【完結】あなたが私を『番』にでっち上げた理由

冬馬亮

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解呪クッキー?

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「ユスターシュさま。これ、良かったらどうぞ」


そう言ってヘレナがユスターシュに差し出したのは、手の平サイズの小さな紙包だった。


「私が作ったクッキーです。休憩の時にでも召し上がって下さいね」









「~♪ ~♪ ~♪」


さて、例によって、場所は王立図書館の館長室。

ハインリヒはそこで、鼻歌を口ずさむユスターシュというレアな光景を目撃する。


「どうしたんです、ユスターシュさま? 今日は昨日と打って変わって、随分とご機嫌ですね」


「ああ、ハインリヒ。これを見てくれ、ヘレナからのプレゼントなんだ」


そう言うと、ユスターシュはそっと今朝の出発前にヘレナから手渡された紙包をポケットから取り出した。


「ほう、クッキーですか?」

「ヘレナの手作りなんだ」


ユスターシュは得意げに紙包を広げて中身を見せる。


「なかなかカラフルですね」

「だろう? このオレンジ色が人参クッキー、薄緑色がほうれん草クッキー、これはチョコで、こっちは紅茶、そしてこれがおから入りだそうだ」

「へぇ、すごいですね。こんなに色々作ってくれたんですか」

「栄養たっぷりだ。しかも美味しい」

「良かったですね」


無邪気に喜ぶユスターシュに、ハインリヒは大袈裟に喜んでみせた。


「私にも一つ、味見させて頂けますか?」

「駄目。これは全部私のだ」

「・・・意外とケチでいらっしゃる」

「ヘレナの手作りなんだ、仕方ないだろう」


おやおや、とハインリヒは肩を竦める。別に、断られても気にしてなさそうだ。


「まあ、とにかく良かったです。昨日はトムタムの呪いとやらで廃人になりかけて、仕事にならなかったですからね」

「・・・それは言わないでくれ」


一昨日の、花束を渡した際の自分の失言を思い出す。
仕切り直しのつもりで用意したダリアの花束は、ユスターシュがうっかり漏らしたトムタム呪文のせいで、あっという間にヘレナの頭の中でコメディ路線へと変更してしまった。


「・・・まぁ、いいんだ。失敗をいつまでも引きずっても仕方ないし、クッキーは美味しいし、トムタムダンスを踊るヘレナはとても可愛かったし」

「ちなみに、そのトムタムダンスとやらがどんな踊りだったかお聞きしても?」

「それは、こんな風に手を・・・って、実演させるなよ」


ユスターシュはうっかり両手を上に上げてポーズを取りかけ、だがしかし途中で我に帰って腕を下ろす。


「おや残念。あと少しで見れるところだったのに」

「見せないよ」

「意外とケチでいらっしゃる」

「今回はケチとは違う・・・ああ、分かったよ、仕方ないな。一つだけだからね?」


渋々と、ユスターシュはヘレナのクッキーが入った紙包を差し出した。


「ありがとうございます。では、おから入りを一つ頂きますね」


ハインリヒはそっとクッキーへと手を伸ばし、そこから一つつまんだ。


「味わって食べるんだぞ」

「分かってますとも。ユスターシュさまのトムタムの呪いを解いてくれた有り難いクッキーですからね、大事に味わって食べますとも。これのお陰で、今日は仕事が捗りそうで嬉しいですよ」


そう言って、ハインリヒはさく、と軽い音を立てて、クッキーを齧った。



さて、いつの間にか、何やら色々な言葉の形容詞に使われているトムタムさん。

世に出た恋愛小説の一冊に登場するだけの、しかも途中で死んでしまう、しがない脇役でしかなかったのだが。


よもやよもや。


知らない所でこんな使い方をされているとは、その小説を書いた作者も夢にも思うまい。





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