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デビュタント
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「よく似合っているわよ、エレアーナ」
「本当? おかしい所はありませんか? お母さま」
鏡の前でくるりと回り、ドレスを確認する。
エレアーナの瞳と同じ碧色のドレスには、さし色としてケインバッハの瞳の色である銀の糸を使って刺繍を施してある。
首元はハイネックになっていて、胸元にかけて薄く上質なレースが使われている。
裾に向かってふわりと広がるデザインは、ゆったりとしたドレープが幾重にも重なり、歩くたびにふわりと揺れる。
肩と裾の部分に施された銀糸の刺繍は、細やかなステッチで唐草と花々の凝った意匠が作り出されており、光に当たるときらきらと宝石のように反射していた。
「完璧よ。ケインバッハさまが貴女に見惚れる姿が目に浮かぶようだわ」
「いやですわ、お母さまったら・・・」
仕上げに銀の台にペリドットを贅沢にちりばめた首飾りに、それとお揃いの耳飾りをつけ、手袋をはめる。
エントランスで待っていたルシウスやアイスケルヒは、階段から降りてきたエレアーナの姿に目を細めた。
「この可愛らしくも美しい淑女のデビュタントを、私がエスコートできないとは残念だな」
柔らかな微笑みを浮かべてはいるが、アイスケルヒは少し残念そうだ。
「まぁ、お兄さまったら思ってもいないことを。わたくしのエスコートなんて、頼んだってしてくださらないでしょうに。今夜は、アリエラさまを初めてエスコートなさるのでしょう? お兄さまがずっと楽しみにしてらしたのをわたくしは知ってますのよ」
本人はうまく隠しているつもりかもしれないが、最近アリエラたちが訪ねてくると、なんだかんだと用事を作ってアイスケルヒが会いに来ているのもバレバレなのだ。
気まずそうに眼鏡をくいっと押し上げて視線を逸らすけれども、今やアイスケルヒも他の家族から生温い目で見守られていることに気づいていないのだろうか。
ちらりと時計に目を走らせ、時間を確認したアイスケルヒは上着を手にした。
「では父上、私はマスカルバーノ家に向かいます。また会場でお会いしましょう」
「ああ。ようやくお前がご令嬢と踊る姿が見れると思うと感無量だ。頑張れよ」
「・・・はい」
父の揶揄に頬を赤らめながら、アイスケルヒは先に用意した馬車でマスカルバーノ家へと向かった。
それと入れ違いにダイスヒル家の紋章入りの馬車がブライトン邸に到着し、中からケインバッハが降りてきた。
今夜デビュタントを迎えるエレアーナのエスコート役を務めるためだ。
「お待ちしておりましたわ、ケインさま。今夜はよろしくお願いいたします」
エントランスで出迎えたエレアーナは、そう挨拶の言葉をかけたのだが、ケインバッハはエレアーナのドレス姿を見るなり、眼を大きく見開いてしばしの間沈黙していた。
「・・・あの、ケインさま? わたくし、どこか変なところでもございますか?」
心配になっておずおずと尋ねてみれば、はっと我に返ったケインは優しい笑みを浮かべると「よく似合っている」と答えた。
「・・・ありがとうございます」
最近ケインバッハの褒め言葉に、なんだかくすぐったくなってしまって仕様がない。
似合っているといえば、ケインさまこそ正装がよくお似合いだわ。
今夜のケインバッハの装いは、襟と袖口に銀糸の刺繍を施した黒の正装服で、袖口にはやはりペリドットのカフスがついている。
長い黒髪は、いつものように後ろで一つに束ねているが、今日は前髪もいつもよりきっちり整えられていて、それが更に彫刻のような美しさに磨きをかけていた。
