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これは大ポカ案件?
しおりを挟む「ああああああ・・・」
口から魂が抜け出るのではないかと心配になりそうな大仰な溜息が聞こえた。
場所は王立図書館の館長室。
ソファに腰かけ、あまり高くもないテーブルに頭を突っ伏し、そんな大きな溜息を吐いているのは、ジュスト改め、茶髪のカツラをかぶったユスターシュである。
「どうしました、ユスターシュさま? 何か心配ごとでも?」
お茶の入ったカップを差し出しながら、そう尋ねたのはハインリヒだ。
図書館長であり、裁定者であるユスターシュの素顔と変装した顔の両方を知る数少ない人物の一人。
そして、ユスターシュの腹心の部下でもある。
ユスターシュの手配により王立図書館に勤めることになったヘレナを、影に日向に見守ってきた頼りになるおじさんだ。
「ヘレナに・・・」
頭をテーブルに突っ伏した状態のまま、うわ言の様にユスターシュは話し始める。
「はい、ヘレナがどうかしましたか」
「いや、ヘレナじゃなくて私が・・・」
ハインリヒは首を傾げる。
「ユスターシュさまが、ヘレナに・・・何かなさったという事でしょうか」
その問いに、ユスターシュがこくりと頷く。
ユスターシュが、ヘレナに、何かした。
敢えてゆっくり区切ってみたとして、どうにも不穏な響きしかしない。
いやいや、裁定者のユスターシュさまに限ってそんな事は。
恐る恐る、けれど意を決して、ハインリヒは質問を重ねる。
「・・・ヘレナに、何をなさったと言うのです?」
「う・・・それが」
ごにょごにょと言い淀むユスターシュの姿に、ハインリヒはハッと息を呑んだ。
「ユスターシュさま、まさか・・・」
「うわぁ、ちょっと止めて。そのピンクな想像はダメ! 今すぐ! 即刻! 止めなさい!」
「・・・はい」
一瞬でハインリヒの脳内にぶわっと湧いたピンクな映像。
それが、ユスターシュの初心な心を容赦なく悩ませ・・・かけた所で、パッと消えた。
「ああもう、どぎつい想像を・・・うう、心臓に悪い・・・」
はああ、と息を吐くユスターシュの顔はほんのりと赤い。
どうやら一瞬で消え去った筈の映像でも、ユスターシュへのダメージは十分だった様だ。
ユスターシュに考えを読まれる事を気にしない人物No.2のハインリヒは、ふむ、と考えた。
ただの想像でこれだけのダメージを受けるのであれば、ヘレナに不埒な事をしたという線はなさそうだ。
ハインリヒは、その点に取り敢えず安心した。
ユスターシュは大事な主人。けれどハインリヒは、ヘレナの事も妹の様に思っているのだ。
という訳でピンク路線が消えた所で、ハインリヒは気楽に問いかけた。
「では、一体何の話をなさっているのですか?」
「うう、実は・・・」
「・・・を、ま・・・、て・・・んだ・・・」
ボソボソ、と呟く声。
まだ耳が遠くなる年齢ではないが、小さすぎてハインリヒにはよく聞こえない。
「すみません、よく聞こえませんでした。何と仰いましたか?」
「だから・・・だ、ぷ・・・ないって・・・だよ・・・」
「いや、まだ全然聞こえませんから」
「・・・」
ちょっと黙り込んだユスターシュ。
けれど、直ぐにがばりと身体を起こした。
そして、眉を下げた情けない顔でこう叫んだのだ。
「プロポーズの言葉を、まだちゃんと言ってなかったんだ!」
「・・・」
ハインリヒは、首を傾げた。
あれ、そう言えば、とは思ったものの。
番だなんて大嘘を吐いておきながら、今さらそこ?と。
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