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(ちょっと方向がズレている)プロポーズ大作戦
しおりを挟む「それで、だな」
ユスターシュは顔を赤くして、もじもじしながら本題を切り出す。
「小説でも何でも良いから、そういう話が載ってるやつを選んでくれないか」
「そういう話が載ってるやつ、ですか。ちなみに、そういう話とはどういう話でしょう?」
「・・・」
年齢とは少しばかりそぐわない、可愛らしい恥じらいを見せていたユスターシュは、ここでムッとハインリヒを睨んだ。
わざとらしくしらばっくれても、ユスターシュには分かる。ハインリヒの頭の中にはちゃんと答えが出ている事を。
ユスターシュに気付かれている事に気付いているのに、こんな風に揶揄ったりするのは、ハインリヒにとってユスターシュが主人以上の存在だから。
勝手ながら、僭越ながら、ハインリヒにとってユスターシュは大切で可愛い弟にも似た存在。
自分と一族の命を救ってくれた恩人でもある。
けれど、自分を助けてくれたその能力が、ユスターシュの個人としての幸せを奪っている。それがハインリヒには悲しかった。
だから、すごく嬉しかったのだ。
ある日突然、ユスターシュがキラキラした目で図書館にまでやって来て、「ここで雇ってあげたい」と女の子の名前を口にした時は。
ある意味、『裁定者』としてのユスターシュの息抜きの場となる為、この王立図書館のスタッフたちは存在していた。
変装してジュストとなれば、ユスターシュに媚びる貴族も良からぬ企みをする者たちも現れない。
事情を知る少数の者たちだけがここの職員を務めているし、館長室は奥に隠し小部屋があって、疲れたユスターシュがそこで休むこともあった。
だから、ヘレナの件も喜んで協力したのだ。
そうして新職員としてやって来たヘレナは、とても素直で明るく逞しく面白く。
家が貧乏なのを心から楽しむ元気な令嬢だった。
ユスターシュがヘレナに恋をした理由は、まだ彼からは聞けていない。
けれど、ヘレナが良い子なのは間違いなかった。
まぁ、心が読めるのだから、そこの所で間違う事などあり得ないのだけれど。
それはさておき、2年以上、ヘレナの前でジュストとしての顔しか見せない事にはやきもきした。
彼女にしつこく求婚して来るどこぞの伯爵令息の存在もあったし、このまま見守るだけの恋にする気なのかと思いきや。
まさかいきなりの『つがい』発言である。
・・・いや、これ国民は騙せても、王家は無理なんじゃないかなぁ。
そんな事を思った日もあった。幸いそれは杞憂に終わった、と言うか終わらせてくれた。
陛下を始め、宰相たちも進んで騙されてくれたのだ。
ユスターシュが初めて陛下にヘレナの話をした時のあの騒ぎよう、あれは今も忘れられない。
陛下も、宰相も、一瞬だけ呆気に取られた顔をして。
でも直ぐに、そのパカンと開けた口を閉じて互いの顔を見合わせた。
そうして頷き合うと、いきなりの拍手と万歳三唱が始まったのだ。
「国中に触れを出せ!」
「番さまにご挨拶を」
「盛大な式を挙げるぞ」
「歴史に残るイベントになりますな」
「もう婚約式はすっ飛ばして、さっさと結婚してしまえ」
「会場を予約してしまいましょうかね」
敢えて騙されてくれた二人に、ユスターシュは感謝と共に頭を下げる。
後はもう、怒涛の展開というやつだった。
そうしてユスターシュのつがい発言から1時間と45分後には、ヘレナとレウエル子爵が謁見室に連れて来られたのだ。
・・・そんな爆弾をいきなり落としておいて、なんでプロポーズで悩むかな?
しかも、方向性が絶妙にズレてるし。
そんな風に思うのは、ハインリヒだけなのだろうか。
「・・・ズレていようが何だろうが、ここは頑張らないといけないのだ。ヘレナの一生の記憶に残るようなプ、プロポーズをするのだから」
「・・・そうですね」
まぁ、いいか。
ユスターシュが幸せそうだから。
また聞きだけど、ヘレナも随分と楽しんでそうだから。
ハインリヒは立ち上がる。
「・・・それではユスターシュさま。今から張り切って流行りの恋愛小説を全て、一気に、読破しましょうね」
そう言って、本棚と館長室との間を往復すること合計8回。
ユスターシュの前には、うず高く積み上げられた恋愛小説の山が出来た。
「うっ・・・なかなかの量だな」
そう言いながらも、真剣な目で1冊目を手に取ったユスターシュ。
集中して読めるように、ハインリヒはそっと席を立った。
さて、これがプロポーズの参考になったかどうか。
それは後でヘレナに聞いてみよう。
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