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王命にするからね
しおりを挟む「よろしくね、私の番どの」
国王アドルフォスの話が終わった後、ユスターシュがヘレナの前に進み出た。
「こ、こちらこそ、よろしくお願いいたします」
柔らかで落ち着いた声。
初めて聞く筈なのに、懐かしく感じるのは何故なのか。
・・・これが、もしやもしやの番効果?
優しげな微笑みを向けられ、これまでずっと緊張していたヘレナはホッと息を吐くと同時に、今度は別な意味でドギマギした。
王族だから当然と言えば当然なのだが、ユスターシュの顔立ちは非常に整っていて麗しい。
すらりとした体躯に中性的な印象を与える優しげな面ざし。
光の加減によっては銀色にも見える艶やかな灰色の髪は肩のところで切り揃えられており、彼の持つ高貴な容貌をより際立たせている。
髪と同じ灰色の瞳はいかにも温和そうで、ヘレナを見て柔らかく細められた。
芸術級の美しさに、ヘレナは思わず息を呑む。
・・・うわぁ、すべすべ。
陶器のような白い肌に、ヘレナは心の中で感嘆の声を上げる。令嬢の自分よりもずっときめ細かでつるつるの美肌だ。
指で触ろうものなら、『とぅるんっ』という効果音付きで勢いよく滑っていきそうなくらい。
と言うか、ここまで顔が綺麗だと、自分よりユスターシュの方がドレスが似合うのでは、などと言う考えまでむくむくと湧き上がる。
結婚式で、参列者たちから平凡な花嫁は嫌だとブーイングされたら、どうしたら良いのか。
「我々っ! 国民はぁ! もっと美しい花嫁を望むぅ!」とかなんとか、シュプレヒコールでもされたら流石にショックだ。
かと言って、彼にウエディングドレスを着てもらう訳にもいくまい。いや、確かに似合いそうだが。
ヘレナが果てしなき妄想に突っ走りかけていた時、くっとユスターシュの笑みが深まった。それと同時に、彼の背後から楽しげな声が上がる。
「いやあ、やはり番との出会いは特別な様ですな。これ程までに嬉しそうなユスターシュさまを見るのは初めてです」
国王が話す間、右横で控えていた宰相のロードリンゲンだ。
「明日の朝には王国内に告知を出しましょう。布れの使者を各地に派遣せねば」
先王の実妹、つまりユスターシュの姉の一人を妻に迎えているロードリンゲンにとって、これは年の離れた義弟の婚姻でもある。
めでたいめでたいと呟きながら、ロードリンゲンはいそいそと扉へと向かう。そこだけ見れば、普通の気のいいおじさんだ。
そんな彼に、ユスターシュは振り向いてこう告げる。
「ロードリンゲン宰相。ラムダロス伯爵家には一番に使者を向かわせて説明するよう手配してくれないか」
その言葉にヘレナは驚く。
ラムダロス伯爵家とは、つまりロクタンの家だ。レウエル家に無理矢理に縁談を捻じ込み、ほぼ押し切られかけていた相手先。
ヘレナはどうも昔からロクタンが苦手だった。そして、そんなヘレナの気持ちを知っているオーウェンは、なんとかこの話を断ろうとずっと頑張ってくれていた。
だが相手の方が爵位が高く、持参金を山と積まれた挙句、最後には訳の分からない脅し文句を添えて再度再度の申し込みを受け続け、さすがに諦めざるを得ないと判断した話。
ユスターシュは安心させるように頷きながら微笑んだ。
「心配はいらない。私たちの婚姻は王命となるからね。先に話のあった縁談が流れることになっても、レウエル子爵家の立場は理解される筈だ」
「・・・」
この人はどこまで知っているのだろうか。
ロクタンとの縁談はまだ公にはされていない。なにしろ回避できるものならしたかったのだ。ギリギリまで返答を引き延ばし、逃げ道を探して。
でも、ユスターシュは既に把握していた。
これが裁定者の、神の目を持つ存在とも言われる人の力なのだろうか。
すごい、すごいわ。
ユスターシュさま。
このヘレナ・レウエル、一生恩に着ます。
だがしかし。
この場で突然にユスターシュを拝み始めたら、きっと皆は驚くだろう。
だからヘレナは、平伏して拝み倒すのは心の中だけに留め、感謝のこもった視線で見上げた。
すると彼は、少し困ったような、照れたような表情で、ヘレナに微笑みを返す。
その笑みは、やはりどこか懐かしくて。
ヘレナは初めて会ったというのに、不思議な安堵を覚えたのだ。
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