【完結】あなたが私を『番』にでっち上げた理由

冬馬亮

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謎のトムタムダンス

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今日も弟くんたちが来ていたらしい。

どうやら今は、彼らの間で空前の虎じろうブームの様だ。


馬車の扉に手をかけた時、虎じろうと弟くんたち二人がサッカーをしている映像が頭の中に飛び込んで来た。


「・・・っ」


一瞬緩みかけた口元を、ユスターシュは気力で引き締める。


裁定者の能力に目覚めてから、外面とは裏腹のあんまりに鬼畜な言葉や映像を覗く場面が増えたせいで、無表情の無感動が基本となったユスターシュだったが、それもヘレナと出会って一変した。

と言うのもヘレナから飛び込んで来る言葉も映像も、それまでのユスターシュが経験したものとは全く違っていたからだ。


ヘレナの世界は、明るくて楽しい。


もちろん彼女も人間だから、落ち込む事も怒る事も、悲しくなる事だってあるのだけれど。

何だろう、上手く言えないが、怒るにしても誰かを貶すにしても、それまでユスターシュが見てきた世界とは全く違うのだ。


怒ってても、悪口を言っている時でも、ヘレナはとにかく前向きで明るい。

前向きな怒り方なんて変な言い方かもしれない、けれどそれが多分、一番真実を突いていると思う。


・・・だから気を取られちゃうし、だから救われるんだよね。


ユスターシュは息を吐いた。





「ヘイヘイヘーイ! パスこっち!」と軽快に走るユニフォームを着た虎じろうと、そんな彼(猫)に向かってボールを蹴るアストロ。ブロックしてボールを奪おうとするのがカイオスだ。

通ったアストロからのロングパスを、虎じろうは軽やかに胸でポンと受け止める。

それから、ノールックでオーバーヘッドシュートを炸裂させた。


キーパーのカイオスが(あれ? さっきディフェンスしてなかった? by ユスターシュ)左に飛んで手で弾こうとするが、ボールはゴールへと吸い込まれて行った。


「ナイスゴール!」と言いながら、ハイタッチをする虎じろうとアストロ。



・・・うん、落ち着こう。


ユスターシュは馬車の中で深呼吸した。


そして、昨日学んだ教訓を生かすべく、鞄よりも先に花束を手に持つ。


黄色のダリア。最初に贈る花束の振りをする予定のものである。


・・・決める時に決めないと。


ユスターシュは表情を引き締めた。


自分は、トムタムではなくバスチアンになるのだ。
(注: この名前を忘れた人は、前の49話をご覧ください。全然重要人物ではないので忘れたままでOKですが)


大切な事なので、ユスターシュはもう一度、頭の中で繰り返した。


トムタムではなくバスチアン。

肝心な時は、外さない。

トムタムではなくバスチアン。

見せ場を絶対に逃さない。

トムタムではなく・・・





「お帰りなさいませ、ユスターシュさま」


馬車から降りてきたユスターシュに、ヘレナが笑いかける。

ユスターシュは、さっと黄色のダリアの花束を差し出した。


「まぁ、綺麗。これは・・・」

「・・・トムタム」


ここでユスターシュはハッと口を噤む。


呪文の様に繰り返し唱えていたせいで、うっかり口に出してしまった。


「トムタム・・・?」


ヘレナが首を傾げる。


・・・くっ、やってしまった。


ユスターシュは唇を噛んだ。


音の響きが気に入ったのか、それともヘレナのツボに嵌まったのか。


ダリアの花束を見て嬉しそうに笑っていたヘレナの頭の中は直ぐに切り替わり、謎のトムタムダンスなるものが始まってしまう。


黄色のダリアの花束を抱えて、くるくるとトムタムダンスを踊るヘレナとユスターシュ。

手を繋いで、それはそれで楽しそうなんだけれど。



・・・ヘレナ。

トムタムはね、人の名前なんだよ。




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