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終焉の始まり その3
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ーーーお前は、大丈夫か?ーーー
リュークザインからかけられた言葉が、ベルフェルトの頭の中で何度も響く。
大丈夫か・・・か。
言ってくれるな。
仄暗く月の光が道を照らす中、ベルフェルトは歩を進める。
口元には、微かな笑みを浮かべながら。
こんな薄暗い夜で、助かった。
どれだけ上手く嘘を吐けたとしても、あの全身がセンサーのように鋭い男には、きっと見抜かれてしまうだろうからな。
・・・まぁ、結局オレの思うところなど最初からバレバレなのは違いない。
くだらぬ見栄にすぎないのは重々分かっているが。
だが、それでも。
せめて顔を見られなくて良かったと、そう思ってしまう。
冷たい風がベルフェルトの頬をなぞる。
その美しく特徴的な紫の髪は、今はフードですっぽりと覆い隠されているが、左こめかみの辺りからひと筋だけ、はらりと落ちて軽く風にたなびいて。
深夜という時間帯のせいか、人影はなく。
静寂の中、ベルフェルトの靴音だけが響いている。
王城への道のりは、徒歩だとかなりかかってしまうが、いきなり馬車を使えば、いつかどこかで足がつく。
いずれ別の場所で乗るにしても、とにかく遠くに離れてからのこと。
でも、今日はそんな時間さえ、ベルフェルトには有り難くて。
ベルフェルトの脳裏に、肩を血で染めたブルンゲンの姿が浮かぶ。
命に別状は無いものの、しばらくは動くこともできないだろう。
人を下に見るような、慇懃無礼で余裕たっぷりのいつもの態度はどこに行ったのやら、無様にうろたえて喚き散らして。
・・・あの男はもう社交の表舞台に立つことは出来まい。
こうして自ら、派手に事を起こしてしまったのだからな。
ベルフェルトは、思いきり、盛大に、ため息を吐いた。
誰も見てやしないのだ。構いやしない。
・・・自業自得だ。父も、あいつの兄シャルムも。
そんなことはわかっている。わかっているが。
リュークの、少し余裕のない声が、何度も何度も蘇って。
ベルフェルトに問いかけてくるのだ。
お前は、大丈夫か? と。
いま一度、盛大に、ため息を吐いて。
ライプニヒ邸からだいぶ離れたところで、そろそろ頃合いだろうと馬車を捕まえる。
心地よい馬車の振動に身を委ね、王城に到着するまでのひととき、ベルフェルトは目を瞑り体を休める。
眼裏には、弱った姿を見せることを決してしない、意地っ張りの友の姿が浮かぶ。
・・・まったく。オレよりひとつ年上だからって、少々背負いこみすぎじゃないかい?
お前こそ、だよ。
お前こそ。・・・大丈夫なのか? リューク。
◇◇◇
ベルフェルトは国王執務室へと向かっていた。
今日は、なかなかに忙しい日で。
朝からずっと動き通しで、疲れのせいか軽い目眩までする。
元々、王弟ミハイルシュッツに見出され、彼に仕える身ではあるものの、この件に関わるようになってからは、情報を迅速に伝える必要もあってか、直接王城に赴いて国王執務室にて報告をするよう王弟殿下から言われている。
オレもリュークも、もう何度ここに足を運んだかわからない。
つい数刻前までいた部屋に再び舞い戻り、新たな報告を加える。
「・・・そうか、それでシャルム・ライプニヒは自邸の厩舎に逃げ込んだか」
オレからの報告を受けて、王は重々しく頷いた。
突然すぎる意味不明の仲間割れ、更にそこからの傷害沙汰、挙句に馬小屋での籠城、と予想していなかった展開のオンパレードで。
流石に、陛下もダイスヒル宰相も、互いに黙って顔を見合わせるしかない様子。
いやぁ、わかりますよ。おふたりの気持ち。
あいつら一体、何がしたかったわけ? ってところでしょうかね。
ホント、意味不明ですもんね。いや、支離滅裂の方か?
