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93日目―沈む(中編)―
しおりを挟むぎいい、という音が、ずいぶん遠くから聞こえた気がした。
実際には、遠くはない。意識が現実から飛びすぎて、遠く聞こえただけで、それぐらい蛍は追い詰められていた。
「酷い顔ねぇ。生きてる?」
「…………ぁ、あ“」
ばつんっ、と電撃が走るが、もう反応する気力もない。ピンク色の液体の中に、侵されきった体を力なく沈めていた。
失禁なんて、何度したかわからない。尻穴も陰唇もふやけきって、とっくの昔に開いている。その中にも媚毒は侵入してきて、愛液と腸液とぐちゃぐちゃに混ざった。
何度か呼び掛けて、ろくに反応が返ってこないことを見ると、アイリーンはため息をついた。
「これだから体を壊す責めは嫌なのよ。一応持ってきといてよかったわ」
開いたままの蛍の口に、錠剤を落とす。
ゆっくりと、時間をかけて嚥下してから、数分。
少しずつ、蛍の顔に理性が戻ってきた。
「あ、あ“……、れ?」
「おかえり、蛍さん。とりあえず出てきてもらえる? 首輪と棺桶の接続は外したから」
「………む、りよ」
芋虫のように這って出ることぐらい普段ならできるだろうが、今は体に力が入らない。感度が戻ろうが体力は戻らないのだから当然だ。
アイリーンは、唇の端をゆがめた。
「ああそう、じゃあもういっか。あかり、無効薬ちょうだい」
「はい」
「待って、それは……っ!」
「仕方ないわよね、私の言うことを無視するんだもの」
あかりから受け取った別の薬を、アイリーンは容赦なく蛍の喉に突っ込む。
一瞬で焦らされきった体に戻され、暴れ狂う熱に蛍はぼろぼろ涙をこぼして絶叫した。
「い“や”ぁぁああああああああっ! 出る、出るがらぁああああああああっ!」
打ち上げられた魚のように跳ね回り、蛍にのしかかるようにして悶える梓の体が浮きあがる。
桃色に染まった二つの肉塊を放置して、アイリーンとあかりは牢屋を出た。
■■■
1時間後。
ぐったりとした蛍に再び不感剤を飲ませて、アイリーンはぺしぺしと頬を叩く。
「はーい、出てらっしゃい」
「………ぅ、っく、ぁ」
額に脂汗を浮かべて、蛍は体を起き上がらせる。
梓を引きずって、べちゃりと硬い床に倒れ込んで、荒い息を吐いた。
「はあ、はあ……っ! で、たわよ」
「良い感じに追い詰められているわね。あかり、枷外してあげて」
がしゃり、と手足の戒めを外されて、蛍の体が少しだけ広がる。
床にうつ伏せになって、大事な部分を隠すでもなくひくひくと腰を震わせる蛍に、アイリーンは声をかけた。
「さて、蛍さん。もうあそこに沈められたくない?」
「……もう、やだ……」
「じゃあ、誠意あるお願いってやつが、見てみたいわね」
看守用の椅子に腰かけて、アイリーンはニコニコと笑う。
「私が納得できるお願いができたら、『ゆりかご』は引き上げてあげる。さ、どうぞ」
突然の要求に、満身創痍の蛍はぎしりと固まった。
―――もう、あの中は嫌だ……ど、どうすれば。なにをすれば、いい……?
失敗はできない。アイリーンなら、どうすれば納得するだろうか。なにをすればいいだろうか。ぐるぐると考えるが、その沈黙は既に致命傷だった。
すう、と笑みを消して、アイリーンは冷たく言い放つ。
「相手を待たせるなんて、0点よ」
目配せをされたあかりが再び蛍に枷をはめられて、蛍は慌てて叫んだ。
「ごめんなさい許して、もう壊れちゃう、おかしくなっちゃうからあっ! お願い、お願いぃぃっ! あああああああああああっ!」
「はい薬」
そして、再び媚毒に沈められ。
焦れ切った体をのたうち回らせる、一人の時間がまた始まる。
■■■
「おねがい、します……。もう、許しで、ぐだ、さいぃ……」
痙攣が収まらなくなった体を土下座の形に丸めて、蛍は額を床にこすりつけた。
敵に自分から頭を下げる悔しさ、裸のまま頭を踏まれる屈辱に涙がこぼれるが、反抗心はもう折れていた。とにかくアイリーンの機嫌を損なわないように、自ら恥辱を晒していく。
満足げに笑って、アイリーンは頷いた。
「うん、良い恰好ね。まさに負け犬って感じがとてもいいわ。ね、蛍さん?」
「う、あ“あ」
ぐりぐりと頭を踏まれて、うめき声が漏れる。ぽた、ぽたと股から聞こえる水滴の音に羞恥心がどこまでも膨らんでいく。
「さて」
ぱん、とアイリーンが手を叩いていった。
「じゃあ今度は、私にそのいやらしい秘部がよく見えるように自慰をしてもらおうかしら」
「…………え」
ぴしり、と蛍は固まった。
首輪は未だ嵌っている。感度はもうおかしいままだ。この状態で自慰なんてしたら、焦らすも何もない。陰核に指が当たるたびに電撃を受けることになる。
しかし、急速に冷めていくアイリーンの顔を見て。
蛍はまた、自分が失敗したことを悟った。
「やる、やるからっ! やらせてくださいお願いします許してくださいっ!」
「あかり」
「離してよ、あかりっ! お願いだからぁ、お願い……、ねぇ……っ!」
「あきらめて、お姉ちゃん」
とぷん、と媚毒に沈められて、また1時間。
常時電撃を受けているような発情状態に、蛍の反抗心は、完全に折れた。
■■■
「イきますっ! イ、い“ああああっ! あ、ふぅ、っが、あ”あ”あ”あ”あ”っ」
アイリーンに見えやすいように目一杯股を開く。
犬の芸のように陰部をぱっくりと見せびらかして、蛍は二本の手でどこまでも積極的に自分を虐める。菊門の中に指を入れ、陰核を潰して、膣から本気汁を掬い取って見せびらかすように陰毛にまぶす。
気の強い、鋭く尖ったかつての目を思い出して、アイリーンはくつくつと笑った。
―――もうすぐ堕ちるかしら。
数秒ごとに電圧を受けて体を跳ねさせる蛍に、す、と手を向ける。
「ひっ」
「ああ、そんなに怯えないでよ。じゃあ、次はねぇ……」
聞き漏らすまいと潤んだ目を向けてくる蛍に、アイリーンは微笑んだ。
「貴方の舌で、あかりを満足させてもらえる?」
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