【完結】夫は私に精霊の泉に身を投げろと言った

冬馬亮

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全てその通り

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筆頭医師は、ジョーセフから受けた依頼内容に耳を疑った。


意図が分からなかったのだ。
いや、意図というか、依頼された検査内容に意味がないように思った。なぜなら、王は既に側妃との間に3人も子をもうけているからだ。


いや、だが待て、と筆頭医師の頭の中で警鐘が鳴る。


ならば、それにも関わらずこの検査を依頼した理由は―――


当然の流れとして導き出された結論に筆頭医師が戦慄した時、国王の低い声が届いた。



「このことは他言無用だ。宰相にも告げてはならぬ。漏らした時は・・・分かっているな?」

「しょ、承知いたしましたっ」


筆頭医師は、鞄から震える手で医療用具を取り出しながら、頭の中では懸命に記憶を掘り起こした。つとめて無表情を意識しつつ。


自分が筆頭医師に昇格したのはいつだったか。

確か前任者は、急に職を辞す事になって、自分が繰り上げで筆頭医師になった。
あれは・・・9年、いや10年前だったか。

あれがもしこの件と関わっていたのなら。
彼は故郷の母の為に城を辞したのではなく、今は恐らくもう―――




「・・・結果はいつ分かる」

「は、はいっ、あの、医療検査用の魔道具がありますので明日にでも」


動揺を必死に抑えながら、筆頭医師が返答する。それにジョーセフは無表情で頷くと、手を振って医師を去らせた。










「カレンはいるか?」


翌日の午後、ジョーセフは珍しく執務を途中で抜け出し、カレンデュラの部屋を訪れた。


けれど部屋にカレンデュラはいなかった。
5人付けている専属侍女のうち4人が部屋に残っていた。
カレンデュラは、供に侍女をひとりだけ連れて散歩に出たと言う。


「そうか」


まるでいないと分かっていたかの様に、ジョーセフは淡々と答え、部屋を出た。

踵を返し、そのまま執務室へ戻るかと思いきや―――


「陛下、そちらは」


ジョーセフの背後に従う護衛騎士が戸惑いの声を上げた。

無理もない、ジョーセフが足を向けたのは西の塔。

前王弟タスマが幽閉されている塔なのだから。


塔の入り口には警備兵がふたり。これはいつも通りの配置だ。

近づくジョーセフたちを見て、警備兵たちの顔に緊張が滲んだ。
ジョーセフは気にせず、手を振ってふたりを退かせ、塔へと足を踏み入れた。

長く続く階段を上がっていく。

やがて一つの扉が視界に現れた。

本来なら、その扉の前にも護衛兵が配置されている筈。

だが、この日この時、そこにいたのは兵ではなかった。


先ほどカレンデュラが散歩の供に連れて行ったと報告を受けたその侍女が、そうカレンデュラの専属侍女が、見張りのように扉の前に立っていた。


「これも報告書の通りか・・・」


ぽつりとジョーセフが呟いた。


その声に、侍女が気づいて顔を上げた。
そして、ジョーセフの姿を認めてギョッと目を見開く。


「へ、陛下? どうしてこちらに・・・っ」

「なぜ国王である俺が、一介の侍女であるお前の質問に答えねばならぬ?」

「・・・っ、そ、れは」

「拘束せよ」


ジョーセフの護衛騎士がさっと前に出た。
そしてあっという間に侍女を取り押さえ、床へと押し付けた。


「カレンデュラは中か?」

「は、いえ、あの、カレ、カレンデュラさまは・・・前王弟さまの、お見舞いに来られて」

「質問に答えよ。俺は、カレンデュラは中にいるのかと聞いている」


騎士が、押さえ込む腕により力を込めた。
侍女はうっと呻き声を上げ、慌てたように何度も首肯した。

ジョーセフは侍女の横を通り過ぎ、扉の把手に手を置き、ひとつ深呼吸をして勢いよく扉を開く―――


筆頭医師に頼んだ検査結果を含め、ここまで全てデンゼルが寄越した報告書の通りだった。

ならば、扉の向こうの光景もまた―――



「きゃあ! えっ? ジョー? うそ、どうしてここにいるの?」

「え、ジョー? ジョーってジョーセフ?」


寝台の上。


カレンデュラとタスマ。


裸で重なり合っていたふたりは、まるで本当の夫婦のようだ。


慌てて飛び起きるカレンデュラとは対照的に、タスマは裸体を隠しもせずにジョーセフを見上げた。


「これは驚いた。我が甥に会うのは実に20年ぶりだ。随分と立派に成長したな。元気だったかい?」


にこやかに笑うタスマの横、カレンデュラは慌ててシーツを身体に巻きつけていたが、そんなものは今さらだった。







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