愚か者には愚か者なりの考えがあるのでしょうが、そんなもの、わからなくていいんですよ。
寧ろ、それで大いに結構。
わかってしまったら、それは自分も同じ、愚か者だというわけですからね。
勝手に自滅してくれた有り難すぎる敵方に当惑気味なふたりの顔を見て、何故だろう、奇妙な安堵を覚えて。
その後、ライプニヒ邸の周囲に見張りを数人配置すること、オレは邸からあまり離れられなくなってしまったリュークの補佐にまわること、ブライトン邸の周辺にさらに警備の者をまわすことが伝えられ、オレは早々に執務室を辞した。
残るは・・・賢者くずれか。
こればかりは、何をどうしたらいいのか、見当もつかんな。
ベトエルルの各地に散らばっているハトたちも、今頃どうしているのやら。
早く帰ってきてもらわないと、こちらの身が保たないのだがな。
再び馬車に揺られながら、つい、この先のことを考えてしまう。
不安ばかりの未来に、何かまだ、手を打てることはあるのか、と。
こんな事件を息子に起こされてしまったら、ファーブライエン側もこれ以上の行動は起こせまい。
そしていずれは、エイモス家にもライプニヒ家にも、正式に沙汰が下されることになる、はず。
・・・はてさて。
そのとき、オレは、オレたちは、どこにいるのやら。
オレたちは、勝てるのだろうか? 自分たちの運命に。
既に事は起きてしまって。
事態はついに動き始めた。
後はもう、シャールベルム国王陛下のお心ひとつ。
だからもう、迷うな。・・・ぶれるな。
エイモス家が行き着くであろう未来を予感して、すべてを諦めていたオレを拾い上げてくれたミハイルシュッツ王弟殿下を。
そして、その殿下が敬愛するシャールベルム国王陛下を、信じると心に決めた。
そう決めたのは、他ならぬベルフェルト・エイモス、お前自身なのだから。
リュークザインからかけられた言葉が、ベルフェルトの頭の中で何度も響く。
大丈夫か・・・か。
言ってくれるな。
仄暗く月の光が道を照らす中、ベルフェルトは歩を進める。
口元には、微かな笑みを浮かべながら。
こんな薄暗い夜で、助かった。
どれだけ上手く嘘を吐けたとしても、あの全身がセンサーのように鋭い男には、きっと見抜かれてしまうだろうからな。
・・・まぁ、結局オレの思うところなど最初からバレバレなのは違いない。
くだらぬ見栄にすぎないのは重々分かっているが。
だが、それでも。
せめて顔を見られなくて良かったと、そう思ってしまう。
冷たい風がベルフェルトの頬をなぞる。
その美しく特徴的な紫の髪は、今はフードですっぽりと覆い隠されているが、左こめかみの辺りからひと筋だけ、はらりと落ちて軽く風にたなびいて。
深夜という時間帯のせいか、人影はなく。
静寂の中、ベルフェルトの靴音だけが響いている。
王城への道のりは、徒歩だとかなりかかってしまうが、いきなり馬車を使えば、いつかどこかで足がつく。
いずれ別の場所で乗るにしても、とにかく遠くに離れてからのこと。
でも、今日はそんな時間さえ、ベルフェルトには有り難くて。
ベルフェルトの脳裏に、肩を血で染めたブルンゲンの姿が浮かぶ。
命に別状は無いものの、しばらくは動くこともできないだろう。
人を下に見るような、慇懃無礼で余裕たっぷりのいつもの態度はどこに行ったのやら、無様にうろたえて喚き散らして。
・・・あの男はもう社交の表舞台に立つことは出来まい。
こうして自ら、派手に事を起こしてしまったのだからな。
ベルフェルトは、思いきり、盛大に、ため息を吐いた。
誰も見てやしないのだ。構いやしない。
・・・自業自得だ。父も、あいつの兄シャルムも。
そんなことはわかっている。わかっているが。
リュークの、少し余裕のない声が、何度も何度も蘇って。
ベルフェルトに問いかけてくるのだ。
お前は、大丈夫か? と。
いま一度、盛大に、ため息を吐いて。
ライプニヒ邸からだいぶ離れたところで、そろそろ頃合いだろうと馬車を捕まえる。
心地よい馬車の振動に身を委ね、王城に到着するまでのひととき、ベルフェルトは目を瞑り体を休める。
眼裏には、弱った姿を見せることを決してしない、意地っ張りの友の姿が浮かぶ。
・・・まったく。オレよりひとつ年上だからって、少々背負いこみすぎじゃないかい?