「ケインさまも、今夜はいつにもまして麗しゅうございますわ」
「・・・? 麗しいのは君だろう、エレアーナ嬢。君はいつも美しいが、今日の美しさは一段と際立っているな。輝かんばかりだ」
「・・・えと、そんなことは・・・ないですよ?」
ケインバッハの無意識の褒め言葉は、相変わらず心臓に悪くて。
どぎまぎするから、いつもみたいに言葉が返せなくなる。
恥ずかしくて俯くと、背後からわざとらしい咳払いが聞こえてきた。
「あー、邪魔をするつもりはないのだがね、そろそろ王城に向かいたいのだ。・・・よろしいかな?」
母はなんだかにこにこと嬉しそうにこちらを見ているが、ルシウスの方は呆れ顔だ。
慌てて外套を羽織って馬車に乗り込み、夜会の会場である王城へと出発した。
馬車の中でも頻繁に視線は交差するものの、やはり気恥ずかしくて会話は途切れがちで。
今となっては、エレアーナよりもケインバッハの方が口数が多いかもしれない。
無自覚にエレアーナを褒めるケインの言葉に、恥ずかしくて口ごもって。
照れて俯いて。赤くなってからかわれて。
でも、不思議なことは。
それでも、いつも傍にいたくて。
恥ずかしいのに、照れくさいのに、胸が苦しいのに。
それでも、この人の傍にいたくてたまらない。
涼しげな眼差し、すっと通った鼻梁、月を映し取ったような美しい銀の瞳、風になびく黒の髪。
最近また背が伸びたようで、少年よりも青年という言葉の方が、今の彼にはふさわしい。
自分が想いを寄せた方が、同じように自分を想ってくださるなんて、どれほどの奇跡なのかしら。
そんな事を、最近よく思うのだ。
城に到着し、エレアーナとケインバッハは手と手を重ね、歩を進める。
会場に足を踏み入れると、人々の視線が入って来たふたりに集中する。
エレアーナは艶やかな微笑みを浮かべ、ケインバッハは、その笑顔を愛し気に見つめる。
今夜、エレアーナ・ブライトンは、婚約者であるケインバッハ・ダイスヒルにエスコートされ、デビュタントのダンスを踊るのだ。
「本当? おかしい所はありませんか? お母さま」
鏡の前でくるりと回り、ドレスを確認する。
エレアーナの瞳と同じ碧色のドレスには、さし色としてケインバッハの瞳の色である銀の糸を使って刺繍を施してある。
首元はハイネックになっていて、胸元にかけて薄く上質なレースが使われている。
裾に向かってふわりと広がるデザインは、ゆったりとしたドレープが幾重にも重なり、歩くたびにふわりと揺れる。
肩と裾の部分に施された銀糸の刺繍は、細やかなステッチで唐草と花々の凝った意匠が作り出されており、光に当たるときらきらと宝石のように反射していた。
「完璧よ。ケインバッハさまが貴女に見惚れる姿が目に浮かぶようだわ」
「いやですわ、お母さまったら・・・」
仕上げに銀の台にペリドットを贅沢にちりばめた首飾りに、それとお揃いの耳飾りをつけ、手袋をはめる。
エントランスで待っていたルシウスやアイスケルヒは、階段から降りてきたエレアーナの姿に目を細めた。
「この可愛らしくも美しい淑女のデビュタントを、私がエスコートできないとは残念だな」
柔らかな微笑みを浮かべてはいるが、アイスケルヒは少し残念そうだ。
「まぁ、お兄さまったら思ってもいないことを。わたくしのエスコートなんて、頼んだってしてくださらないでしょうに。今夜は、アリエラさまを初めてエスコートなさるのでしょう? お兄さまがずっと楽しみにしてらしたのをわたくしは知ってますのよ」
本人はうまく隠しているつもりかもしれないが、最近アリエラたちが訪ねてくると、なんだかんだと用事を作ってアイスケルヒが会いに来ているのもバレバレなのだ。
気まずそうに眼鏡をくいっと押し上げて視線を逸らすけれども、今やアイスケルヒも他の家族から生温い目で見守られていることに気づいていないのだろうか。
