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まさかの
しおりを挟むさて。
もふもふ恋しさで挙動不審となったヘレナの為、獅子獣人の二人のうち、一人が獣化してくれる事になった。
獣化した場合、人間の言葉は話せなくなる。
ヘレナとの歓談が目的だった二人は、当然どちらが獣化するかで揉めた。
物理的な語り合いが好きなのか、今にも室内でとんでもない事が起きそうになったので、ヘレナが平和的解決策としてジャンケンを提案した結果。
「くううぅぅっ! チョキを出していれば、お兄さまに勝てたのに・・・っ」
12回に渡り続いた「あいこ」の末、王太子である兄レオニールが勝利を収めた。
暫し敗北に体を震わせるレオーネだったが、やがて観念して、しゅるしゅると獣化する。
金色の髪に金色の瞳の美貌の姫は、あっという間に可愛らしい金色の子猫へと変化し、ぴょんとヘレナの膝の上に飛び乗った。
猫ではなく獅子と分かった今でも、子猫としか思えないその可愛らしさに、ヘレナは既にメロメロだ。
そうして、どこか腑抜けた空気の中、改めて侍女を呼んで茶が用意され、即席の茶会の席が設けられ、出てきたのがレオーネ姫の番という話題だった。
「まあ。では、レオーネさまの番となる方が、この国に?」
「そうなんだ。この城に到着した時に、レオーネが気配に気づいてな」
レオニールはカップに手を伸ばし、ふうふうと息を吹きかける。
獅子も猫舌なのだろうか、どうやらお茶が熱すぎる様だ。
「偶然にも、裁定者どのと番どのの婚姻に参列する為にこの国に来て、レオーネも番と出会えたかと喜んだのだが・・・」
ふうふうしてもまだ熱いままだったらしい。レオニールは結局、お茶の入ったカップをそのままテーブルに置いた。
レオニールの微妙な言い方に首を傾げつつも、ヘレナは膝の上の金色の子猫(正確には子獅子)を撫で、「おめでとうございます」と祝福の言葉をかける。
だが、ミャウと返すレオーネの声は、どこか悲しげなのだ。
「レオーネさま?」
不思議そうに声をかけるヘレナに向かって、気不味そうにレオニールが口を開く。
「あ~、こいつの番がこの国にいると分かった事自体は、喜ばしいのだがな・・・」
と言いますと?
「まだ、見つかってはいないんだよ、ヘレナ」
見かねたユスターシュが、話の先を続ける。
「レオーネ姫は城内で気配を感じたから、すぐに見つかると私たちも思ってたんだけどね。どうやら、城に常駐している者ではなかったらしい。そうなると、もちろん王族という線もない。レオーネ姫が言うには、城下でも番の気配を感じる事があるらしいんだけど・・・結局まだ、ね。どうやら余程ふらふらしてる人らしい」
ヘレナの手の中で、レオーネ姫の猫耳がぺしゃりと下がる。
獣人にとって、番とは何よりも優先されるべき存在だ。
そして同時に、いつも必ず出会えるとも限らない奇跡の存在でもある。
故に、ランバルディアに入国してから、偶然にも滞在先の城で番の気配を察知したレオーネは歓喜したのだ。
けれど、予想に反して番はなかなか見つけられない。
この国にいるという事は、レオーネの番は人間である可能性が高い。となると、あちらがレオーネの気配を感じる筈はなく、レオーネから探すしかない。
だが公の姿で探すにも限界があり、二人は獣化、しかも小型化して猫のふりをしながら、番探しの為にしょっ中姿をくらませていたのだ。
当初は理由も知らせず、こっそりと動き回っていたため、初めの頃はいなくなるたびに城中が大騒ぎだったらしい。
けれど、ひとたびユスターシュが来て調べてみれば、あっさりそのお騒がせ行動の動機もバレることになり、今ではランバルディアの王族の応援の下、レオニールたちは計画的に脱走している。
そんな番探しももう二週間ほど経っているが、まだ朗報は聞けていない。
それでも、どちらにせよユスターシュとヘレナの結婚式には、国内の貴族が一堂に会する事になる。平民たちも広場で祭りに興じる筈だ。
まだ見つからないレオーネの番も、その時には判明するだろうというのが皆の意見だ。
と、いう訳で、今日の彼らの突然の失踪は、実はちょっと久しぶりの事態で皆が慌てたらしいのだが。
「何度も番どのとの面会を頼んでいるのに、裁定者どのがなかなか承知してくれなかったからな」
「・・・え、そうだったのですか?」
その話が初耳のヘレナは、驚いて目を瞬かせる。
「番に対して、特に執着心とか嫉妬心とか強くなるのは理解しているが、我々は一応国を代表してやって来ているのに。まあ、裁定者も番の前ではただの男という事なんだろうが」
レオニールの視線を受け、ユスターシュは真っ赤な顔を明後日の方角に逸らす。
「とにかく、頼んでも会わせてくれないなら強行突破するしかないと思ったんだよ。なあレオーネ?」
「・・・ヘレナに関しては、警備上のこととか、色々と考えなきゃいけないことがあったので」
ごにょごにょと言い訳を口にするユスターシュに向かって、ヘレナの膝の上にいたレオーネは抗議を込めてニャアと鳴く。
まあ、レオニールとレオーネは、実際ユスターシュがヘレナに関する何を心配しているのか正確には知らなかったから、文句を言うのも仕方がない。
むしろヘレナとしては強行突破で来てもらえて感謝したいくらいだ。
結果として一週間ぶりにもふもふを堪能できた訳だし、楽しいお話も聞けたのだから。
・・・レオーネさまの番である方が、早く見つかるといいけれど。
ヘレナがそんな事を思いながら、眠りについたその夜。
残念なことに。
そう、非常に残念なことに、ユスターシュの心配は現実のものとなってしまう。
朝、侍女が起こしに行った時。
ヘレナが眠っている筈の寝室は、もぬけの殻になっていたのだ。
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