【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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嗅ぎ回る影

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「・・・それは本当かい? ケイン」

思わず返したレオンハルトからの問いに、向かいのソファに座るケインバッハは黙って首肯した。

「そうか・・・。鼠め、孤児院まで嗅ぎ回り始めたか」
「・・・だが情報は何も掴めなかった筈だ。バークリーが賢者くずれの世を欺く姿として働いていた事は、口外を固く禁じられているからな」
「エレアーナ・・・ダイスヒル夫人が孤児院と今も深く関わりを持っていてくれて助かったよ。そんな情報を掴んでくれるなんてね」

賢者くずれがリーベンフラウン王国に潜伏するに当たり、バークリーと名乗ってジュールベーヌ孤児院に勤めていた事を知る者は少ない。

秘密とは漏れるものである故に、それを知る者が現れたとしても何ら不可思議なことではないし、解決した後となっては今更さほどの目くじらを立てる事でもない。

だが、新しくそれを探る者がいるとなれば話は別だ。

それは、過去の噂話への関心や好奇心などではなく、今現在、一つの力として彼を手に入れようとしている事を意味するのだから。

「ラファイエラスさまが残して下さった罠が、情勢を見定めるのにこうも役に立つとはね」
「・・・そうだな」

正直、ケインはレオンハルトが思っていたよりも落ち着いている事に驚いていた。

ここに来るまで、ケインは酷く心配していたのだ。
カトリアナが実際に害を受けそうになって、余程取り乱しているのではないかと。

だが、予想に反してレオンハルトはカトリアナを守り切る事を強く固く決意していて。

その姿にケインは、ほ、と心から安堵したのだ。

だがもう一つ、伝えなければならない事がある。

ケインバッハは姿勢を正し、再び口を開いた。

「鼠が嗅ぎ回っているのはジュールベーヌだけではないようだ」

レオンハルトが目を瞠る。

「孤児院の職員から情報が得られなかった為だろう。卒院した子どもたちとの接触があったらしい」
「・・・どうして分かったんだい?」
「レアナの建てた工場、あそこに卒院後の子たちが大勢勤めているだろう? そこからの報告だ」
「・・・成程」

口元に拳を当て少し考え込む様子を見せたが、やがて顔を上げた。

「子どもたちには箝口令を布いていない。まぁ、大した内容ではないだろうけど、少しは情報が流れたと見る方が正解だろうな」
「俺が直接出向いて確認して来たが、訪ねて来た人物は『昔世話になった先生に一言お礼が言いたくて探し回っている』と言っていたそうだ。自分も孤児だったという設定で」
「・・・それは、つい教えてあげたくなるね」

情に訴えるやり方は、なかなかにえげつない。
特に相手は父母の愛に飢えている孤児だ。

親切心でつい話してしまうのも道理だろう。

「容姿とか、年齢とか、背格好とかの身体的特徴を主に聞かれたそうだ」
「そうか。奪取の際の確認として、かな」
「恐らく」

今、この部屋にいるのはレオンとケイン、そしてライナスの三人だ。

ベルフェルトは今や多忙を極めているらしく、時折遠くから侍従姿を見かけるのだが、兎に角あちこちに潜り込んでいるようで、なかなか昼間に話す事は難しい。

リュークザインは、今日、新婚休暇が明けて三日ぶりに復帰したばかり。

ただでさえ悪いと思っているのに、これ以上忙しくさせるのもなぁ・・・。

どうしようかと悩みつつ、すっかり冷めてしまったお茶を手に取る。
そこへケインが口を開いた。

「・・・レアナが申し訳ないと言っていた。言伝の形になってしまって、と」

律儀なエレアーナらしいと思いつつ、レオンハルトは苦笑する。

「なに言ってるの。今は悪阻が酷くて大変な時期なんだろ? なのにリュークザインの式にはちゃんと出席してたし、こうやって調査に協力もしてくれてる。とても感謝してるよ」
「ありがとう。伝えておくよ」

頬を緩める親友に、レオンハルトは将来の自分を重ねる。

エレアーナが狙われていたあの時を乗り越えて、今のケインとエレアーナの幸せがある。
今や、来年には生まれてくる赤子を思って、こうやって幸せを噛みしめている。

自分とカトリアナも同じだ。
そうレオンハルトは思った。

今のこの時局を乗り越えたその先は、きっとこの夫婦のような温かい幸せが待っている。

そのためになら、どれだけでも足掻く。

ラファイエラスさまの残した罠を存分に利用して。
平和で穏やかな未来を勝ち取って。

そうして愛しいカトリアナを妃に迎えるのだ。
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