お前こそ、だよ。
お前こそ。・・・大丈夫なのか? リューク。
◇◇◇
ベルフェルトは国王執務室へと向かっていた。
今日は、なかなかに忙しい日で。
朝からずっと動き通しで、疲れのせいか軽い目眩までする。
元々、王弟ミハイルシュッツに見出され、彼に仕える身ではあるものの、この件に関わるようになってからは、情報を迅速に伝える必要もあってか、直接王城に赴いて国王執務室にて報告をするよう王弟殿下から言われている。
オレもリュークも、もう何度ここに足を運んだかわからない。
つい数刻前までいた部屋に再び舞い戻り、新たな報告を加える。
「・・・そうか、それでシャルム・ライプニヒは自邸の厩舎に逃げ込んだか」
オレからの報告を受けて、王は重々しく頷いた。
突然すぎる意味不明の仲間割れ、更にそこからの傷害沙汰、挙句に馬小屋での籠城、と予想していなかった展開のオンパレードで。
流石に、陛下もダイスヒル宰相も、互いに黙って顔を見合わせるしかない様子。
いやぁ、わかりますよ。おふたりの気持ち。
あいつら一体、何がしたかったわけ? ってところでしょうかね。
ホント、意味不明ですもんね。いや、支離滅裂の方か?
愚か者には愚か者なりの考えがあるのでしょうが、そんなもの、わからなくていいんですよ。
寧ろ、それで大いに結構。
わかってしまったら、それは自分も同じ、愚か者だというわけですからね。
勝手に自滅してくれた有り難すぎる敵方に当惑気味なふたりの顔を見て、何故だろう、奇妙な安堵を覚えて。
その後、ライプニヒ邸の周囲に見張りを数人配置すること、オレは邸からあまり離れられなくなってしまったリュークの補佐にまわること、ブライトン邸の周辺にさらに警備の者をまわすことが伝えられ、オレは早々に執務室を辞した。
残るは・・・賢者くずれか。
こればかりは、何をどうしたらいいのか、見当もつかんな。
ベトエルルの各地に散らばっているハトたちも、今頃どうしているのやら。
早く帰ってきてもらわないと、こちらの身が保たないのだがな。
再び馬車に揺られながら、つい、この先のことを考えてしまう。
不安ばかりの未来に、何かまだ、手を打てることはあるのか、と。
こんな事件を息子に起こされてしまったら、ファーブライエン側もこれ以上の行動は起こせまい。
そしていずれは、エイモス家にもライプニヒ家にも、正式に沙汰が下されることになる、はず。
・・・はてさて。
そのとき、オレは、オレたちは、どこにいるのやら。
オレたちは、勝てるのだろうか? 自分たちの運命に。
既に事は起きてしまって。
事態はついに動き始めた。
後はもう、シャールベルム国王陛下のお心ひとつ。
だからもう、迷うな。・・・ぶれるな。
エイモス家が行き着くであろう未来を予感して、すべてを諦めていたオレを拾い上げてくれたミハイルシュッツ王弟殿下を。
そして、その殿下が敬愛するシャールベルム国王陛下を、信じると心に決めた。
そう決めたのは、他ならぬベルフェルト・エイモス、お前自身なのだから。
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