32 / 58
結婚前の一波乱 ⑦
しおりを挟む「グスタフと連絡が取れないって、どういう事ですか?」
「そのままの意味だ。7日前に連絡が途絶えた。騎士団も欠勤しているそうだ」
「家は」
「見に行かせたが、もぬけの殻だった」
深夜の人払いをした執務室。
二人きりでヒソヒソと話をしているのは、この屋敷の当主であるキャンデール子爵とその息子ヒクソンだ。
グスタフにラエラを襲うよう指示した当人であるこの二人は、成功の知らせを今か今かと待っていたが、指示してからひと月後、未だ何の知らせもない事に焦っていた。それでグスタフの動向を調べてみたら、行方不明になっていたのだ。
「失敗したのでは? 我々の事を話されたら厄介ではありませんか?」
「平民の証言だけでは貴族を裁けない。それよりヒクソン、他の手を考えるぞ」
父子爵の言葉に、ヒクソンは悩む素振りを見せた。ヒクソンの妹が次期ロンド伯爵、つまりヨルンに懸想し結婚を熱望しているが、ヒクソンは父親ほど妹を溺愛していない。そろそろ引く頃合いではないかと思ったのだ。
「キャロリンには諦めるよう言い含めた方がいいのではないですか? 仕事面の融通だったら、同業のゴードン男爵家と縁を繋いで共同事業にしてもいい訳ですし」
「それではキャロが可哀想だろう。食事が喉を通らないほど悲しんでいるんだぞ」
「その分、菓子を食べてますよ」
「薄情な事を言うな。いつもなら菓子も食事も平らげてるじゃないか」
愛娘のふっくらコロコロ加減をこよなく愛しているキャンデール子爵は、嫡男の提案を一蹴した。
キャンデール子爵家がヨルンに狙いを定めているのは、彼が娘の想い人である事と、現ロンド伯爵の役職という二つの理由があった。
財務管理部に勤める伯爵と縁つながりになる事で、税務上の優遇を受けるつもりなのだ。要は脱税、つまり不正である。
ロンド伯爵がそれをすんなり引き受けるような人物ではない事も、爵位をヨルンに引き継いだ後は職を辞して森の家に自主的に幽閉されるつもりでいる事も知らないキャンデール子爵の馬鹿で独りよがりな計画だった。
もし、この時点で引き返していたら。
当人たちの罰だけで、子爵家そのものは無事だったかもしれない。
けれど、キャンデール子爵は止まらなかった。ヒクソンも最後には父の計画に同意した。
なにしろヨルンとラエラの結婚式はふた月後に迫っていたのだ。立ち止まってゆっくり思考する時間など、子爵たちにはなかった。
この時から半月後、王城での夜会で事件は起こった。
「いいか、キャロ。ヨルン殿の飲み物に媚薬を盛った。使用人が案内した部屋の扉に印を付けさせたから、今から行って既成事実を作って来なさい。そうしたら愛する人はお前のものだ」
「分かりましたわ!」
「頑張っておいで」
キャロリンは、喜びと期待に胸を膨らませ、小さな印が付けられている扉をそっと開けた。
灯りが落とされた室内の奥、膨らんだベッドの中から苦しそうな声が聞こえる。
媚薬で辛い思いをしているのだろう、早くこの体で慰めてあげなくては、そう思ったキャロリンは、足早に奥のベッドに向かうとドレスを脱いだ。今夜のこの計画の為に、前ボタンを外せば簡単に脱げるドレスを着てここに来ている。準備は完璧で、全てが計画通りだった。
「最初から素直に私の求婚に頷いてくれたらよかったのに、余計な遠回りをしてしまったわ。けど、これで元通りね」
ドレスも下着も全て脱ぎ捨て、生まれたままの姿になったキャロリンは、嬉しそうに笑いながらデューベイをめくった。
~~~
一波乱とか言って、ぜんぜん一つじゃない・・・(-。-;
454
あなたにおすすめの小説
私が家出をしたことを知って、旦那様は分かりやすく後悔し始めたようです
睡蓮
恋愛
リヒト侯爵様、婚約者である私がいなくなった後で、どうぞお好きなようになさってください。あなたがどれだけ焦ろうとも、もう私には関係のない話ですので。
【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。
西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。
私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。
それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」
と宣言されるなんて・・・
エレナは分かっていた
喜楽直人
恋愛
王太子の婚約者候補に選ばれた伯爵令嬢エレナ・ワトーは、届いた夜会の招待状を見てついに幼い恋に終わりを告げる日がきたのだと理解した。
本当は分かっていた。選ばれるのは自分ではないことくらい。エレナだって知っていた。それでも努力することをやめられなかったのだ。
【完結】今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから
ありがとうございました。さようなら
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。
ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。
彼女は別れろ。と、一方的に迫り。
最後には暴言を吐いた。
「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」
洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。
「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」
彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。
ちゃんと、別れ話をしようと。
ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。
あなただけが私を信じてくれたから
樹里
恋愛
王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。
一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。
しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。
処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。
私が家出しても、どうせあなたはなにも感じないのでしょうね
睡蓮
恋愛
ジーク伯爵はある日、婚約者であるミラに対して婚約破棄を告げる。しかしそれと同時に、あえて追放はせずに自分の元に残すという言葉をかけた。それは優しさからくるものではなく、伯爵にとって都合のいい存在となるための言葉であった。しかしミラはそれに返事をする前に、自らその姿を消してしまう…。そうなることを予想していなかった伯爵は大いに焦り、事態は思わぬ方向に動いていくこととなるのだった…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる