【完結】君は強いひとだから

冬馬亮

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残念だよ

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『お前ら・・・っ、ふざけるなっ!』


 アッシュは、睦み合う二人の上に飛びかかった。

 お楽しみの真っ最中に不意をつかれた二人は、突然に上からのしかかって来た巨体の重みに、『ぐえ』と呻き声を上げた。


『よくもこの僕を・・・』


 アッシュは二人を罵りながら、拳を振り上げる。だが。


『そこまでだ、アッシュ』


 拳をバイツァーの背中に振り下ろそうとしたところで、廊下側から制止の声が入った。

 アッシュは拳を構えた体勢のまま、そう、下にあられもない格好の二人を押し潰すようにして馬乗りになったまま、振り返って視線の先にいる人を認めた。驚きで目を大きく見開く。


 だって、先ほど届いた手紙では、三日後に到着すると書かれていた人物がそこにいるのだ。


『ちち、うえ・・・?』


 なんで、どうして、と混乱するアッシュをよそに、ロンド伯爵は連れて来た私兵たちと共に室内へと足を踏み入れた。

 そして見るからにとんでもない状況に、溜め息を吐いた。


『ヨルンの予想した通り・・・いや、それ以上の惨状だな』

『え・・・?』

『全員拘束しろ』

『は? え? 拘束って、僕もですか? そんな、どうして』

『どうしてって、本気で分からないのか? それとも、また言うつもりか? 自分は悪くない、被害者なんだと。私が課した仕事を一年以上も放棄しておいて』

『そ、れは、使用人たちが役立たずなのです。僕が部屋から出て来ないなら、使用人たちが代わりに動くべきでしょう? 僕の代わりにこいつらを外に出して、しっかり見張るべきでした』

『使用人たちには、割り当てた仕事以外は一切しないよう命令してある。絶対にお前をフォローするなとな。お前より雇い主である私の意向を汲んで当たり前だろう』


 伯爵の命令を受けた私兵たちは、まずは一番上に乗っかっているアッシュを、次にリンダの上に覆いかぶさっていたバイツァーを、そして最後に痴態を隠す余裕すら失ったリンダを拘束していく。


『さて』


 拘束された三人を前に、ロンド伯爵が口を開いた。


『お前たちが仕事を放棄してから暫く様子を見ていたが、これ以上はもう待つ意味がないと判断してここに来た。今回の処遇で己のしでかしを理解し反省する事を私は願っていたのだが・・・残念だよ』


 伯爵はまず、リンダとバイツァーの二人に視線を向けた。


『リンダ、バイツァー。いい顔色をしているな。ここの仕事は、お前たちには楽しくて仕方なかったようだな。食事だけきちんともらって、後は淫らな行為に耽る毎日は、お前たちにとって天国だったろう』


 青ざめる二人に伯爵は続けた。


『肌艶も良いし、随分と元気そうだ。うむ、これなら次の仕事場で長く役目を果たせるだろう・・・連れて行け』

『はっ』

『うわっ』

『え、いや、なに』


 ほぼ裸も同然の格好のまま、バイツァーとリンダの二人は兵に急かされ、よろよろと立ち上がった。


『今度は医学の発展に役立つ仕事だぞ。部屋から一歩も出ず、一日中ベッドに横になって薬を摂取していればいいだけの楽な仕事だ。
 遊ぶばかりだったこの一年で、お前たちが支払う賠償額は倍増したから、次の仕事でしっかり返済するんだ。報酬が高いから、三年ほど身を差し出せば負債全額を返済できる』


 伯爵の話を聞いた二人は、仕事内容をすぐには理解できなかったのか、それとも頭が拒否しているのか、戸惑った表情を浮かべていた。
 だが、説明は終わりとばかりに伯爵は手をサッと振った。すると兵たちが、二人を部屋の外へと連れて行った。生々しい情交の跡も、晒したままの半裸の体も覆う事なく。




 次に伯爵は、アッシュに視線を向けた。


『・・・甘いとまたヨルンに言われるだろうが、お前の流されやすい性格を正せなかった親の私にも責任があると思っている。
 だからこそ、お前にはこの試験で自分の欠点に気づき直して欲しかった。だが、結局お前は二年も保たずに仕事を放棄した。後継者の座がかかっていると知っていたのに、だ』

『ち、父上、違うのです。僕はそんなつもりじゃなくて』


 私兵に抑えられたまま、父に向かって懇願するアッシュの声を、伯爵は遮った。


『アッシュ、お前を後継者候補に戻す資格なしと見なす。次の当主はヨルンだ』

『ですが、アレは学園に入ってから三年間ずっと首席を取る事が条件だった筈です。卒業は今年、まだ結果は出ていない。あいつだけ条件を緩くするなんて、ズルいではありませんか』

『ヨルンは飛び級で卒業した。もちろん、入学から卒業までずっと首席だ』


 言葉を失うアッシュに、伯爵は続けた。


『お前の醜聞から三年と半、社交界での噂もすっかり風化した。ヨルンをロンド伯爵家の後継者にすると正式に発表する』











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