ちらりと時計に目を走らせ、時間を確認したアイスケルヒは上着を手にした。
「では父上、私はマスカルバーノ家に向かいます。また会場でお会いしましょう」
「ああ。ようやくお前がご令嬢と踊る姿が見れると思うと感無量だ。頑張れよ」
「・・・はい」
父の揶揄に頬を赤らめながら、アイスケルヒは先に用意した馬車でマスカルバーノ家へと向かった。
それと入れ違いにダイスヒル家の紋章入りの馬車がブライトン邸に到着し、中からケインバッハが降りてきた。
今夜デビュタントを迎えるエレアーナのエスコート役を務めるためだ。
「お待ちしておりましたわ、ケインさま。今夜はよろしくお願いいたします」
エントランスで出迎えたエレアーナは、そう挨拶の言葉をかけたのだが、ケインバッハはエレアーナのドレス姿を見るなり、眼を大きく見開いてしばしの間沈黙していた。
「・・・あの、ケインさま? わたくし、どこか変なところでもございますか?」
心配になっておずおずと尋ねてみれば、はっと我に返ったケインは優しい笑みを浮かべると「よく似合っている」と答えた。
「・・・ありがとうございます」
最近ケインバッハの褒め言葉に、なんだかくすぐったくなってしまって仕様がない。
似合っているといえば、ケインさまこそ正装がよくお似合いだわ。
今夜のケインバッハの装いは、襟と袖口に銀糸の刺繍を施した黒の正装服で、袖口にはやはりペリドットのカフスがついている。
長い黒髪は、いつものように後ろで一つに束ねているが、今日は前髪もいつもよりきっちり整えられていて、それが更に彫刻のような美しさに磨きをかけていた。
「ケインさまも、今夜はいつにもまして麗しゅうございますわ」
「・・・? 麗しいのは君だろう、エレアーナ嬢。君はいつも美しいが、今日の美しさは一段と際立っているな。輝かんばかりだ」
「・・・えと、そんなことは・・・ないですよ?」
ケインバッハの無意識の褒め言葉は、相変わらず心臓に悪くて。
どぎまぎするから、いつもみたいに言葉が返せなくなる。
恥ずかしくて俯くと、背後からわざとらしい咳払いが聞こえてきた。
「あー、邪魔をするつもりはないのだがね、そろそろ王城に向かいたいのだ。・・・よろしいかな?」
母はなんだかにこにこと嬉しそうにこちらを見ているが、ルシウスの方は呆れ顔だ。
慌てて外套を羽織って馬車に乗り込み、夜会の会場である王城へと出発した。
馬車の中でも頻繁に視線は交差するものの、やはり気恥ずかしくて会話は途切れがちで。
今となっては、エレアーナよりもケインバッハの方が口数が多いかもしれない。
無自覚にエレアーナを褒めるケインの言葉に、恥ずかしくて口ごもって。
照れて俯いて。赤くなってからかわれて。
でも、不思議なことは。
それでも、いつも傍にいたくて。
恥ずかしいのに、照れくさいのに、胸が苦しいのに。
それでも、この人の傍にいたくてたまらない。
涼しげな眼差し、すっと通った鼻梁、月を映し取ったような美しい銀の瞳、風になびく黒の髪。
最近また背が伸びたようで、少年よりも青年という言葉の方が、今の彼にはふさわしい。
自分が想いを寄せた方が、同じように自分を想ってくださるなんて、どれほどの奇跡なのかしら。
そんな事を、最近よく思うのだ。
城に到着し、エレアーナとケインバッハは手と手を重ね、歩を進める。
会場に足を踏み入れると、人々の視線が入って来たふたりに集中する。
エレアーナは艶やかな微笑みを浮かべ、ケインバッハは、その笑顔を愛し気に見つめる。
今夜、エレアーナ・ブライトンは、婚約者であるケインバッハ・ダイスヒルにエスコートされ、デビュタントのダンスを踊るのだ。
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