【完結】ただあなたを守りたかった

冬馬亮

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ごめん

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ティターリエの捜索は、王家に対する偽証罪という、あくまでライツェンバーグ侯爵が犯した罪の証拠固めとして行われていた。ゆえに、関係者の処罰などの重要な判断は王家が下さなければならない。


――そんな理屈をこねくり回して、ベネディクトはランドンにやって来た。


もう一度ティターリエに会いたい、無事な姿を自分の目で確かめたい、とそんな気持ちに動かされてのことだ。


ライツェンバーグ侯爵の偽証罪は確定である。処遇も決まっているが、国王はそれを公にするのに暫しの猶予を置いていた。
偽証罪の証拠固めという理由づけがなくなれば、ティターリエを捜索する際の隠れ蓑がなくなってしまうからだ。

この措置は、ひとえにベネディクトの心情を慮ってのことである。そしてティターリエが見つかった今、ライツェンバーグ侯爵の処断を遅らせる理由はなくなった。
これから、グスタフ・ライツェンバーグには速やかに処断が下されるだろう。


『ベネディクト。お前ももう十四になる。ランドンから帰って来たら、これまで止まっていたお前の婚約者の選定を再開するぞ』


ベネディクトは、ランドンに向けて出発する前、父王からそんな言葉をかけられていた。








ティターリエが保護された男爵家に向かう前に、ベネディクトはランドンの中心から少し外れたところにある小さな家に立ち寄っていた。

台所と風呂場を抜けば二部屋しかない小さな家で、裏庭には小さな畑が作ってあった。

アンナ名義のその家は、不動産店の記録によれば、ティターリエが王妃主催の茶会に出席する数か月前に購入されていたという。


「ここでティターリエ嬢は暮らしていたのか・・・」


建物は古びていて、食器や家具は必要最低限だけ。でも、不思議と居心地のよさを感じた。

ひと通り家の中と外を見て回った後、ベネディクトは再び馬車に乗って男爵邸へと向かった。

そこで、アンナの処遇についてティターリエと話し合うのだ。




「こちらです」


男爵家の執事に案内され、ベネディクトは客間の一室の前に立った。

この扉の向こうにティターリエがいる。ノックをする手に自然と力がこもる。

部屋の中、窓際の椅子に、白金の髪の少女が座っているのが見えた。


――ああ、ティターリエだ。


ベネディクトは、その姿を目に映して言葉を失う。


本当に生きていた。

生きていて、くれた。


ベネディクトは瞼の奥が熱くなるのを感じ、きつく目を瞑ってやり過ごす。


シンプルなドレスに身を包んだティターリエは、やはり美しかった。

記憶にある彼女より髪は短く肩の辺りで切りそろえられていて、背は少し高くなっている。

陶器のように真っ白だった肌は、少し日に焼けて頬の辺りに赤みが見えた。

けれど、綺麗なエメラルドの瞳は思い出の彼女そのままだ。


彼女の最悪の未来を、ベネディクトは何度予想しただろう。

泣いているティターリエを何度夢で見ただろう。

今、ティターリエの無事な姿をこの目で見られたことが、純粋に嬉しい。


たとえベネディクトの心配から始まった真実の解明が、ティターリエにとってお節介でしかなかったとしても。



「あなたは・・・」


王都からの使者が、まさか同年代の王子とは思っていなかったのだろう。ティターリエは軽く目を瞠り、立ち上がった。


「やあ、ティターリエ嬢。あなたの無事な姿が見れてよかった。ほっとしたよ」

「まさか・・・第三王子殿下がどうしてこちらに・・・?」

「ああ、楽にしてくれ」


ティターリエが慌ててカーテシーをしようとしたのをベネディクトが止め、席に座るよう促す。


――どうしてこちらに、か。


ティターリエが思わず口にした言葉に、ベネディクトは苦笑する。

ティターリエは知らないのだ。ベネディクトが彼女を見初め、婚約を申し込んだことを。

婚約を打診するより前に、侯爵は彼女を領地に追いやっていたから。

酷い扱いをする領邸から、アンナがすでに彼女を連れ出していたから。


だから、どうして第三王子であるベネディクトが、わざわざランドンにまでティターリエに会いに来ているのか。ティターリエは知らない、分からない。


「・・・そうだね。不思議に思っても仕方ないよね」


ベネディクトがここに来たことも。

ティターリエがいなくなって暫くの間、探す素振りもなかったのに、急に大捜索網が敷かれたことも。

侯爵夫妻の無関心ぶりを知っていたからこそ、きっとティターリエもアンナも、いなくなっても探されることはないと思っていただろうから。


現に、この街ランドンに来て少しした頃、ティターリエは髪を切って売っている。
珍しい色であるにもかかわらず、そこから彼女の所在がバレることはなかった。

今回、持ち出した宝石を売ろうとしたのだって、本当ならバレなかったかもしれない。
バレずにお金を手に入れて、アンナの為の薬を無事に買えたかもしれない。


もし――そう、もし、ベネディクトが侯爵の嘘を暴いたりしないで、ティターリエのことも探したりしなかったら、きっと。

でも。


「・・・心配、だったんだ」


ぽつりと呟いた声に、ティターリエが「え?」と聞き返す。


首を傾げるティターリエの、綺麗な白金の髪がさらりと揺れる。


そう、心配だった。

恐ろしかった。

あなたがどこかで怖い目に遭っているのではないかと、不安でたまらなかった。


ただ――ただ、あなたを守りたかった。

本当に、それだけだった。


だって、知らなかったんだ。

アンナが、ティターリエ、あなたを守る為に屋敷から連れ出していたなんて。

まさか、あなたもそれに同意していたなんて。

知らなかったから。



「・・・ごめんね」


ぜんぶ暴いてごめん。

アンナを捕まえてしまってごめん。


身体を壊すほどに、あなたを食べさせるために働いていた人を。

あなたを蔑ろにするような酷い屋敷から僕より早く連れ出してくれた人を。

捕まえるようなことになってしまってごめん。

あの古びた家での、ささやかな暮らしを壊してごめん。



「・・・あなたを好きになってしまって、ごめんね」


ベネディクトは小さく、でもはっきりとそう言った。






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