【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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気合い

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エレアーナは自室でひとり、思案していた。

昼前に王城から戻ってきた父たちから聞いた話を、頭の中で整理するために。

何も理由を知らされぬまま、邸内に閉じ込められることになるのは辛いだろうと。
どうせなら、理由を知って、その上で自分はどうすべきなのかよく考えろ、と。
父はそう言って、王城での話をそのまま私に伝えてくれた。

婚約者争い、賢者くずれに、反対勢力、襲撃計画に、呪い。
いろいろな思惑が渦巻いていて。

・・・自分の知らない間に、たくさんの人に守られていたのね。

陛下が、父が、兄が、そして他にもたくさんの方々が、自分のために陰で色々と動いてくれていたと知って。

それまでの出来事が、少しの違和感が、目にした光景が、ひとつずつ、パズルのように綺麗にはまっていく、そんな感じ。

だから、今ならあの時の感覚も、決して気のせいではなかったのだと納得しているのだ。

南区のジュールベーヌのバザーで、殿下たちが現れるまで感じていた、じっとりとまとわりつくような、あの嫌な感覚。
北区のホルヘでは、朝から殿下たちがいらっしゃっていたせいだろうか、少し居心地が悪くなる瞬間があったくらいだったけれども。

あれはきっと、犯人の視線かなにかだったのだろう、と。

まさか、近くまでナイフを持って迫って来ていたとも、露知らず。
自分でも、鋭いのか鈍いのか、判断に苦しむところではあるけれど。
知らないとは本当に気楽なものねと、今更ながらに感心してしまう。

「やっぱり、しばらくはお屋敷にこもりきり、よね・・・」

自分が無謀に動こうとすれば、その分、自分を守ろうとする人たちが、そのために走り回ることになって。

そして、より危険な目に合うのは、きっと自分を守るために、前に出て戦ってくれる人たちの方で。

いくら強くても、それが怖くないなんて事があるのかしらと、ひとり、ぐるぐると考えを巡らせている。

だって、今になって思い返せば、バザー会場に迎えに来たときの兄の顔は、少し強張っていたと思う。
馬車に乗ってからも、しきりに窓から外を伺って。

それでも、私の前ではずっと微笑みを絶やさずに。
優しい言葉をかけ続け、安心して休んでいろ、と。

そうやって、きっとあの時、ずっと緊張しながら、警護の者たちと共に辺りを警戒してくれていたのだと、今更ながら気づいて。

・・・何も知らず、馬車の中でのんびりまったり寛いでいた私のために。

だいたい、レオンさまとケインさまが、二人揃って一日中スケジュールが空いていたなんて、不自然もいいところよね。

しかもバザーの日にちょうど合わせて、2回も。

なんであの時、不思議に思わなかったのかと、自分の能天気さに笑ってしまう。

とにかく、これ以上周囲に心配をかけないよう自主的に引きこもる事に決めて。
父にもそのことを伝えたところなのだ。

あちこちに届けていた手製の品々を目にすれば、これまで、慰問や奉仕活動で出かけた先で出会った、たくさんの人たちの顔が思い浮かぶけれど。

お薬とか衛生品とかは、誰かに頼んで届けてもらうことにして。
あ、そうだ。孤児院でハーブの苗を一緒に植える約束は、延ばしてもらわないとね。

「子どもたちも楽しみにしてくれてたから、きっと後で怒られちゃうわね」

また、今度。
いつかはわからないけれど、でもきっと。

「・・・心配かけるといけないから、しばらく忙しくて行けないって連絡しておかなきゃ」

しばらくで終わるかな。
私、もしかして死んじゃったりして。

・・・それで、もう二度と、みんなに会えなかったりして。

え? あれ? 

いやいやいや、これ、考えちゃダメなやつよね。

あ、ダメだ。怖くなってきちゃった。
自分で勝手に怖い想像して、ひとりで怖がって、何やってるのって感じよね。

どうしたらいいのか、わからない、けど。

「なんでもない、って顔、したいのになぁ」

ぽつりと、そう、独り言ちて。

だって。
こんな怖いこと、できるなら笑い飛ばしてしまいたい。

命をかけて守ってくれる人たちの後ろで、その背中の陰に隠してもらって、挙句、心配で怖くてたまらないなんて、言いたくない。

その人たちが強いから私は安心していられるって、どうせならお任せしちゃいたい。

守られるしかないなら、せめて、守りがいのある人間になってしまおうって、そう思って。

だって、私は、弱い。
身を守る術も、剣の扱いも、何も知らない。

誰かに守ってもらわなきゃ、きっと秒で死ぬと思う。

しかも、この先、相手は賢者くずれなんでしょ?

子どもとのケンカにすら勝てないようなひ弱な私に、何かできるって考える方が、おこがましい。

心配して怯えたぶん、勝率が上がるのなら、いくらだって騒ぎ立てますけど。
えぇもう、そりゃあ一晩中だって泣き喚きますけど。

でも、こんな大ごと、私ひとりが悩んでたって、何も変わるわけがないんだから。

だから、ね。

弱い私よ。よく聞きなさい。

考えてもしょうがないことで、うじうじするな。
潔く、快く、守ってもらえ。

---よし。

いけ、やっちゃえ。エレアーナ。

そう気合いを入れると、エレアーナは思いっきり、自分の頬をぱぁんと両手で引っ叩いたのだった。
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