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国王代理アーロン

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「昨日午後から王国に臨んだ闇と雪について説明する。心して聞くように」


王都の中央広場に集まった人々の前で、アーロンは声を張り上げた。


集まった民の足元にはまだ雪が残っていた。
だが、それも2、3日もすれば跡形なく消える。雪は夜のうちに止んだ。昨年の悪夢の再現とはならなかった。


アーロンは民に、1年前に始まった精霊王の裁きの詳細について語った。


国王ジョーセフが毒を盛られ生死を彷徨ったこと。

その後、側妃カレンデュラもまた毒に倒れたこと。

犯人が当時の正妃アリアドネだと国王が糾弾したこと。

アリアドネは一貫して無実を主張していたこと。


「その為、王領にある精霊の泉にて『精霊王の裁き』を願った。結果として、正妃は泉の底に沈んだ。この意味は分かるな? そう、正妃は無実だった」


アーロンはここで息を吐き、群衆を見回した。

群衆は動揺し、互いにひそひそと囁き合っている。

精霊王の裁きについては巷で囁かれていたものの、緘口令が敷かれていた事もあり、彼らが知っていた事柄はかなり曖昧で不正確だったのだ。


「その後に続いて起きた事は、皆も既に知っていると思う。いや、経験したと言った方が正しいか・・・闇と3日3晩の雪が王国に臨み、収穫間近の作物は全て駄目になった。困難な状況に陥り苦しんだが、一方でこれで裁きは終わったと安堵もした」


だが違ったのだ、とアーロンが続けた事で群衆が響めいた。


「正妃アリアドネは何の罪に問われたか? そう、国王ジョーセフと側妃カレンデュラの毒殺未遂だ。そして犯人は正妃ではなかった」


―――では、誰が?


アーロンの言葉に、群衆は息を呑んだ。

彼らもやっと気づいたのだ。
最初の裁きで明らかになったのは正妃の無実のみ。

アリアドネでなかったというのなら、罪があるのは誰なのか。


「そうだ。精霊王の裁きとは、疑いをかけられた者が泉に入れば終わるものではなかったのだ。
一度ひとたび裁きを精霊王の前に願い出たならば、必ず決着を迎えなければならなかった。昨日の闇と雪、皆は気づいていただろうか。正妃が泉の底に沈んでちょうど1年だ。精霊王は再び我らに問うていたのだ」


罪を犯した者は誰だ、と。


ざわつきが一瞬で静まり、静寂がその場を支配した。


「・・・もしその問いに答えを返さなかったならば、雪は今も降り続いていただろう。そして3日降って止んだ後もまだ答えを出さないままなら、恐らくは来年のこの時期もまた同じ事が起きた筈」


アーロンはそこで言葉を切り、背後に控えていた騎士たちに合図した。


「故に、我らは動いた」


騎士たちは二つの袋を手に前に進み出た。
さほど大きくないその袋の底からは血が滴り落ちていた。


「お、おい、あれ」

「ひぃっ」

「まさか」


群衆が口々に叫んだ。
アーロンはぐるりと周囲を見回し、頷きを返す。


「本日未明にこの2人の首を落とした。そしてその瞬間、雪は止んだ。毒を盛った罪ある者はこの2人・・・前王弟タスマと現国王の側妃カレンデュラだ。カレンデュラが倒れたのは自作自演だった」


騎士たちは袋から首を取り出し、設置された台の上にそれを置いた。


「この事件に関しては、私自身も陛下から疑いをかけられ、幽閉を言い渡されていた。だが、雪が止んだ今もこうして私が生きて立っている事が無実の証となる筈だ」


それから、アーロンは右手を上げ宣言した。


「本日、精霊王の裁きは終わりを迎えた。
来年のこの時期に、クロイセフ王国が再び闇と雪に苛まれる事はないだろう」


その言葉に、わっと歓声が上がった。

半日だけとはいえ、夏の終わりに降った雪はそれなりの打撃となった。

けれど、また同じ事が起きるのではないかと恐れる必要はないと知り、民は心から安堵したのだ。


だから、群衆は気づかなかった。


この場に国王自身や宰相がおらず国王代理のアーロンがいる、その意味を。





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