【完結】あなたが私を『番』にでっち上げた理由

冬馬亮

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くびれ、のち、もふもふ

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「ふふん、ふん、ふ~ん♪」


ヘレナは、ご機嫌で鏡の前でくるりとターンする。


何がそんなにご機嫌なのかって?


それは勿論ここ最近の浅漬けならぬ塩もみ効果・・・げふんげふん、エステ効果により生まれたキュッとくびれたウエストのお陰である。


「キュウリを塩もみするとあんなにカサが減るのも納得ね。お腹のお肉がこんなに減ってしまうなんて」


ちなみにヘレナの名誉のために言っておくと、彼女は別にぽっちゃりさんという訳ではない。どちらかと言えば貧相な身体である。

まぁ貧乏暮らしが成せる業と言おうか、野菜が主食の健康粗食生活の賜物と言おうか、とにかく肉づきが悪いのだ。

申し訳程度に膨らんだ胸(ぺったんこより良しとしよう)、くびれてはいないが弛んでもいないお腹、そしてやはり大して肉づきの良くない薄いお尻。

はい、その通り。今の想像でたぶん正解。

上から下までストンとほぼほぼ一直線の体型、そう、要はヘレナは寸胴ずんどうなのだ。


遺伝子には逆らえない、そう思って諦めていたウエストのくびれ。それが今、鏡の中の自分にある。彼女は遂に憧れのくびれを手に入れたのだ。


「すごいわ。これはもはや別人レベルね」


そう呟いて、いざ結婚式を迎えた時、ウエストにくびれがあるヘレナを見て偽物だと騒がれたりはしないだろうか、とヘレナは急に心配になった。


もしそうなったら悲惨である。

結婚式の日、花嫁衣装で身を飾り、花婿との愛を誓おうと会場に足を踏み入れた花嫁を襲う悲劇になるだろう。

別人の様に見違えたヘレナは、なんと本当に別人として糾弾されてしまう。


「うちの娘にくびれはない。こんなにウエストが締まっている花嫁は偽者だ」

「そうだそうだ! 騙されないぞ! 姉ちゃんはもっとスット~ンなんだからな!」

「その通りよ! へーちゃんはそんなナイスバディではないわ」


そう、こんな風に、誰もエステで生まれ変わったヘレナを、本人だと認めてくれないのだ。


自分の妄想にヘレナはショックを受ける。


このままではニセモノ認定されて、ユスターシュと結婚できなくなってしまう・・・!

焦るヘレナに(注記: 今も元気に妄想中)、だがユスターシュはゆっくりと周囲を見回す。そして迷う事なく隅っこに追いやられたヘレナに手を差し伸べるのだ。


「たとえくびれがあっても、あなたがヘレナで間違いない」


心が読めるユスターシュは、周りの雑音にも、そして別人の様に変化した体型にも惑わされる事なく、すぐにヘレナを見つけ出す。


そうしてユスターシュが宣言する事で、ヘレナは無事にヘレナである事が証明され、やはり二人は疑う事なき番同士だと歓声を浴びる。


これぞまさしくハッピーエンド。チャンチャン♪




・・・あれ?

なんだかすっかり話が逸れてる様な・・・


と、我に帰った時である。




どこからともなく聞こえてきたのは、カリカリと引っ掻く様な音。


鏡を見て盛大に妄想していたヘレナの周囲に、当然人はいない。人払いをしていたからだ。

では何の音?とヘレナがきょろきょろと辺りを見回せば、窓の外から聞こえてくる事に気づいた。


そっと窓に近寄り、開けてみれば。


「わあ!」


ヘレナの声が喜色に染まる。


窓の外、ガラスを引っ掻いていたのは、既視感のある二匹の黄金色の子猫。


そう、前に虎じろうが屋敷に連れてきて、けれどユスターシュに見つかって王城に戻された、あの子猫ちゃんたちであった。


「そう言えば、お城に帰しに行くってユスさまが言ってたわね。きゃ~、猫ちゃんたち、おいでおいで~」


虎じろうと離れて一週間近く。

もふもふに飢えていたヘレナが勢いよく窓を開け、二匹を中に入れた事は当然の流れと言えよう。




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