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何も知らず
しおりを挟む12歳のジョーセフ王と8歳のアリアドネ王妃―――そんなままごと遊びの様な国王夫妻が誕生してすぐ、デンゼルは王国騎士団長の職を辞し、辺境伯領へと下がった。
王妃の外戚としての立場を他者に利用されない為。
そして、自らがこの政略結婚によって利を得る思惑がない事を示す為だ。
デンゼルは、ただ新王の後ろ盾となる意思だけを打ち出すべく、政治からは遠ざかり、遠いポワソンの地より強大な武力をもって王への支持を示し続けた。
全ては若き新王ジョーセフの為。
わずか8歳で妃となった娘アリアドネの為ではなかった。
アリアドネは寂しかった。不安だった。知らない人たちに囲まれて怖かった。
でも、アリアドネは大好きなジョーセフの為に頑張った。
仮初の妃だとしても、いつか本当の妃になれるかもしれない。いや、たとえなれなくても、その時までジョーセフを支えられればそれでいい。
宰相の補佐の下、懸命に執務を頑張るジョーセフの助けになれるなら。
そんな気持ちで妃教育に勤しんだ。
空いた時間に図書室で本を読んで知識を蓄え、できる公務を少しずつ増やし、弱音は決して吐かず、いつも微笑んで。
ジョーセフもまた、自分の為に家族や故郷を離れ、ひとり王宮にいるアリアドネを気遣い、大切にした。
ジョーセフは、アリアドネがここにいる理由を知っていた。
自分が王に即位できた理由を、よく理解していたのだ。
あの時にデンゼルが後ろ盾となる事を宣言しなければ、かつてジョーセフの父に対して王位簒奪を企てた前王弟――― 叔父のタスマ―――が担ぎ出されただろう。
そしてもし叔父が王位を奪っていたら、ジョーセフも彼の弟も殺されていたに違いない。
ジョーセフはデンゼルに、そしてアリアドネに感謝していた。
ありがたい、申し訳ない、と思っていた。
自分が不甲斐ないせいで苦労をかけたと。
だから。
ジョーセフが16歳で成人となり、改めてこの仮初の結婚関係をどうするかについて話し合った時。
結婚を解消し、娘をポワソンに連れ帰るというデンゼルの意見より、12歳のアリアドネの希望を聞き入れたのだ。
「私はジョーセフさまをお慕いしております。出来る事なら、このままジョーセフさまの妻として側にいたいと願っております」
この時までにアリアドネは妃としての資質を十分に証明しており、デンゼル以外に反対する意見はほぼなかった。
なにより、ジョーセフがそれを受け入れていた。
アリアドネとは違い、ジョーセフに恋情はなかったのかもしれない。
意見を聞き入れる事で、恩人の娘であるアリアドネに謝意を示そうとしたのかもしれない。
その時の心情は、ジョーセフにしか分からない。
とにかくジョーセフは、アリアドネと正式な婚姻の書類を交わし、今度は仮初ではなく正式な夫婦となった。
もはや容易く解消できない、法的に正式な婚姻を。
2人が並んで立つ様は、4年前と同じで夫婦というより兄妹に見えたし、閨もまだ共にしていなかったけれど。
それでもこの日、2人は正式に夫婦となったのだ。
―――それから6年後。
ジョーセフがこの時の決定を酷く後悔するとも知らずに。
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