると、ジュリオにお茶を運ぶ為に厨房へ向かっていた。すると、向かい側からシビルが駆け寄ってきた。
「お帰りなさい! クリフ!」
「ただいま、シビル。いったいどうしたんだい?」
「あのね、お礼を言おうと思っていたのよ!」
「お礼?」
一体何のことだろう? 首を傾げる。
「ほら、今朝会ったとき、早くリネン室へ行ったほうがいいって教えてくれたでしょう」
「あ、そうだったね」
今朝は色々なことがあってすっかり忘れていた。
「そうしたらね、やっぱりリネン室の前のポンプにヒビが入っていたのよ。危うくそこから水漏れしそうになっていたから、慌てて使用禁止の張り紙を貼って、修理を依頼したの。そしたら他の人たちに褒められちゃった。よく気づいたなって」
「それは良かったね」
「あの……それでね。お礼を兼ねて、こ、今度の休暇の日……一緒に出かけない? 何か奢らせてよ」
シビルが何故か顔を赤らめて僕を見る。
「あ~ごめん。無理なんだ。今度の休暇の日はジュリオ様の命令で仕事をしなくちゃならないんだ」
「え……そうだったの……」
明らかに落胆するシビル。
「その気持だけで十分だから。それじゃ僕はもう行くね。遅れるとジュリオ様に文句を言われてしまうから」
「うん。分かったわ。また誘わせてね」
「そうだね」
そして僕は再び厨房へ足を向けた。
うん、やっぱり些細な力だけど人から感謝されるのは嬉しいものだ――
馬車の中でジュリオは上機嫌で僕に話しかけている。
「そうですか、それは良かったです。旦那様に僕のこと、きちんと報告してくださいね」
「ああ、もちろん伝えておくさ」
「ありがとうございます」
ジュリオの成績が上がれば、僕の給料も上がる。けれど、彼の成績が下がれば僕の給料も下げられてしまうので、気が抜けない。
「ところで、クリフ。お前、今日転入してきた女生徒ともう親しくなったんだな。昼休みも一緒に食事をしたんだろう? やるじゃないか」
ニヤニヤしながら僕を見るジュリオ。……本当に何も気づいていないようだ。
「ジュリオ様………あの方は……」
言いかけてハッとなった。そうだった、僕はクレアから自分がジュリオのお見合い相手だということは伏せておいてもらいたい言われていたのだ。
何でも当日、お見合いの席に現れて驚かせたいらしい。
けれど、その前にジュリオが両親から見合い相手の名前を聞かされたらどうするかと尋ねたら、そのときはその時だとクレアは笑っていたけれど……
僕はじっとジュリオの顔を見る。
女性遊びが激しいジュリオはいちいち相手の名前など覚えるようなことはしない。
何しろ、実際クレアの名前を聞いても動じることは無かったのだから。彼女の顔と名前が一致することはまずないだろう。
一人、うんうんと納得しているとジュリオが首を傾げる。
「何だよ? 変な奴だな……一人で頷いたりして。まぁいい。ところで今度の休みだが、朝も言った通りお前も同席するんだぞ」
う~ん……本当は断りたいところだけれど、クレアと知り合ってしまったから断るわけにはいかないだろうなぁ……
「分かりました……ですが、お見合い相手が僕に席を外してもらいたいと言われた場合、僕は同席しませんからね。それで良ければお引き受けいたします」
「よし! いいだろう。それでいこうじゃないか。その代わり、見合い相手からお前の同席を許されたら最後まで付き合ってもらうからな?」
「最後までですか!? そんなの横暴です!」
「何だと!? まだそうやって抵抗する気か? 往生際の悪い奴め!」
「当然です! 横暴な命令には一生抵抗し続けますから!」
「なんって生意気な奴だ!」
そして僕達は再び、馬車の中で不毛な言い争いを続けた――
****
「ふ~……疲れた。全く学校から帰宅したのに休む暇もないなんて……」
学校から帰宅した僕は学校の制服から使用人の制服に着替えると、ジュリオにお茶を運ぶ為に厨房へ向かっていた。すると、向かい側からシビルが駆け寄ってきた。
「お帰りなさい! クリフ!」
「ただいま、シビル。いったいどうしたんだい?」
「あのね、お礼を言おうと思っていたのよ!」
「お礼?」
一体何のことだろう? 首を傾げる。
「ほら、今朝会ったとき、早くリネン室へ行ったほうがいいって教えてくれたでしょう」
「あ、そうだったね」
今朝は色々なことがあってすっかり忘れていた。
「そうしたらね、やっぱりリネン室の前のポンプにヒビが入っていたのよ。危うくそこから水漏れしそうになっていたから、慌てて使用禁止の張り紙を貼って、修理を依頼したの。そしたら他の人たちに褒められちゃった。よく気づいたなって」
「それは良かったね」
「あの……それでね。お礼を兼ねて、こ、今度の休暇の日……一緒に出かけない? 何か奢らせてよ」
シビルが何故か顔を赤らめて僕を見る。
「あ~ごめん。無理なんだ。今度の休暇の日はジュリオ様の命令で仕事をしなくちゃならないんだ」
「え……そうだったの……」
明らかに落胆するシビル。
「その気持だけで十分だから。それじゃ僕はもう行くね。遅れるとジュリオ様に文句を言われてしまうから」
「うん。分かったわ。また誘わせてね」
「そうだね」
そして僕は再び厨房へ足を向けた。
うん、やっぱり些細な力だけど人から感謝されるのは嬉しいものだ――
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