【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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おじゃま虫

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シュタインゼンは、宰相の執務室の机に座り、凄まじいスピードで書類に目を通し、てきぱきと処理していた。

ちらり、と同じ室内で仕事をする可愛い息子を見れば、何やらしきりに時計を確認して、そわそわしている。
口元は微かに緩められて。

・・・随分と表情が出て来たよねぇ。

そんなことを思いながら、息子の落ち着きのない態度にも気づかない振りをして、さりげなく観察を続けていると。

トントン、と扉をノックする音。

途端にケインバッハの表情が、ぱあっと明るくなる。

・・・分かりやすい。

遠慮がちに扉が開き、エレアーナがひょこっと顔を出す。

ケインバッハは持っていた書類をさっと机に置き、まるで尻尾を振る子犬のように、嬉しそうにエレアーナの下へと歩み寄る。

「お忙しい所ではなかったかしら。あの、お昼をお持ちしたのですけれど」
「いや、ちょうど今、ひと段落着いたところだ。さぁ、入って」

ケインのお尻に尻尾が見えるような気がするのは、私だけかな。

息子のあまりに可愛すぎる反応に、本人には到底言えない妄想までする始末だ。

さて、シュタインゼン・ダイスヒルは、息子、ケインバッハが大好きである。
特に構い倒すのが。

そして勿論、愛息ケインの婚約者、エレアーナ嬢のことも大好きである。
見ているだけで心が癒されるし、やることなすこと全て可愛く美しい。

何より、ケインバッハがエレアーナ嬢と二人っきりになりたがるから、それを邪魔するのが面白くて堪らない。

だから今日だって、気を利かせて退出なんて勿論しないし、誘われてなくたってご相伴に与るつもりでいる。

エレアーナが、接客用のテーブルに準備してきた食事を出し始める。
飲み物、食べ物・・・どうやら仕事の邪魔にならないように、と、気軽に手でつまんで食べられる仕様の食事を用意してくれたようだ。

うんうん。相変わらず気が利くねぇ。

こんなよく出来たご令嬢が、もうあと数か月でダイスヒル家の義娘になると思うと、楽しみで楽しみで仕方がない。

邸でも、でれでれのケインが見られるのか・・・。

そんなことを考えてると、自然と頬が緩んでしまう。

よっこいせ、と、当然のように、テーブルに着く。

ケインは少しだけ嫌そうな顔をしたが、勿論なにも言ってこない。
エレアーナ嬢はシュタインゼンの性格をよく分かってるようで、バスケットの中から皿やコップを取り出すと、シュタインセンの前に置いた。

「ありがとう、エレアーナ嬢。いやぁ、凄く美味しそうだねぇ」

面の皮が厚いのが自慢だ。
ケインの氷のような冷たい視線など、気にもならない。

むしゃむしゃと可愛い義娘の用意してくれた昼食を頬張り始める。

「うーん、これはいい。とっても美味しいよ。ほら、ケインも頂いたらどうだね?」

にこにことケインに話しかければ、諦めたように目の前にある皿の一つに手をつけた。

そうそう。無駄な闘いはしない方がいいんだよ。

食事はケインもお気に召したようで、一口食べて、目を瞠って、目を細めながらもぐもぐしている。

あああ、ケインはいくつになっても可愛いなぁ。

と、その時。

「ケインさま。よろしければこちらも」

エレアーナ嬢が別のおかずを一つ差しだした。
味見をしてほしかったんだろう。

一口大にカットして、フォークに刺した状態で。
そのままフォークを受け取れば、ぱくりと食べられるように、と。

おやおや、甘やかしてますねぇ。
さすが、絶賛婚約中。

と、心の中で冷やかしていたら。

ケインが、すっと体を傾けて。
エレアーナ嬢の側まで顏を寄せると、口を開けて、ぱくん、とかぶりついた。

エレアーナ嬢が差しだしたフォークを受け取って食べるんじゃなくて。
エレアーナ嬢の手から、直接。

あはははは。
流石だ。我が息子よ。

無意識って怖い。

エレアーナ嬢は真っ赤になってるけど。
ケインは何事もなかったような顔で食事を続けている。

エレアーナ嬢は完全に固まっているな。

あ、ケインがエレアーナ嬢の異変に気付いた。
よしよし。動きが止まったエレアーナ嬢を見て、流石のケインも自分が何をしたか分かって・・・なかった。

少し怪訝な表情を浮かべたかと思ったら、ああ、と何かに気付いたらしく。
自分の皿のおかずを一口大にカットし、フォークに刺すと、エレアーナ嬢に差し出した。

ほうほう。そう来たか。

どうやら、お返しを待っているのか、と思ったようだな。
目の前にフォークを差しだし、にっこり笑いながら、エレアーナ嬢が口を開けるのを待っている。

あらら、エレアーナ嬢は、耳まで真っ赤だ。

大丈夫?
ちゃんと息は出来てるかい?

ケインは何にも考えてないからね。
エレアーナ嬢も、どうぞ気軽に、あーん、とかぶりついてごらん。

エレアーナ嬢は、意を決したように口を開いた。
ぱくん、とケインのフォークから食べ物を頂いて。

ケインは、それはそれは幸せそうに微笑んだ。

あー、面白い。
あー、楽しい。

これですよ、これ。

これだから二人きりの時間を邪魔するのを止められないんだよね。
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