【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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国王の執務室では、ファイと名乗っていた人物の正体を知らされ、その場に驚愕が走る。

「ワイジャーマ殿。此度の助力に心から感謝を申し上げる」

シャールベルムは、事態の報告を受け、深々と頭を下げた。

「気にしないで頂きたい。私が勝手に首を突っ込んだだけなのでな。・・・まぁ、この地に赴いたきっかけが、私を煩く追い回してきたハトであったことは事実だが」
「・・・申し訳ありません。あれらは私の配下の者たちにございまして・・・」
「いやいや、結果、色々と楽しませてもらった。それで良しとしよう」

恐縮して謝罪しようとするミハイルシュッツを、ラファイエラスが笑顔で制する。

「それにしても、そちらのいうハトとやらは、なかなかに優秀な人材が揃っていたな。私との接触に成功したものなど、これまで一人としていなかったというのに」
「お褒めに与り恐縮にございます」
「あまりにしつこく食い下がるものだから、それほどまでに忠義を立てたい主君とは一体如何なる人物かと、却って興味が湧いてしまってな。こうして名を借りてやってきたというわけだ」

卓上に出されたデュールを傾けながら、この国に来るまでのいきさつについて、そう説明した。

「さて、こちらを見てもらおうか」

そう前置きをして、懐から取り出したのは、バルクルムが用意していた緑色の液体の入った小瓶だった。

「これが、あの賢者くずれが持参していたという・・・」
「そうだ。確認したところ、ほんの少量で死に至る猛毒であると判明した。数滴飲んでも、触れても、確実に死ぬ。また揮発性も高いため、空気に紛れ込ませて毒ガスとして吸わせて殺すことも可能な代物だ」
「なんと・・・」
「確か、奴は最後に、それを瓶ごと放り投げたと聞いています。それをラファイエラス殿がお止めになったと」
「ああ。なかなかに善戦しているようだったのでな。結界だけ張って、後はそのまま黙って見ていようかとも思っていたのだが。あれは大量に死者が出そうだったので、出しゃばらせて貰った」
「いいえ、そのようなことは。ラファイエラス殿のおかげで、一人として欠ける事なく、賢者くずれを捕まえることが出来ました。本当にありがとうございます」
「礼には及ばん。・・・まぁ、そうだな。王が良いと思うのならば、この薬を預からせてもらっても?」

くるり、と小瓶を揺らしながら、シャールベルムに語り掛ける。

劇薬ゆえに扱いをどうしたものかと考えてたシャールベルムは、一も二もなく頷いた。

「結構です。ワイジャーマ殿の望まれるとおりに」

厳かに答える国王に続き、側で控えていたシュタインゼンがにこやかに質問する。

「いやぁ、しかし興味がありますなぁ。ワイジャーマ殿は、その劇薬に何か良い使い道でも見つけられたのでしょうかな?」
「おい、シュタインゼン。口を慎め」
「構わんよ」

気を悪くした風もなく、ラファイエラスが手を振って制止の声を留めた。

「その通りだ、シュタインゼン。私はこの薬を使いたい相手がいるのだよ」
「ほう・・・。使いたい相手、ですか」

薬の猛毒性について聞かされた今となっては、その『使いたい相手』がその後どうなるかは誰にも容易に想像がつくことで。

「正確に言えば、私はそのためにこの地に残っていたと言ってもいいのかもしれん。ここには、あまりにも善良な者ばかりが揃いすぎているのでな。ふと心配になって帰りそびれてしまった」
「心配、とおっしゃられますと?」

デュールのグラスをくいっと呷ってから、ラファイエラスはその場にいる全員の顔を見回した。

「国王を始めとして、皆が皆、優しすぎるのだ。施政に温情は必要だが、時として、それがどうしても通じぬ相手がいる。だが、そんな相手に対しても最後通牒を突き付けることが出来ない」

誰も言葉を返さなかった。
恐らく、この場にいる者全員の頭の中に、同じ人物の顔が浮かんでいただろうから。

「だが、私は君たちのそんなところが存外気に入ってしまってな」

右手にまだ持ったままの小瓶を持ち上げ、中身をじっと見つめる。

「気づいているかもしれんが、私は生来気まぐれでな。聖人君子とは程遠い性格だ。と言っても、あんな賢者くずれの下衆野郎のような愚かな行為に走ろうなどとはゆめゆめ思わぬが、それでも愚か者にはそれ相応の鉄槌が下るべきだと思うし、下すのが好きだ」
「なるほど、お好きなのですね。なるほど、なるほど。そういうことですか」
「そういうことだ」

シュタインゼンとラファイエラスが妙に気の合う会話をしているところを、呆然とした顔で眺めていたリュークザインだったが、ラファイエラスが急にリュークザインの方に顔を向けてこんなことを言った。

「リュークザイン。私はあの時、お前を助けたいと言わなかったか? お前をなかなかに気に入っている、とも」
「は・・・?」

あの時。

リュークザインは記憶を辿る。
そして思い出したように、小声で呟いた。

「・・・厩舎で話をした時のことでしょうか」
「そうだ。私はこう言ったろう? ・・・恐らくは、最後まで非情な手段を取ることは出来ないであろうお前の助けになりたいとな」

ラファイエラスは、ひた、とリュークザインを見据えた。

「時が来たから、約束通りお前に聞こう。・・・さて、私は必要か?」

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