【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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ベルフェルトの考察

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「お前という男は、頭がいいのか悪いのか分からないな」

苦笑と共に漏らした言葉。

その時に受けたインパクトは、あいつが去った後もなかなか消えなかった。

・・・真面目な奴だとばかり思っていたが。

ベルフェルトの口元には、思わずといった笑みが浮かんでいた。

いや、真面目さ故か。
あんな間の抜けたところがあるとはな。

ーー『コクレバ』という語が何を意味するか、貴方ならば知っているのではないか?ーー

誰でもいい。
真顔で聞いてきたあいつの眼前で、吹き出さなかったオレを褒めてほしいものだ。

よくよく事情を聞いてみれば、その発言の主はライナスバージらしい。

・・・なるほどね。
殿下がらみか。

それであいつも必死になっている訳だな。
自分が幸せなだけに、殿下のためにと余計に力が入るのだろう。

確かに、普通ならば有り得ない話だからな。

王太子殿下の婚約者の最有力候補者であり、殿下自身も想いを寄せられていたご令嬢を、どうしたことかあいつが手中にするなどとは。

全く、ラファイエラスさまの仰る事は真実だよ。
この国にはお人好しが多すぎる。

殿下も殿下だ。
何もわざわざ、告白のお膳立てなどしてやる事はなかったのに。

家柄、特質、容姿、人柄。
エレアーナ嬢が王太子妃として適任だったのは周知の事実だった。
そして、あのまま何もしなければ、殿下の想い人は順当にあの方の手に入ったであろう事も。

まぁ、そうは言っても殿下の決定に些かの不満がある訳でもないのだが。

むしろ、如何にも清廉潔白な殿下らしいと納得してしまうくらいで。

殿下にしても、賢者くずれの登場がなければ、恐らくあそこまで恋に臆病になることはなかった筈だ。
きっと真っ直ぐにエレアーナ嬢を想い続けることが出来ただろう。

王家に嫁ぐ以上、暗殺の危険が他よりはるかに高くなるのは、相手が誰であろうと紛れもない事実だ。

だが、その事実を目の当たりにした時、王太子妃になりたいなどという野心を欠片も持たない彼女に、好きだという気持ちを押し付けるのは嫌だ、と、殿下ならば思うであろうという事も推察できる。

・・・まぁ、あいつの意見には全く同意するしかない。
殿下は幸せになるべきお方だ。

だが、『コクレバ』はなぁ。
殿下がコクレバしたくならなければなぁ。

ふむ、としばし思案する。

確かに、殿下はカトリアナ嬢に一目置いておられる。
側から見ても、あからさまに好意を示しておられるのが丸わかりなくらいに。

なにせ、カトリアナ嬢がデビュタントを迎えれば、常に側に置くと公言しておられる程だ。
だが、不思議な事に、どうやら殿下はまだ、ご自分のお気持ちを恋だと自覚してはいらっしゃらないようで。

前の失恋で、そっち関係のセンサーを自ら遮断しているのかもしれないが、そうだとしたらまずは。

殿下にご自分のお気持ちを自覚して頂かねばなるまい。
手伝えるところがあるとするならば、そこしかないだろう。

そのためには・・・。

と、ここまで考えて、また苦笑が漏れた。

これではあいつの事を馬鹿に出来ないな、と。

『コクレバ』というたったの一言のために、必死になって駆けずり回っていたあいつの顔が思い浮かぶ。

ーー自分の無知が恥ずかしいのだが、もし知っているのならば教えを請いたいとーー

神妙な面持ちで、恥ずかしいのか少し赤面しつつ、そう言った。

あんな弟がいたら、さぞや可愛かっただろうな。

普段、無表情がデフォルトの男が気恥ずかしそうに質問してきた姿は、まるで主人と逸れた子犬のようで。

あいつが皆に可愛がられるのは、ああいうところがあるからかもしれない。
その必死さに、ついつい、このオレが柄にもなく手を差し伸べたくなる。

殿下も、ライナスバージも、カーン騎士団長も、国王陛下さえも。

まったく不思議な男だ。
気がつけば、その一途な懸命さに皆が絆されている。

確かに、奴は愛すべき人間で。
それは確かなのだが。

その最大の理由は、奴の意識の持ちようにもあるのだろう。

自分がどれだけ恵まれているか。
どれだけ周りから大切にされているか。
自分のために、どれだけの犠牲を払ってくれたのか。

あいつは、決してそれを軽くは考えない。
当たり前だと思わない。

心から、最大限の感謝の念を持って。

そして、絶対に忘れない。
生涯、その感謝を抱き続けるのだ。

そこまで考えて、ふ、と笑みが漏れる。

・・・仕方ない。
一肌脱いでやるとするか。

このままでは、あいつは暫く『コクレバ』について悩み続ける羽目になるかもしれないし、殿下にも早く春が来て欲しいしな。

「まぁ、オレの一存で動くのもなんだし・・・。陛下には、一言、報告がてらお伝えしておくとしようか」

陛下はきっとお喜びになるに違いない。
いや、面白がると言うべきか。

とにかく、愉快そうに笑う陛下のお顔が浮かんだ事だけは確かだ。

「そうと決まれば」

オレは踵を返して、陛下の執務室へと歩を進める。

いつもよりも明るい気分で扉をノックして。

「失礼いたします、陛下。折り入ってご相談が」

認めよう。
あの時のオレはきっと、満面の笑みを浮かべていたと思う。

こうして、ライナスバージの発した一言の真意を図ろうと動き回ったケインバッハにより、妙なところで膠着していた事態は、これまでとは違った方向へと転がっていくことになる。

立役者となるのは他でもない、このオレだ。
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